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【特別編】ティアさまムズキュンおデート日和。結局ネタにされるけどさ。

本編とは時間軸が異なるエピソードです。


本編の雰囲気を壊したくない方は、飛ばしていただいても大丈夫な内容となっております。


私はティア。

ティア・シュトゥーテ・フライン。


王家でも文治の家柄、フライン家の娘だ。


フライン家は公爵として、代々王家を支えてきた。

主に内政ではあったが、帝国との戦が始まってからは兵站などにも腕を振るうようなった。


当主、私の父、ヴォイド・ヴァン・フラインは厳格な人物。


自他に厳しく、大口を開けて笑ったことはない。


そして、一人娘の私にもとても厳しかった。


勉学だけではない。

武術も徹底して仕込まれた。


辛くて辛くて、仕方がなかった。


どうしても堪えられない時、私は「アンジェ」のところに逃げた。


そう、「最悪の魔女」と世に噂されるアンジェ・フラン・スカーレットのもとに。


私にとってアンジェは親友だった。


噂されるような人物ではない。


泣きながら縋る私を受け入れ、諭し、勇気づけてくれた。


ある時、アンジェが私に一冊の本をくれた。

「これは、あなたにだからあげるの。特別だからね」



そう言って「薄い」絵ばかりの本をくれた。



どうやら何百年も前、ある青年から貰ったのだという。


「コミック」という分類の娯楽のための本。


「辛くなったら、これを読んで、自分の物語を想像して。妄想……じゃなくて、想像は自由よ。そして、その『想像』こそが、未来のあなたを『創造』してくれる」



私は、すぐにその本の虜となった。




私は「マクスウェル家」の人間は苦手だった。


武官の家柄で、同じ公爵家。


けして威圧的なところはない。

だが、一族への執着がもはや狂気の域に達していたからだ。


この頃のマクスウェル家当主は、トリスタン・アドルフ・マクスウェル。

「銀狼」と呼ばれ、王国でも双璧をなす武将だった。


当時、エリーゼ様はトリスタン様の後継者として騎士団の副官を務めていた。


そして、ハティはというと、王領騎士団の兵士として働いていた。


もっとも、王領騎士団の長である、ガレス・レオナート・シュタイナーの従者も経験していたのだから、出世コースではあっただろう。



ハティはとにかく見た目が良かった。


美しい銀髪を後ろでひとつに結んでいる。


ぱっと見は女性と間違われるほどの美形。


それでいて鋭利な刃物を思わせる雰囲気。


今では想像もつかないだろう。


常に冷めた表情をした堅物。

家族以外には常に壁をつくっている。


しかし、私にはこれが「ツボ」だった。


アンジェから貰った「薄い本」に登場する青年に似ていたのだ。


主人公のライバル。

熱血な主人公に対してクールで毒舌な青年。


それに瓜二つなのだ。


すなわち、ヤツは私の「妄想(創作意欲)」をそそる優秀な素材だったのだ。


声をかけてくる女性には常に冷たい。

「あ、すみません。急ぎの用事がありますので」と離れる。


うむ。……実に良いな。


私は「創作活動の題材」としてヤツを観察していた。



ある時、ハティは大事件を起こした。


それは、「貴族殺し」だった。


しかも、相手は時の将軍の一角。


軍部の情報や冒険者ギルドを統括するその将軍宅に、単身乗り込んで護衛ごと暗殺。


人々は彼を「狂犬」と呼ぶようになった。


そして、その事件からわずか二週間後。


なんと、ハティが私を訪ねてきたのだった。



私がその別邸にいるときだった。


外がやけに騒がしい。


私は窓の外を見て思わず「敵襲!」と叫びそうになった。


驚くのは無理からぬことだろう。

なんせ、かの「貴族殺し」の異常者が今度はフライン家に来たのだから。


門の前でハティは間の抜けた顔をしていた。


周囲を何十という衛兵が囲んでいるというのにだ。


「あ……あれ?」

ぼんやりとした言葉。


「おかしいな、事前のうかがいは、たてたんだけれど」


何がおかしいか気づいていない。

自身を確かめる仕草が子供っぽい。


普段と違った礼服。

……いや、どこかの諜報員か?

そんな恰好だった。


帯剣もしていない。

手にはその辺で買ったと思しき紙包み。


「あの~、すみませんが、通していただけませんか?」

衛兵に頼み込んでいる。


「ご当主のヴォイド殿からもご許可いただいております」


そう言って、一枚の紙を見せる。

それは父のサインが入った招待状であった。


何とも言えず、通した。


何か特別な理由があるのだろうか。



人払いをし、執務室で訪ねてきた理由を聞いた。


そうしたら「教えを乞いたい」とまれた。

それも神妙な顔で。


私は何がなんだかわからなかった。


事情はこうだった。


経緯を詳しく話せないまでも、孤児院の経営に着手したのだという。


それはいいが、思ったよりも経営や経済について知識が足りずに困ったことになったというのだ。


士官学校での「ハティの弱点は数字」という噂は本当であったのだ。


そしてコイツはバカだとも思った。


「あの、よろしければこれを受け取っていただければ」

「それは何でしょうか」


「露店で買った甘味です。甘いものがお好きだと聞いたので土産にと」

おずおずと手にしていた紙袋を渡してくる。


あ……最近話題のやつじゃないか。

まだ食べてない。


いや、貴族の娘に露店のものを土産に買ってくる奴がいる?

しかも紙包みに入れて。


見た目に反してアホなのか、コイツは。


もちろん、私のところに来た理由を問うた。


最初はこの道に秀でた父に頼んだのだという。


しかし、父は「娘もなかなかのものですよ」と勧めたのだという。


あの父親は。まったく、もう、まったく……。


後で知ったが、父はすべて承諾していた。

だが、あえて私たちには伝えなかった。


急に男が訪ねて来て、娘がどう反応するかを楽しむという父の娯楽だったのだ。


しかも、相手は今まで出会ったことのない無軌道な類。


父の思惑通りに事が運ぶのもしゃくだった。


だから、ちょっといじわるでもしてやろうと思った。

けれど、目の前のコイツは捨てられた子犬のような目で見ている。


なんか、白けたな。


これが彼との付き合いの始まりだった。



この男はとんでもない朴念仁で、本当に授業のことしか頭になかった。


ハティは必ず日の高いうち、しかも使用人など人目のある場所を選んだ。


変に家の者が気を利かせようとすると、頑なに断った。


……オイ、逆に失礼だぞ。


余計なことは一切言わず、授業の質問しかしない。

口の悪い私は遠慮なく「バカ、バカ」と連呼した。


ハティはよく堪えたと思う。


授業の日は、ちまたで話題の菓子や私の好みそうなものを手土産に持ってくる。


……使用人の分まで持ってくるのは余計だ。


私の誕生日も意外と憶えていた。


実に気を遣うやつなのだ。



そうやって時を過ごした。


勉強を一緒にするときの彼の横顔を見るのが楽しみになっていた。


来ない日は、手持無沙汰で、創作活動があらぬ方向へと行ってしまう。


近くで見る機会が多いので、自然と気づく。


睫毛も長く中性的な顔立ちをしている。

いわゆる美丈夫というやつ。

男色家に言い寄られたりしないのだろうか。


あ、今度BLもの書いてみよう……


とはいえ、異性として意識はしていなかった。


はずだ……


でも、計算をするとき、難題にさしかかったとき、口を少しだけ尖らせる困り顔は私だけのものだと思っていた。


だって、そんな顔、他の人の前でしたことないじゃないか。




(なんだ?騒々しいな)


私は机に向かって河川工事に必要な資金を算出していた。


か、金が足りない……人手も。


私は頭を掻きむしりながらどこから融通するかを思案していた。


正直、ちょっと苛立っていた。


「お、お嬢様、失礼いたします!」

ノックも早々に使用人が入ってきた。


「何かあったのか?」

「はい、これは事件です」

「なに?」

無礼とは思ったが、ただならぬ様子にこちらも手を止めて使用人を見る。



「デートのお誘いです」



「はぁ?」

あまりにもバカな言葉。

私は間の抜けた声を発してしまった。


「それのどこが事件なのだ。デートとは、誰の話だ」


苛立ちが戻ってきた。

どうせ、リア充な使用人どもの話だろう。


そんなド定番もいいところ、ベタなことを事件など……



「ですから、お嬢様をデートに誘いたいとハティ様が」



私は固まった。


え?ハティ?なんで?……私を?


思考が停止した。


「こちらの手紙に」

「おまえ、読んだのか?」

「あ、いえ。父君のヴォイド様が」


あんの、父親はっ!


手紙をひったくるように奪い取る。


書面に目を走らせる。

確かに、ハティの字だ。

几帳面にもきれいに書いてある文字だ。



親愛なるティア・シュトゥーテ・フライン殿へ。


貴殿の指導により、学問がすすみ、懸案であった孤児院の経営も軌道に乗りつつあります。


つきましては、そのお礼も兼ね今度の授業を実地で行いたいと思っております。


貴殿さえよろしければ、共に城下町を散策しながら見識を広げたいと思う次第です。


不躾なお誘いではありますが、快いお返事をいただけることを望んでおります。


         ハティ・マクスウェル



……確かに。

これは、まるでデートの誘いではないか。


ドッドッドッドッ……


心臓の音が地鳴りのように聞こえる。


周囲の音があまり聞こえなくらいだ。


……ハティが私に?なんで?何が起きた?


自問自答する。


いや、デート自体経験がないわけではない。


士官学校でもお誘いはあった。


創作活動の参考に応じたこともあった。

が、それらはなぜか記憶に残らないものだった。


しかし、……なんだ、これは。


形容できない。


「おめでとうございます。お嬢様」


使用人の言葉が耳に入ってくる。

え?なにが、めでたいの?


彼女の顔は嬉しそうで、祝福するようで……


その背中にある鏡に映った私は戸惑いながらも嬉しそうに顔を赤らめていた。


「やっと、ハティ様がその気になられたのですよ」


その木?なんの木?


「こうしてはいられません。せっかくのハティさまとのデート、お召し物をご用意しなくては」


使用人があわただしく出ていく。


あ、あれ。これ本当にハティとデートなの。




ハティが訪ねて来た。


いつもとそう変わらない小ぎれいな格好。

ほんと変に飾らない男だ。


「ティア、悪いね。無理をきいてもらって……」


ドアから出てきた私を見てハティが驚いた顔をする。


「な、なんだ」

「あ、いや」

言葉を濁す。


「普段見慣れない格好だから」


確かにドレス以外でスカートを履くことはことは少ないが。


「変か」

「とても似合っているよ、うん。かわいいよ」


「なぁっ!?」

今度はこちらが驚く番だった。

さらっとコイツはとんでもないことを言いやがる。


「そういう装いも、とても似合うと思って、驚いていた」

ハティが頭を掻く。


屋敷の奥で暴れる物音が聞こえてくる。

ハティはそちらが気になったようだ。

が、私はコイツのセリフに動揺してそれどころではなかった。


暴れているのは拘束されたジャンヌだ。

デートを阻止しようとしていたのを、他の使用人に簀巻きにされた。


そして、無残にも納屋に放り込まれていたのだ。


「えっと、ティア?行こうか?」


いつまでも動こうとしない私に、ハティが声をかける。


「あ、ああ」

ようやく我に返った私は彼と屋敷を後にした。




ハティは様々な店頭を覗きながら質問を重ねる。

時には商人に指示をして配送先、手付金を払う。


勉強のための視察なのか、買い出しの手伝いなのか、目的がいまいちわかりづらい。


そんななかでも、ちゃんと気づかいもする。


やれ、疲れていないか、茶でも飲まないか、気になるものはあったかなど。


どこぞの貴族の子息より気が利いている。


日頃より裏表のない男だというのはわかっていたから、その言葉が素直な心遣いであるというのが伝わる。


だから余計に、言葉にいちいち動揺してしまうのだ。


「この店に入らないか?」

ハティが誘ってくる。

いわゆるカフェだ。


「この間、土産に持っていったケーキ、ここで買ったんだ」


ああ、あのときの。

あれはすこぶる美味しかった。


「気に入ってくれたようだし、店で食べるのもまたひと味違うと思うよ」

そう言って私の手を引いて店に入る。


「お、おい……」


私は手をつながれたことに動揺してしまう。


コイツ、いつも姉と手をつないだりしてるんだろ。

クソっ、こういうの普通しないんだぞ。




ハティは慣れた様子で私を席まで案内する。


「ティアは何にする?紅茶も茶葉を選べるよ」

楽しそうにメニューを眺める。


一冊しかないメニュー表を私に差し向け、自分は覗き込むようにする。


自然と顔が近い。

なるべくヤツを意識しないようにメニューを食い入るように見た。




ケーキも紅茶もうまかった。


さすがに、自分のぶんも食べるかと差し出されたときは卒倒しそうになった。


と、いうかフォークに刺して差し出すのやめろ。


いわゆる食べさせてあげるってやつだ。


きっとエリーゼ様にやってるから……

気にもせずに、こんな、こんな真似をするんだ……うう。


私が躊躇すると「汚いかなぁ」としょげる。


思わず、「いただこう」と噛みつくように食べてしまった。


あの時の私と周囲の様子が目に入っていなかったのだろうか。


どうにも今までと勝手が違う街歩きは、時が過ぎるのが早かった。



最後に「すまない。寄りたいところがある」と断ってきた。


私は、この男が変なことをすることがないと知ったうえで同意した。


同行したのは貧民街であった。


正直、臭い。


路上には荒んだ表情の者が居座っている。


しかし、顔を上げると、不思議なことに表情を変えて挨拶をする。


「よう、兄弟、良い景気だな別嬪さんを連れて」


「おお、兄弟、今日も生きてたか。この人に手を出すなよ。明日は生きてられなくなるからな。まあ、お互い強く生きよう」


そんなやりとりが続く。


そうして教会のようなところにたどり着く。

雨風を凌ぐのに精いっぱいといったボロ屋だが、敷地だけは広めのところだ。


壊れかけた門を私たちはくぐる。


庭にいた子供たちが寄ってくる。

「ハティだ!」

「おう、親父!」

口の悪い子供たちが口々にハティに群がる。ん?「親父」?


「シスターはいるか?飲んだくれの司祭でもいいけど」

ハティも砕けた口調で尋ねる。


「司祭はいねぇな。シスターはいるよ」

金髪の男の子が言う。


「中にいるのかな?ちょっと用事があるんだ。こっちから行くよ」

言葉に、少年が眉を顰める。


「なあ、ハティ、こんな綺麗なお姉さん連れて来て大丈夫か?シスター怒らない?」


「何でシスターが怒るんだ?だいたい、こちとら良いところのお嬢様だ。僕らのようなのとは住む世界が違うだろうよ」


「なら、良いけどよぉ……それより、あとで剣を教えろよ!あの、火の出るやつ!」


「わかったよ、フィン」


ハティは少年の頭に手を置いて優しくなでる。


それだけで、関係性がうかがえる。

きっとハティはこの子たちのために私に学びに来たのだ。



このやり取りの間に、私はちょっとした敵意を向けられていた。


少し離れたところでこちらをうかがう二人。

「ねえねえ、リム、あの人、どう思う?」

「ねえねえ、リャナン、あの人、どう思う?」


黒髪の少女と青みがかった髪の少女が囁き合う。


「ぜっったい、ハティ狙ってる!」


そう青みがかった髪の少女が言う。


「でしょでしょ!この間の金髪の子といい、おとうさん、モテすぎ。で、何で気づかないの」

黒髪の子が地団太を踏む。


「あの調子だと、絶対、シスターのこと気づいていない」


「そうね。このあと修羅場よ」


「クロエ姉も、結局……」

そう言うとこちらを見る。


目が合った。


子供たちは素早く身をひるがえして樹の陰に隠れる。


「おい、ハティ、私はどうすればいいのか?」


「あ、せっかくの機会だから紹介しようと思って。勉強を教えてもらっているおかげで、だいぶ援助もできるようになったことだし」


……こいつ、やはりバカだ。


確かに、時々経営についてアドバイスはしている。


それで経営が好転しているのは喜ばしいが、その恩人だと紹介してどうする。


相手がありがたがるとでも思っているのか。


何より、このバカ男をめぐって面倒な牽制をしあっている女ども(幼児も含める)がいるのだぞ。


「あ、シスター・カトレア」


ハティがドアを開けるが早いか、女性が出てくる。


清貧という言葉が似合うシスター。


出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。

エリーゼ様以上の巨乳だ。クソ!


彼女は喜色に彩られていだが、私を見ると難しい顔になる。


「こちらは?」

「あ、ティア・シュトゥーテ・フライン卿です」


「本日は、どういったご用向きで」


「今は父君のヴォイド・ヴァン・フライン卿の代わりに王都の邸宅に詰められているとのこと」


「日頃より彼女には運営の支援について相談をしていまして、結果その力添えでこちらへの援助が何とかなっておりました」


「ですので、せっかくの機会、恩人との顔合わせなどと思って……」


私は心の中で「この、バカ野郎ッ!」と怒鳴りつけたかった。


本当にさっき言ったこと、そのまま口にした。

この男は本気で「自分は何ほどにもない」と思い、功績は私にあると言いたいのだ。


そして、互いに顔見知りとなった我々が良い関係となると心底思っているのだろう。


だが、見たら分かるだろう!

ものすんごい顔をしているだろ!?


男の奪い合いをしている恋敵の顔だ。


さらにあの子供たちも巻き込んでみろ、泥沼の戦いが始まる。


しかも、だ。


あの子供たちの「金髪の子」ってのはアンジェだろ!


連れてきたのか?何があった!?


焦土になっていないところを見ると、アンジェが大人な対応をしたか、事なきを得たかだ。


「そうそう、不足は否めないが、道中商人に食材などを注文したのでした」


「いやぁ、ティア殿がいてくれたおかげで、安く手に入れることができました」


褒めれ悪い気はしない。

しないのだが……


「ですが、不足しているものについてはシスターにうかがわねばと思って。こうやって知己を得たのですから彼女から意見をもらうのも今後には良いかと……」

ハティは早口でつらつらと並べる。


ハティは何も気づいていない。


シスター・カトレアの聖職者にあるまじき悪鬼のような顔を。


お前、ちゃんと見とけよ!?

私を睨む彼女の顔!


ぜったいこの人、人を殺めたことあるぞ。



私は(貴族でありながら)平民の皆に気をつかい、一日を終えつつあった。


最初は悪くなかったが、最後が最悪だ。


なんだか疲れた。本っっ当に、疲れた。


あの時の私の気持ちを返せ。


ハティと共に屋敷の門をくぐったとき、ハティがにこやかに私に声をかけた。


「今日は世話になった。勉強にもなったし、孤児院の皆とも会ってくれて。充実した日だったよ。ありがとう」


この寝ぼけた男の言葉に不満が爆発した。


「おおっい!ハティ!何かほかに私に言うことがあるだろうっっ!」


この怒号に、彼はきょとんとした。


「あっ!」と何か思い当たった表情をした。


「これ……」

そういって髪留めを差し出す。


「出店で見ていただろう。気になっていたのかなと……」


私は、内心「この野郎」と二度目の叱責をしたかった。


何でコイツはそんなのを見ている。


「良ければ、今日のお礼に受け取ってもらえると……その、助かるのだけれど」


最後にサプライズのプレゼント。


いや、気になったのは嘘ではない。


でも、だ。


一日付き合わされ、いろいろ面倒かけられた。


要らなく面倒ごとにもさらされた……


くそ、本当に、コイツは嫌いだ。


「あ、ありがたく受け取っておこうじゃないか」

そう言って私は受けとることにした。


「良かったらつけるよ」

嬉しそうにハティが言う。


「いや、いい。自分で」


ハティを間近で見る自信がない。

奪い取るようにとって自分でつけてみた。


「うん。いいね、似合うよ」

感心したように頷くハティ。


私は、自分でも顔が赤くなってるのがわかった。


考えてみれば、殿方からこのようにして直接もらうのは初めてではなかったか。


こんなこと、平然とするものだから勘違いしてしまうんだ。

みんな、コイツが悪いんじゃないか。


ああ、早く部屋に戻って、コレをネタに「薄い本」でも書くか――――


白銀の髪をした王子様とジャガイモっぽい少年のBLを。



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