第51話 最速のあの子は中二病?! 僕が「ジャガーノート」って解釈違いじゃない?
「あああああああああ」
ハティさんが懊悩している。
「いい加減になさい」
エリーゼさんが叱る。
「でも、でも……」
「ついにあの忌々しい政府に鉄槌を下す日が来たのです。向こうから来てくれたので、ありがたいではありませんか」
「でも、でも……」
ハティさんがこうなったのには理由がある。
はじめはガレットさんの領地に侵攻するという話でみんな鼻息を荒くしていた。
けれど、よくよく聞いたらその政府軍にティアさまが参加しているらしい。
ようやく僕も思い出した。
旧王家の将軍の中で、最も知勇に優れた人たち。
それを人々は「五将」と呼んだ。
最優の聖騎士長。白銀の虎で十字の騎士、エリーゼ・カナン・マクスウェル。
最狂の魔人。銀の右腕、ハティ・アガートラーム・マクスウェル。
最強の傭兵団団長。黒金の鷹、ガレット・グランハート。
最悪の魔術師。深紅の盾、アンジェ・フラン・スカーレット。
そして、最速の智将。金の軍靴、ティア・シュトゥーテ・フライン。
今回、その智将が敵として立ちはだかるんだ。
「ティアと戦うだって?」
そこからハティさんがおかしいんだ。
「ハティ、残念ですが、ティアのことは忘れましょう。そう、私たちと共に戦った戦友。今は思い出の中で彼女は生き続けているのです……」
エリーゼさん、なんかいいように言っている。
「できませんよぉう。ティアは死にましぇええんん」
幼女以外でこんなにハティさんが執着することってないよな。
(ねえ、なんでこんなにハティさん悩んでいるの?)
(あ、ハルは知らないんだよね。ティアさんのこと。おとうさんは「妹みたい」って気にかけてたの)
(へぇっ!)
(ティアさん、すっごい美人で背も高くてシュッとしてるんだけれど、おとうさんとは馬が合うんだよね)
(そう、なんだ)
意外な事実。
(ティアさんが困っていると、いっつもおとうさん助けにいったりしてさ)
それから、リャナンはちょっとためらったようだ。
気遣わしげに口を開く。
(おとうさんが「銀の右腕」になったのって、ティアさんを戦場で庇って腕を失ったから)
なに、そのとんでもない過去。
命を賭けて守るってそれって恋人とか家族じゃないとできないでしょ。
(おとうさんは「当然のことをしたまで」って感じだったけれどね)
そうか、そんな相手じゃやりにくいよね。
(でも、ガレットさんは友達なんでしょ?)
(だから、ああやって悩んでいるんだよ)
◇
「ああ、僕はどうすれば……」
ハティさんはメチャクチャ悩みまくっている。
エリーゼさんも説得を一時休憩。
リャナンたちフェンリルナイトはどこかに行ってしまった。
ハティさんが悩むのもわかる。
かつての仲間同士で戦わなければならない。
ガレットさんもティアさまも助けたいんだろうけれど。
敵対しているんだから、どっちにもつけない。
「ああ…僕はどうすれば……」
ハティさんが頭を抱えた時だった。
チャチャ~チャ~♪チャチャ~チャ~~♪
なんだかよく分からないけれど軽快な音楽が聞こえる。
“迷える子羊が助けを求める声がする”
“そんなときこそ空に向かって叫ぶが良い”
“我らの力を欲するのだ”
どこからともなく声が聞こえる。
「「「「「とうっ!」」」」」
掛け声とともに複数人の男女が軽快に宙を舞って部屋に乱入してくる。
「天知る」
「地知る」
「人ぞ知る」
あ、あれぇぇ、この人たちって……
「悪が栄えたためしはないと」
五人組がポーズをとる。
「“魔狼騎士団”……見参!」
どぉおおおおおん!
何かが爆ぜた。
コレットが呆けている。
僕も頭が追いついていない。
というか、あれだけノリの悪いリムまで一緒に何やってんの?
「親父っ、力になるゼ!」
フィンが爽やかに笑う。うん。レッドだ。
というか、スヴェン君は常識人だったはずだよね。なんでイエローポジション?
アルセイスはやっぱりブルーなんだ。いいなぁ。
あ、リャナン安定のホワイトかぁ…ピンクもアリだけど。
……リムアン、なんか遠い目をしていない?
無になっているというか。グリーンなんだね。
「親父、俺たちが来たからには大丈夫なんだゼ」
なに、あの話し方。ちょっと怖い。
「ああ、ああああ……」
ハティさんなんかうめいている。
「違う。なんかちがう!僕は、僕は色物よりも、改造人間が好きなんだぁぁぁ」
それはあなただからでしょう!
「ええ?せっかく親父の趣味に合わせたってのに」
「だいたい複数人で袋叩きにする趣味はないよ。やるなら一騎打ちだろ」
「言ってることとやってることが違うって自覚ある?」
「さぁてねぇ」
「このぉクソ親父……」
あ、ついに自分で言っちまったよ、フィンレー。
◇
私はもう、何が何だかわからなかった。
ガレット様の領地が攻撃される。
そんな大変な時に、みんなは全身タイツでヒーローショーの小芝居をしている。
「だから、親父は難しく考えすぎなんだって」
フィンがハティさんの肩を叩く。
「シンプルにさ、全部まるっと納めればいいじゃないか」
心の声ではとても心配して気遣っているのが伝わる。
格好はアホっぽいけれど。
でもでも、何か作戦があるみたい。
「どうやって?」
半べそで尋ねるハティさん。
こうなるとどっちが親かわからない。
「簡単だよ。親父が俺たちを助けてくれた時と同じさ」
ぐっとフェンリルナイトのメンバーみんなが拳を突き出す。
「政府軍を蹴散らす。囚われのお姫様を助ける。シンプルだろ?」
なんて大胆。
でも、フィンたちはそれができるって心底思っている。
だって、みんなの胸の中に真っ赤で鮮やかな色が視える。
「でも、事情があってもティアが敵将なんだよ」
「何が問題なのさ」
「ティアの怖さを知らないから言えるんだよう」
ハティさんの心配。それが核心か。
「ティアはめちゃくちゃ頭がいい。それに足が速くて追いつけない。僕らの作戦だってすぐに見抜かれてしまう」
いや、最狂の魔人、ハティ・アガートラーム・マクスウェルが追いつけない足って……
「フッ、ハティ。我が弟ながら情けないですね」
謎の強者感を出しながらお姉ちゃんが登場する。
「何を恐れることがあるのです」
そうだ。亡国の英雄!白銀の虎、エリーゼ・カナン・マクスウェルがこっちにいたんだ。
武力、知力ともにチート級の聖騎士長。
さらに、従騎士時代は軍医に就いて学んで、敵味方関係なく救助を行った戦乙女!
こっちには屈指の武力特化ハティさんもガレット様もいるんだ!
これは勝ちが確定。
「姉上、戦戯版でティアとの勝率は?」
ハティさんがジト目で見ている。
「四割ですね」
ちょっとぉ、エリーゼお姉ちゃんに勝ち越すティアさまって何なの?!
ゲームだからじゃないよね!?
ハティさんが頭を抱える。
「大丈夫だゼ!」
なんだか爽やかにフィンレーが言う。
親指をちょっと舐めている感じは不思議だけれど。
「あの中二病さん、予想外のことには弱いだろ」
……中二病?
「だったら、こっちはダークホースがいるんだから」
そう言って呆けているハルを見る。
うん。ハルは真っ白どころか透明。
な~んにも考えていない。
「ハル・ロッシェ!俺らのジャガー・ノートだ」
自信満々に答えるフィンレー。
途端に、お姉ちゃんとハティさんが立ち上がって叫んだ。
「「それだぁぁぁあぁ!」」
うん。ハルがおかしいのは知っているけれど。
国家規模の戦、大丈夫なのかな……




