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第69話 悲劇、乙女のアイデンティティ!アレに代わってお仕置きよ!


僕たち全員が地上に出ようとした時だった。

「ここまでだ!」

風を切る音がする。

先頭にいたハティさんが反応して避けた。


その時、悲劇が起きた……


あのハティさんが――――斬られたんだ。


僕はまるでスローモーションでも見ているかのようだった。


鋭い剣閃。

斜め後ろに下がるハティさん。

後ろにいる僕たち。


彼は大きく避けることができず、でも達人のようにギリギリでかわす。

けれど、避けきれなかった。


「ああ~」


ハティさんが情けない声を上げる。


普段ないボリュームのところだけ、目算が狂ったんだ。


切られたところから一気に水があふれ出る。

一瞬にしてぺちゃぱいどころか干物ぱい。

漏れ出た水でおもらししたみたいになっている。


「ヒドイ。私のアイデンティティが……」

顔を覆う。

やめてくれよぉ、その姿で言うのぉぉ。

エリーゼさんに「上げ底胸」疑惑出るじゃないかぁぁ。


「乙女の胸の恨み、お姉さまに代わってお仕置きよっ!」

あなた、本当はふざけてんだろぉ!


「貴様、女装していたのか!?」

兵士が今さらながら驚きの声を上げる。

いや、気づくの遅すぎない?


「ということは、そこのガキは……」

いや、いやいやいや、僕は変装してないよ!?


「もしや、ふたりは―――――」


「どっかーーーーん!」

ハティさんの鉄拳制裁。

またも「スンアナゴ」の誕生。


「雉も鳴かねば撃たれまいに……余計な口を叩くな」

冷徹に見下ろすハティさん。



こうして兵士たちは一掃された。


「ハルっ、ハルっ」

ハティさんが呼ぶ。

「後はみんなと合流してくれ。それでもって、後は頼むよ!」

にっこり笑って懐からバッグを取り出す。


どこに隠し持ってたんだこの人。

「いやはや、君の『棒』を収納するのは一苦労だよ。なんせ、魔力を……」

それから「あっ」と思い出したように声を上げた。

「いかんいかん、今のはなかったことにしてね」


「はぁ」

「僕はさ、みんなをいい感じに逃がしたら、次の準備に移るからね」

え?なに、その急展開。

「君がわざと捕まって二日も時間を稼いでくれたから、『上書き』の準備ができたよ」

うそ、二日も捕まってたの?


「さっすが、『ジャガーノート』様。いや、今は『ポテトしん』だったか」

アンタまでやめてくれよぉ、そのネタぁ……


「お腹空いてるだろ?僕特製の『ポテサラサンドイッチ』入れておいたから食べてね」


そう言ってにやりと笑う。

「合流は慌てなくていいから。ちゃんと補給してからでいいよ」


「ふ、ふふふふふふふ」

何とも言えない笑い声を上げる。

「ようやくだ、ようやくだよっぉぉぉぅ」

おっさんが吠えている。


「アンジェさああああん、待っててねぇっ!迎えに行くからねぇ」

おバカな叫び声が響き渡る……



ハティさんたちは囚人たちと一緒に街の外へと逃げていった。

残された僕は彼から受け取ったマジックバッグの中身を見る。


「なに……これ……」


入っているものの意味がわからない。

バナナ、サンドイッチ、水筒…「おやつは500円以内」のプリント…昭和の遠足かよ……


僕の「土寄せ棒」と「団員証」。


で、【爆発物につき取扱注意】の札が貼ってある謎の包み。

しかも可愛くラッピングされてリボンまでついている。


遠足と救出作戦を一緒にしているの?あの人?


まずは腹ごしらえ。

サンドイッチの包みを開く。

一目でわかる。

僕のジャガイモを使っている。


夜の暗がりでもわかる月光のような白い輝きを放つポテサラ。

夜空の火星のように赤々としたニンジンが入っている。

ああ、過ぎ去りし日の、あの夏の夜風を思わせる清涼なキュウリ。


すばらい彩りじゃぁないか。


僕は一口かじる。

パンのさっくりとした食感から舌にポテサラのまろやかな味が……


……な、なんだとぅ!

マヨネーズの酸味を抑えつつも、コショウの刺激でアクセントをつけた味わい。

ともすれば、もったりとした感じになるのをこれで避けている。


や、やるじゃないか……ハティ・アガートラーム・マクスウェル。

銀の右腕の魔人の呼び名は伊達じゃないぜ。

その右腕はスプーンか何かか!?


夢中で食べ進め、水筒に口をつける。


「ぶはぁぁぁああっ!」


僕は口に含んだ液体を吐き出した。


あ、あま~~い!

甘すぎるっ、な、なんだこの頭を棍棒で殴りつけたかのような衝撃の甘さ!


というか、ベースは紅茶なんだけれど、どろりとしたゲル状になってるよっ!

これがティアさまの「あまあま紅茶」!?


ネーミングが可愛らしいのとティアさまの美しさで騙された。

コリガンくんとのやり取りでも言ったけれど、まさかこれほどとは思わなかったよ。


ティアさま……なんて、恐ろしい子……



「おまえ、見たことがあるな」

兵士が声をかけてくる。

「ここで、何をしているっ」

いきなり蹴られる。


「ゲフッ!」

痛い。

「あのキショイのといた奴だな」

兵士が僕に詰め寄ろうとした。


「おい」

リムの声がする。

「うるさい」

「あん?」

「口閉じろ。ザコ」

兵士が振り返った瞬間。

リムが斧槍を跳ね上げた。


斧槍の切っ先が顎を貫いて閉じさせる。

「あ…目算狂った。寸止めできなかった」

「リムったらぁ……」

リャナンの声がする。

「だぁめだよぉ…まだ息があった。目撃者は消さないと」

金属音がして、男の首が落ちる。


「ごめん」

「いいの、いいの」

「ところで……」

じとっとした顔でリムが僕を見上げてくる。


「怪我してない?」

「うん」

「大丈夫?痛くない?捕まって酷いことされなかった?」

「うん。大丈夫だよ」

さっきの蹴りは痛かったけれど。


リャナンが笑いをかみ殺している。


「そう……」

リムは言うと左右交互にぺしぺしと僕の腕を叩いてくる。

「心配かけるな、もう」

それだけ言い終えると去っていく。


「うふふふぅ」

リャナンがニヤケながら近づいてくる。

「リムったら、すっごく心配してたんだよ」

「え?」

「『ハルは弱っちいから、すぐに殺されちゃう』って」

う、ごもっともなんですが、不本意というか情けないというか。


「おとうさんはね、『僕の責任だから、僕が行く』って言ってきかなかったの」

くすくすと楽しそうに笑う。


「リムは自分も行くって言ったけれど、おとうさんがダメだって」

「久しぶりにケンカしてたね~」とリャナンが言う。


すると、リムが遠くから「うるさい」って文句を言う。


「確かに、リムとハルはぁ、そこまで年も離れてないしぃ~」

なおも茶化すリャナン。


「いい加減しないと、リムの『本気』!見せるぞ!」


リムアンの怒声に「はいはい」ってリャナンが返事をする。


彼女が僕を促す。

「おとうさん、すっごく怒ってたんだよ。捕まえた人たちのことだけじゃなくて、ハルたちのことバカにしていた人のことも。そんなことしておいて何もないと思うなよって言ってたの~」

なんだろう、リャナンのテンションがおかしい。


「ね、ね?おとうさん何したの?」

あ~、ハティさんの復讐のセンスって……


「もったいぶらないでおしえてよぉ」

「うん、全員、壁から生やして『スンアナゴ』にした」

「ぶふぅっ」

リャナンが吹き出した。


それからケラケラと甲高い声を上げて笑う。

「なにそれっ、私も見てみたかったぁ」

ホント、リャナンがおかしい。

これからアンジェさん救出作戦をはじめるんだよね?大丈夫かな。


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