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第63話 魔術師 ~見た目は幼女、中身はオカン、その実態は~



コリガンくんと僕は扉の中に入った。

部屋は広く、綺麗な調度品に囲まれていた。


日の差す窓際に、椅子に腰かけたままこちらを見ている少女がいる。


黄金の髪、紅玉の瞳。


耳が長い……エルフだ。


光を受けて瞳がルビーのように光を放っている。

なんていえばいいのか……きれいな人だ。

どこか儚げで……


「おい、その隣のジャガイモはなに?」


……はい?

不意に聞こえた言葉に頭が追いつかない。

「あ、アンジェ様……」

コリガンくんが言う。

「何って聞いているの。相変わらず鈍くさい子ね」


見た目も声も可愛い。

けれど、なんて口の利き方だ。


「ハルは、その、友達で……」

「はぁ?!」

その子は素っ頓狂な声を上げた。


それからぴょこんと椅子から下りてこちらに歩いてくる。

「へぇ」

そう言って僕を頭のてっぺんからつま先まで見る。


それからコリガンくんの肩をバシバシと叩きはじめる。

「やりゃぁできるじゃないの。友達つくるなんてさっ」

ケラケラ笑っている。


「何、今日は友達紹介しに来たの?先に言ってくれなきゃ、お母さんなんにも用意してないわよ」

笑いながら、なおもコリガンくんを叩いている。

あんまり強くしていないから痛くないとは思うけれど。


「てか、アンタちゃんと風呂入ってる?水浴びだったら毎日だってできるでしょ。洗濯は?今着ているの何日目よ。あと、髪を切りなさいて言ってるでしょ。そんなんだから女の子にモテないのよ」

なんだろう。既視感が……


母さんによく言われたなぁ。

元気かなぁって、さっきからなんか言ってるよね。


「えっと、ハルだったけ?この子こんなんだけど仲良くしてあげてね」

「あ、はい……」

「まあ、座りなさい。そう言えばイグリースがクッキー差し入れてくれたのを残してたわね」


僕らをソファへ押しやりながら、踵を返して戸棚を漁り始める。


「ああ、あったあった」

ちょっと大きめの缶を持ってくる。


「ちょっとしかないけれど、食べなさい」

「あ、はい」

「男の子はあんまり遠慮しないの」

「はぁ」

ありがたく頂戴する。

あ、おいしい。クッキーって初めて食べるかも。


「お茶くらい出さなきゃね」

ポンと手を叩くと、宙で指をくるりと回す。


光の輪からティーセットが出た。


その瞬間、警笛みたいな変な音が響き渡る。


扉が勢いよく開き、剣の柄に手をあてたイグリースさんが飛び込んできた。

「アンジェっ、何をしたんですか!」


それを面倒くさそうにアンジェさんが見る。

「何って、お茶を淹れるのに、ティーセットを出しただけよ」

「本当ですか」

「本当よ。これ見なさいよ」

指をさす。


「……」

イグリースさんは難しい顔でティーセットと周囲とを交互に見た。


「安易に魔術を使うなと言ったでしょう。衛兵たちが間もなく来ます」

「何よ、子供が友達連れてきたんだから、おもてなしぐらいさせてよ」


「立場わかっていますか?」

「あらん、わたくしが、この子のママンだってことをかしら?」

「ふざけないでください」

「大真面目よ」


「それをふざけているというんです。誰がお母さんですか」

「だってハティの子供っていうなら私はお母さんじゃない」

「ちがいます」

「ちがわない」

「は?」

「はぁ?」

美女二人がにらみ合う。


僅かな間。

「くぉのぉ地雷女がぁ!想像妊娠でもしたってんですかぁぁん?」

「はぁん、そりゃアンタの方よ!ストーカー女が何を言ってるのやら」

さらに額を突き合わせてのにらみ合い。


仲いいのかな?

というか、イグリースさん本当にエリーゼさんじゃないの?


そうこうしているうちに大勢の足音がこちらに近づいてくる。

「とりあえず、私がなんとかしますから。もう魔術は使わないでくださいね」

イグリースさんが注意して扉に向かっていく。

「はいはい」

「ハイは一回でいいんです」

言いながら廊下に出て扉を閉める。


外では何か口論になっている。

「いいんですか」

「大丈夫よ」

僕の問いにアンジェさんがこともなげに答える。


「あの、さっきから『お母さん』って言ってましたけれど」

「そうよ、私はこの子たちのお母さんだもの」

「へぇ?」

「ハティ公認のお母さんだからね~」

この十代半ば……下手すれば前半としか見えない女の子がお母さんって……


(コリガンくん、本当なの?)

僕が聞くと彼は「うん」とこたえた。


「ハティは私にょぉ…『婚約者』だもの。言っちゃったぁ!ヤバっ、いっちゃったよぉ、きゃっ恥ずかしぃぃ」

言い淀みながらも勝手に言って、勝手に照れて顔を覆っている。


そうして「いやんいやん」と身もだえしている。


「ヤッベぇ、これだけであと10年生きられるわ」

低い声で言っている。


ああ、異次元のメンタルの持ち主だ……


しばらくして扉の外が静かになった。

衛兵たちは帰ったようだ。


ドアをノックする音がする。


扉を少しだけ開けてイグリースさんが言った。

「あの者たちはもう帰りました。おふざけもほどほどにしてください」

そう言って閉じた。


アンジェさんは舌をべぇと出して見せる。

見た目も相まって幼く見える。

ハティさんが彼女と婚約してるっていうのが本当なら、蕾愛好者って言われるのも仕方がないのか?


アンジェさんがお茶を淹れてくれる。

「どうぞ」って勧められるままに口にする。

渋くない。いい匂いでおいしい。


「それで、本当のところは?お土産持ってきてくれたの?」

世間話でもするように聞いてくる。

「はい。お願いします」

そういってコリガンくんが手紙を差し出す。

「いつもありがとうね」ってアンジェさんは受け取って封を切る。


「ふんふん」と紙面を見ながら唸っている。


「ああ、二人とも読み終えるまでお茶でも飲んで待っていてね」

そう言って僕たちを見る。

僕はアンジェさんの顔を見た。

なんだか瞳が赤く光っているような……


……あれ?僕は何をしていたんだっけ。

あ、手紙をアンジェさんが読み終えるまでお茶でも飲んでいてって勧められたんだ。

クッキーもおいしいし、遠慮なくいただこう。

そう思ってカップに口をつけた。


あれ?冷めている。


淹れたばかりのはずなのに。


(……『恩寵』の術式の写しは受け取ったわ。上書きする『術式』はあなたの中に入れてある。猫ちゃんに渡してあげて、頼んだわよ「ロッシェ」……)


そんな囁き声が聞こえたような気がした。


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