第87話 尊い犠牲
戦は嫌い。
皆が傷つく。
私、コレット・オルレアはいつもそう思う。
今回だって少なからず犠牲は出た。
ティアさんやハティさんの活躍で領民のみなさんに死傷者はなかった。
けれど、代わりにガレットさんの部下がボロボロになった。
ハルの作るお芋料理は温かくって、傷ついた人たちを心身ともに癒した。
傷も体力も全回復するから異常なんだけれど、今回はそれに助けられた。
戦は嫌い。
何かが犠牲になる。
そう、ハルはここにはいない。
あれだけみんなの傷を癒す温かい食事をつくってくれた彼が……
…
……
………まあ、自業自得なのでいいか。
ハルの夜這いによる変質者疑惑。
そのためティアさまの部屋を出禁になっていた。
そして、さらに今、目の前で繰り広げられている修羅場。
「おおおおやめください、エリーゼさまぁ」
ティアさんが片手で釣り上げられ、うめいている。
「あなたはぁ、誰にぃ、許可を得てぇ、『やって』いるんですくゎぁぁん?」
怒り心頭のお姉ちゃん。
背の低いお姉ちゃんが、背の高いティアさんの胸倉を掴んで片手で持ち上げている。
お姉ちゃん、心底怒っている。
◇
お姉ちゃんが敵軍を蹴散らかした直後だった。
ハティさんが重傷だと聞いて、血相を変えて部屋に突入してきた。
――――そして、ベッドの上にいる二人を見てしまった。
「おんどりゃぁぁ!弟になにさらしてくれとんじゃぁ」
飛びかかっていった。
そう、見てしまったの。
ティアさんが意識のないハティさんを膝枕していたのを。
◇
「で、ですから、傷ついたハティに労いを」
「それは私の役割なんですぅ、よしよししていいのはお姉ちゃんだけなんですぅ」
「そんなっ」
そりゃそうだよね。
弟が瀕死の重傷を負ったっていう原因がティアさんの立てた作戦なんだから。
でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだった。
「誰の許可を得て『膝枕』しとるんじゃぁ?おおう!」
ティアさんの胸倉を掴んだと思ったら持ち上げて宙づりにする。
「油断も隙もあったものじゃない!この『寝取り女』!」
「ね、寝取っ!?」
ティアさん絶句。
そりゃそうですよ。絶望的に使い方が違うんですから。
そして意識のないハティさんは勢いで床に転がり落ちている。
お姉ちゃん、あれはいいの?
私の目の前で繰り広げられる「修羅場」。
その終末的に終わっている光景に頭を抱えた。
――――あ
私の眼【高貴なる洞察】にはあるイメージが映し出された。
ふたりにあるのは、あの日の「怖れ」と「後悔」だった。




