第53話 英雄凱旋 ~負け戦とわかっていても~ いや、真面目か?
エーレンブルグ領内は歓喜に沸き立っていた。
共和政府の先兵を、完膚なきまでに敗走させた初戦の戦果。
加えて領主ガレット健在と失踪していたアガートラームの参戦である。
旧王家の中でも武功の誉れ高く、戦に秀でた二人がいる。
それは何よりも心強いものであった。
砦内の広間に諸将が並び立つ。
上座に立つガレットへ立ち礼をとっている。
「共和政府はその卑しき性根を自ら露見させた。此度の進攻はまさに、我らが領主、ガレット・グランハートへの挑戦である。また、皆への冒涜とも言えよう。これから我らのとるべき道をガレット様より示していただく」
そうバルドールが告げる。
ガレットは一歩前へ出ると、その武骨な顔を上げて声高に述べる。
「まず、皆に礼を述べたい。私は今まで国内の様子を様々な形で見てきた。このような放蕩な領主など前代未聞であろう」
「しかし、私の不在の間、諸君らは嫌な顔をせずこの領内をより豊かに発展させ、守り通してくれた。感謝の念は尽きることが無い」
頭を下げ、続ける。
「皆も知ってのとおり、私は先王家に仕えるものでありながらも、北の地に封じられてからは異民族と呼ばれる者たちとの交友も重ね、良好な関係を保ち続けていた」
「それは、彼らの兵力や領土の強大さは我らと比してあまりにも大きいものであったからだ」
「だからこそ交易という形をとり、衝突を回避していたのだ。戦など誰も望まん。彼らも我々と思うところは同じであると、付き合いのある皆ならば知っているであろう」
そう言うと周囲を眺める。
諸将は聞き入り、そしてガレットを見つめている。
「しかし、残念ながら共和政府からは刃が突きつけられた」
「かの者達は我らを滅しようと兵を向けてきた。存亡の危機となっては黙ってはおられぬ。我らには領民全てを守る義務がある」
「これは私が兵を起こした時よりの誓いである。『我が剣は自由を勝ち得る為に振るわれる。この誓いが偽りならば星霜の数だけ雷で裂くが良い。この誓いが真ならば神、人心の加護をもて』と」
「故に、私は私の友の安寧を壊す破壊者を退ける。我らの自由は誰に強いられることなく、己の手で勝ち取るものだ!」
歓声が沸きあがる。
「諸君の団結が今は必要だ。この脆弱な一介の人の身である私に協力願いたい。私の誓いに賛同していただけるならば、その剣を同じ目的のために振るっていただきたい。馬の轡を並べ、戦場に共に馳せてゆこうではないか」
◇
帳を抜け、私室に戻る。
続いて、ソニア、バルドールが続き、待機していたウルフスベインとハティが迎える。
「良い演説だったな。たいした役者だよ、頭というのは苦労が多いな。易者、学者に役者か……まったくもって多才ゆえに食い扶持に困らないのは羨ましい」
そうハティが言うのをガレットは鼻で笑う。
「ぬかせ、しばらく見ない間に口が上手くなったな、というより性格が捻じ曲がっていないか?」
「ははは」
軽口の叩きあいを互いに笑いで終わらせる。
エリーゼもそこにいた。
だが、彼らと違い、ただ黙って清酒を猪口に注いでは口に運んでいる。
彼女にとって、この演説は酒のつまみ程度でしかなかった。
「う~ん」
戦場に見立てた地図上で駒を動かしては軍略を練っていた。
その様をコレットやハルたちが所在なさげに見ている。
「コレット、おかわり」
そう言ってエリーゼが空になった銚子を振る。
「先生、飲みすぎです。これから戦だというのに」
「大丈夫よぉ、まだ動き出すのは先だから」
「でも……」
コレットは気遣わしげに周囲を見る。
あのハティですら普段の変態性は鳴りを潜めている。
完全に「将軍モード」に入っているのだから。
「コレット、僕たちのことは気にせず、姉上におかわりを差し上げて」
優しくハティが言う。
「はい……」
「君たちも少し休むといいよ。本格的に動き出したら緊張しっぱなしになるだろうから」
ハティの心遣いに、コレットとハルは返事をして厨房へと向かう。
「ところで、これで良いものかな」
不意にガレットがこぼす。
「それはどういう意味だ」
ハティは問いたださずにいられない。
「確かに素直に共和政府には賛同できない。しかし、奴らはすでに官軍だ。国の八割は奴らの手中に落ちている。兵力差は推して知るべしだ」
「どう考えても負け戦と分かっていて手を貸す諸侯もいまい。できうるならば被害は出さないに越したことはないのだが」
苦虫を噛み潰したような顔で言う。
やはりガレットとて戦うことは回避したいものであることには変わりない。
それは、すなわち仲間の血が流れることを回避したいということに他ならない。
「まあ、暫くは小競り合いで時間を稼ぐより他はないだろう?今回は奇襲で退けたはいいが、次に本腰を入れて襲われたならば、難しいだろう」
ジャガイモ仲間の皆さんへ
次回は、ついに、「あの人」が登場します!
「あの人」はきっとみなさんも親しみやすいキャラクターなのではないでしょうか?
乞うご期待です!




