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第90話 置き去りにされた人たちの災難……ってまたあの人?


「ねぇねぇ、これ可愛くない?」

リャナンが行商人の屋台でアクセサリーを指し示す。


「ん……」

リムアンもそれを覗いて頷く。


「姉貴たちさぁ、早くエーレンブルグに戻ろうぜ」

ルーダが面白くなさそうに言う。


「あ~あ~、るーちゃんはガサツでいけないんだぁ。もうちょっとおしゃれに興味持ってもいいんじゃないのぉ」

「別に個人の自由だろ?オレは機械いじりとか鍛造が楽しいんだからさ」


「そんなこと言ってると、ハル、私がとっちゃうよ?」


「はぁっ!?」

リャナンの爆弾発言にルーダが声を上げる。

黙って聞いていた他のメンバーも目を見開いてリャナンを見る。


「うふふふ、冗談だよぉ~」


ケラケラ笑いながらリャナンが屋台から離れる。


「あ、クレープ売ってるぅ、買っちゃおうかなぁ」

そんなことを言いながら軽い足取りで市場を歩く。


「お、おい……」

「おう。なんか、とんでもないことになってるぞ」

フィンレーとスヴェンが囁き合う。


「いや~まいったね。僕は、どうしたらいいのかなぁ」

「ハルは『友達』だから、応援したいんだけれど」

「血の雨が降らないことを祈るしかないね~」

相変わらず飄々と言うアルセイスに、コリガンとオーレが続ける。


「ハル、モテ期が来てるんだな……」

「羨ましいな」

「そういえば、幼馴染のあの子、『ハンナ』ちゃんとはどうなんだろ」

「え?ハルって彼女いたの?」

「うわぁ、ヤバいね。それって何股っていうの?」

「刺されるの確定だから『刺す股』だな」

「それ、違うだろ」


男性陣が囁き合う。

「クロエ姉もちょっと興味ありげだったな」

「え?もしかして『年上キラー』なのか?」

「あ、ちょっとわかるかも。母性本能くすぐるタイプだもんね」

「アルセイス、わかるんだ……」

「さっすがぁイケメンは違うなぁ」


それから男どもは一斉にため息をつく。


『心底羨ましいぃ』


遠い空の下、孤独に芋畑を耕しているハルがくしゃみをしたのは言うまでもない。



どーーーん!


黒い塊が飛んでくる。


「うわわわわわわっ!」

「避けろっ!」

「って、避けられないって」


木々を薙ぎ倒しながら迫る重力の矢。


「くそったれが!」

スヴェンが盾を構える。

「盾技【絶対防御アンブレイカブル】!」

魔力を盾に集め、自身もはね返されないように力を込める。


「スヴェン!?」


スヴェンが矢を防いだ瞬間だった。

「ぐああああああああっ!」


盾に当たった途端に、半径5メートル圏内を重力波が襲う。

防いだスヴェンだけではない。

彼が背に庇ったメンバーまでも巻き添えを食らう。


そして、彼らが圧し潰されそになっている間も、第二、第三の矢が迫る。


どーーん!どどーーん!


エーレンブルグ領内に入る手前で襲撃された。

黒い重力の矢の射手。

ランドルフ・エッガーこと「エガちゃん」だ。


「ハルが撃退したって聞いていたけれど」

「一週間経ってるからな、復活したんだろっ」


重力波の放出は数十秒ほどか。

圧迫から解放されたスヴェンが呟く。

巻き込まれたコリガンとオーレは気絶している。


「しっかり」

アルセイスとリムアンが倒れている二人に回復の魔術をかける。


「リャナン、相手の位置は特定できないか?」

フィンレーの言葉にリャナンが首を振る。

「さっきからやってるけどダメ。私の探知範囲外か、高等な『隠蔽』スキルを使っているか」

「マジかよ……」


「矢が射出されるまで分からないってこと?」

「そうなる」

「って、あのスピードで飛んでくるのさ、放たれたら即着弾するよね」

アルセイスの問いにリャナンが頷く。

「じゃあ、コレットが位置特定できたのって何なの!?」


「たぶん、コレットも『視力』に関するスキル持ちだと思う」

リムアンが呟く。


「……そうか」

フィンレーが頷く。


そして、カラっと笑った。

「すっげえな!コレットって」


「だよね~、私さ、ビックリ」

リャナンも笑う。


「はぁ、僕さぁ影薄くなってくよ」

アルセイスがため息をつく。


「それを言うなら、僕の存在価値なんて……」

意識を取り戻したコリガンが呟く。


「いやさ、僕の立場にもなってよ。まだいいとこ見せてないんだからさぁ」

オーレが苦笑いする。


「コレットがすごいの分かったけどっ!状況考えろよ」

ルーダが叫ぶ。


黒い矢が迫ってくる。

「受けられない。避けるしかねぇ!」

スヴェンの指示が飛ぶ。


みんなで散開する。

狙いを分散する狙いだ。

これで来る方角に狙撃手がいることが分かる。


「って、おおいっ!」


スヴェンが叫ぶ。

それも無理はない。

四方からほぼ同時に矢が迫ってくる。


「どっから射ってんだよ!」


散開した彼らの中央に矢が突き立ち、広範囲の重力波を放つ。

全員が潰される。



(僕は、僕はどうしたら……)


コリガンは思案する。

(僕は何の力もない……ただの『引きこもり』だ)


(ハルに「勇気」をもらって、兄弟たちに助けてもらっているのに)


フェンリルナイトの「団員証」。

アミュレットがこぼれ落ちる。


『なんで、特別でなきゃいけないんだ?一番でなきゃだめなんだろうね?生きてるだけでいいってさ、誰かが許してくれなきゃだめなのかな』


(親父……でも、僕だってさ誰かの「特別」になりたいんだよ)


(親父はさ、ふて腐って寝てようが引きこもってようが「それはそれで」って許してくれるけど、それでも僕にも「意地」はあるんだ)


「くっそ、破れかぶれだっ」

ルーダが連射ボウガンを周囲に放つ。

だが、効果はなく、容赦なく矢が飛んでくる。


「こっちより射程距離が長いのかっ!」


驚く間に矢が突き立ち、重力波を放つ。



これで何度目か……

さすがに体力の限界が来ている。

回復魔術を使い続けているスヴェン、リムアンとアルセイスも魔力が尽きかけている。


「ちくしょぅぅ」

何もできないでいるオーレが涙ぐむ。


(兄弟にこんな顔させちゃダメだ)


(僕は「引きこもり」だ。世の中から姿を隠して怯えるしか能のない、逃げ出した奴なんだ)


(でも、でもさ、親父っ、こんな僕にも力を貸してくれよっ!)


「ちょ……なに、あれ!?」

リャナンの絶望する声。

大きく弧を描いて上空から下りてくる重力の矢。

それも数十本。

「くそったれがぁ」

絨毯爆撃ともとれるその攻めに、フィンレーが呻く。


「リムが防ぐ!」

リムアンが【アイアクス・スクトゥム(アイアスの盾)】を展開しようとする。


(それじゃ、ダメだ。矢をシャットアウトできるかもしれないけれど、重力波までは)


黒い波が降り注ごうとした時だった。


妙にバカっぽい声がコリガンの頭に響く。


―――――マクスウェル家、家訓!


ひとつ、「いただきます」「ごちそうさま」は必ず言え。今日のウ●コは昨日のおかげさま。


ひとつ、お前は木の股から生まれたか?父ちゃん母ちゃん恨んだってしょうがない。


ひとつ、他人がどうだとか口にするな。そんなの負け犬の遠吠えだ。


ひとつ、仲間を侮辱する奴はぶん殴っても構わない。けれど殴り返されることを忘れるな。


ひとつ、偉そうな奴はおだてておけ。財布の紐も警戒も緩くなる。


ひとつ、迷ったら自分の中の鏡に向かって聞いてみろ。そこに映った自分は誇れるのか。


ひとつ、お前は誰だ?そんなの決めるのお前だけ。誰も責任とっちゃくれない。


ひとつ、ヤバいと思ったら逃げちまえ。生きていたらどうとでも言える。


(そうだよ!親父!いつだってそうさ!僕には「逃げ」の一択しかないんだよ!)


そう心の中で叫んだ時だった。


アミュレットが青白い光を放つ。

胸の内で月を追う銀の狼が吠えた。



「……なんだ、これ」

「ここどこだよ」

「え?え?なに、なにが起きたの?」

「うわっ、なんか薄暗いね」

「さっきまでの場所と違う?……でも、外はさっきと同じ景色」

「上も下もわからないな」

「というか、なんかふわふわしてない?」


コリガンが目を開けると、薄いカーテンのようなものに覆われた空間にいた。

立方体の中で、体がふわふわと浮いている。

空間の壁面はさっきまでいた場所の景色を映している。


まるで自分が引きこもって外の世界を眺めていた時のようであった。


「コリガン?」

リムが驚いたようにコリガンを見る。

そう、彼の瞳がハティと同じ琥珀色になっていた。


外の景色が嘘みたいに現実味がない。

黒い重力の波が覆いかぶさってくる。

黒く塗りつぶされ、周りが圧し潰されていく。

だが、この空間には関係ないかのようだ。


「コリガンの……力?」

「え?違うと思う……たぶん親父の…『現実逃避』?」


「なんか、カッコ悪ぅ!?」

一同が声を上げた。


「だよ、ね―――――」

コリガンが言いかけた瞬間だった。


周囲の景色が揺らぐ。

どこかで見たような景色に切り替わる。


コリガンの中で声が響いた。


―――【失墜した規範ロスト・パラダイムからの隠遁者アブスコンド




「うわわわわわっ!」


悲鳴と共にフェンリルナイトのメンバーが降ってくる。


「うわぁっ!」

突然降ってきた人たちにハルも悲鳴を上げる。


「ここ、どこ?」

折り重なるように地面に落ちたメンバーが呟く。


「あ、え?みんな、どうしたの?」

「ハル?」


「う、うん。そうだけど……」

「あ、エーレンブルグの畑?」


フェンリルナイトのメンバーが周囲を見回す。

確かに、エーレンブルグの領内。

しかも、ハルが貰って耕している芋畑だ。


「は――――――」

誰からともなく息を吐いた。


『たすかったぁぁぁぁぁ』

一同が声を上げた。


ジャガイモ仲間のみなさんへ


今日も1日お疲れ様です。

今日はゆっくりできましたか?

それとも忙しかったり、イラッとすることがあったりしましたか?


そんな時は「覚醒コリガンの技」、【失墜した規範からの隠遁者】を発動させちゃいましょう!

そうしてヤな奴を「スン」ってシャットアウトです。

逃げるのは恥じゃない!


あ、明日12:00特別編は「作者の情緒がヤバい問題作」です。

ハティやフィンやハルがあんなことに……

今日のお昼は表現にシートベルト閉めてましたけど。

もしかしたら皆さんの「可能性のドア」開くかも?


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