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第80話 ティアさま無双。そして明かされる真名(ペンネーム)……不眠の民は洗脳されるのか!?



二日目の朝、ろくに休めないままに敵を迎え撃たなければならなくなった。


「おそらくだが、どんなに早くとも明後日にならなければ救援はこないだろう」

幕僚会議でそう結論づけた。


奇襲を受けた時、1日と半分ほどの距離を本隊は進んでいる。

補給拠点に物資が届いていないという事態に、こちらの変事に気づいてくれていれば、という希望的観測だ。


奇襲を受けてすぐに連絡を飛ばしたが届いているかどうか。

反転したとしても2日分の距離はある。


この日は配置を変えず、各々が城壁を守る。

疲労を隠せないまま敵の攻撃を受ける。

遠距離での打ち合いであった。


しかし、昼頃からはこちらの疲弊を見てとったのか、今度は攻城兵器を使いはじめた。


破城槌を使って門を破壊しようとする。

梯子車を持ち出して城壁にかけようとし始める。


一部で乗り込まれた。


ティアがすぐに向かい、壁上に展開されないように敵を斬り伏せていく。


そこに難敵が現れた。



「お嬢さん、なかなかやるね」

両手に剣を下げた男が声をかける。

「強い将がいて苦戦していると思ったら、こんなに可愛い子だなんてね」


「なんだ、コイツは」とティアは内心思った。

アザラシのような顔立ち。

耳まで隠れる長さのストレートヘア。

あごには肉がついている。

(動きはそう素早くなさそうではあるが……)


「ところで、この城はもう詰みの段階だとおもうんだけれど」

彼女は答えない。

「君、投降しない?」

「なんだと?」

「お、声もかわいいね」

ティアはこの男のことが嫌いになった。


「今、おとなしく投降してくれたら君の命は助けるよ。ああ、サービスでお友達を一人まで追加してもいい」

「お前は、そう言われて簡単についていくような尻軽が好みか」

「ははっ、尻は軽くてもいいさ。でも――――」


下卑た顔で舌なめずりをする。

「その前に敗者らしく『私はこの御方に負けました。一生奴隷として仕えます』と宣言してもらうけれどね」


「却下だ」

ティアは即答した。

正直、気持ちの悪い輩だ。何を調子に乗っている。

「お前はぜんぜん好みじゃない」


続ける。

「私の好みは、こう、なんだ。生き方が不器用で、真っ直ぐな性格がいい。こっちがイラつくほど奥手で、肝心なところで鈍いくせに、時々タイミングよくキメてくるのがいい」


「それは、誰かのことを言っているのかい?」

「違う。好みの話だろう、お前みたいに薄っぺらい笑みを浮かべて話す奴は論外と言っているんだ。口数が多くなくても良いのだ。気づかいと優しさがにじみ出て……」


そこでティアは気づいた。

周りの兵が手を止めて彼女を見ている。

敵味方問わず。


ティアは咳払いをする。

「とにかくだ。誰がおまえなんぞに降るか」

「いいのかい?このままじゃ全滅だ」

「まだ決まっていない」

「頭の悪い子だな」

「お前のようなバカに頭が悪いなどと言われる筋合いはない」

剣を構える。

「じゃあ、しかたがないな」

そういうと男はステップを踏みながら、近づいてくる。


(この足さばき)

舞踏のように軽い足取り、その足さばきは変則的だ。

横にスライドするように動いたかと思えば、後ろに下がっている。

無駄なようで相手に間合いを測らせない。


「っ!?」

不意に男が距離を縮める。

斬り下しで迎え撃ったつもりが、外されている。

同時に双剣が振るわれてティアに襲い掛かる。

それを前方に駆け抜けて避けた。


「おっ?速い」

男は捉えたはずのティアが回避したことに驚いた。


(強いな)

一方でティアも相手の力量を素直にはかる。

身軽で曲線的な動きをする。

回避から返す剣で切り刻んでくる。

後の先が上手いタイプか。戦い方が上手い。


ティアも相手の戦法につけ入らせないよう、最小限の動きで相手の反撃に備える。

数多く剣を合わせる。

相手は持久力も相当なのか、これだけ動きながらも疲労する様子がみられない。


「ふぅ……」

ティアは深呼吸をする。

剣を下げた。


「おや?降参かな」

男が言う。

「いや、そろそろこの茶番に飽きたんだ」

ティアは言うと剣を持つ手を変える。


右から左手に。


「?」


切っ先を相手に向けたまま姿勢を低く構える。

足を引き、頭を下げて前傾する。


一拍の間。


ドンッという地を叩く音が響く。


「―――――――あ」

男の体が穿たれている。


咄嗟に防ごうと構えたのか。

交差させていた双剣が折れて宙に飛び、数秒遅れで地面に落ちる。

男の背後、はるか後方にティアがいる。


最初の構えのまま、低い姿勢であったがおもむろに背を伸ばして血振るいをする。


「速さはお前の専売特許というわけではない。お前の剣は性格同様軽いからな、一太刀もらっても深手にはならんと腹をくくったが、予想に反してグスだったな」


男が絶命しているのを見届ける。追撃やこの隙に斬り込んで切る者を警戒したがそれもない様だ。


周囲からは歓声が上がった。


敵に押し込まれ防戦一方だった城兵たちが、声を上げている。

敵将をティアが屠ったのだ。

敵軍も動揺を隠せないでいる。士気も上がろうというものだ。

この勢いで城兵たちが奮起して押し返した。

城壁から敵を一掃し、守備を固めて日暮れを迎えることになる。



この日の夜も夜襲が不定期に行われた。

騒音は続いている。


さすがに二日目となると心身ともに堪えるものがある。

ティアは兵の疲労だけでなく、避難した人々の恐怖に付け込まれるのを危惧した。


日が落ちてから、全ての区画を回る。

特に流民たちを収容した区画の様子を注視した。

食事の配給の状態や病気の有無など、表情をも含めて観察した。


「食事は足りているか?子供や老人はどうしている」

声をかけてまわる。


一人の男が近寄ってきた。

ジャンヌが制止しようとしたが、ティアがそれをとどめた。


「何か用か?不足している品があるか

男は近くまで来ると、膝を折る。

「ティア・シュトゥーテ・フライン。俺は壁外の街をまとめているアンドルだ」

「そのアンドル殿がなぜ私に膝を折って礼をとるのだ」


「俺たちを避難させてくれた礼が言いたい。そのうえ食事も。病人を診てくれた」

「今までの扱いに対しての文句を言いに来たのではないのか」


「反逆の意思を疑うのならば、俺を拘束してくれ。他の奴らは」

「その必要はない。こうしてわざわざ礼を言いに来てくれた者にする行いではないだろう。ひとつ頼まれてくれるか」


「何か」

「貴公らは貴公ら自身でまとまりがあってほしい。ちゃんと監督をしてもらえるならばこちらとしてありがたい」


「いつもやっていることだ。難しいことではない。わざわざ頼まれることでは」

「見知らぬ者が混ざっていないか?人数は把握できているか。これは重要なことだ。物資の配給にもかかわる。こうして来てくれる貴公はなかなかの人物とみた。頼まれてくれるか」

「もちろんだ」


「それは、助かる。人数と不審な者がいないか教えて欲しい。こちらから明朝にこの者を使いに出すので報告してくれ」

「わかった」


「それと、皆と話す機会を設けてくれないか」

「どういうことだ」

「不安だろう?しかも連日夜になっても騒々しいことこの上ない」


「なんなら、『寝る間も惜しんで読みたくなる本』でみんな夜更かししてみるかね?」

そう言って懐から「薄い本」を覗かせる。


そこには、著者:【神速の執筆者ライトニング・ライター】と記されていた―――



ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日1日はどんな日でしたか?

お休みでしたでしょうか?

それともお仕事でしたでしょうか?


明日の朝、重い体を起こしても踏ん張れる。そんな皆さんは「ヴィクトリー」ですよ。

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