第25話 伝説の刑事「コレット」と農業離脱症状
「あ~、ちょっとぉ、いいですかぁ~」
私、コレット・オルレアは気だるそうに言う。
「この中にぃ、犯人がいます~」
眉間に指をあてて、少し間を置く。
「ん~、ハティさん、あなたはぁ昨日お昼過ぎからぁ、別行動をとっていましたねぇ」
私の言葉にハティさんが頷く。
「何時ごろ、この宿に戻りましたかぁ~?」
「はい。午後11時頃だったと記憶しております」
「そうですか~」
何でこんな話し方になったか。
それはもう照れくさいのと恥ずかしいのとで、まともに話せないからだ。
だって、お姉ちゃんとハティさん。
メチャクチャにやにやしている。
そして、心の声で「きゃわいいいい~」と連呼している。
そう、今の私はフリルとリボンがいっぱいついた「ホワイトロリータ」の格好。
朝、目が覚めるとすでにこの格好だった。
(ヤバいよヤバいよ、僕はキュン死してしまうよ)
(ああ、いいわぁ、その照れ隠しのウィスパーボイス!いいわぁ)
……いや、もう、この人たちが犯人なのはわかっているんだけれど。
「私は昨晩、先生と9時過ぎには就寝していましたぁ~、部屋に鍵をかけていたのでぇ、入ることはできませんでしたよねぇ」
魔人、アガートラームの逸話にはどんな厳重な警備でも侵入できるというものがあった。
もちろん暗殺がらみ。
でも、今回はそんなことはしていない。
いくらロリ……もとい、蕾愛好者であっても、彼は「紳士」だ。
寝ている私を着替えさせるという暴挙はしない。
だって、根は超真面目なんだということは「視え」ているもの。
「はい。私は別の部屋をとってそちらに」
「アリバイはぁあるわけですねぇ~」
私は眉間に指を置き、少し間をとる。
「ん~、そうなるとぉ、これは『密室』での犯行となりますねぇ~」
ちらりとお姉ちゃんを見る。
にまにまと笑いをかみ殺して口を動かしている。
「つまりはぁ、『共犯者がいる』ということですぅ~」
ごくりとふたりは唾をのんだ。
「寝ている私に服を着替えさせることのできる人はぁ一人しかいません~」
私はそこで深呼吸をした。
「つまり、犯人はあなたたち二人だ!」
…
……
「「はい。すみません、私たちがやりました」」
ふたりが揃って両手を差し出す。
手錠をかけられる動作。
「……お金の無駄遣いと思わないんですか?節約しないと」
私の言葉に二人が声をそろえて言う。
『必要経費だ』
……なに、この姉弟の連帯感。
「コレット、服屋さんで『可愛い』って欲しそうに見ていたじゃないか」
ハティさんが言う。
「そうよ。コレットだっておしゃれしたい年頃でしょ?それにとっても似合うと思ったの」
お姉ちゃんも続けて言った。
何というか……
嬉しいんだけれど、どうしていいかわからない。
「もしかして違うのが良かったのかい?」
「気に入らなかった?」
心配そうに二人が私を見る。
「ううん、とっても可愛くてうれしいんだけれど……」
なんだろう、目の前の二人の心は綺麗な色をしている。
「よかったぁ」
そう言ってお姉ちゃんとハティさんがハイタッチ。
純粋に私のことを想ってやってくれている。
私はこのふたりにちゃんとお礼を言ってない。
だから、勘違いだったら恥ずかしいんだけれど……
私は思い切って言ってみた。
「ありがとう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」
ふたりは固まった。
そして、数秒後、仲良く鼻血を吹いて卒倒した。
まさかの聖騎士長と魔人の「殺人(キュン死)事件」。
あ~、…コレットぉ……オルレアでしたぁ~
◇
場所は変わって「ドワーフ自治区」。
ハルたち一家は、「メタラム集落」に腰を落ち着けた。
腕利きの鍛冶師「ギース」の工房に併設された宿舎。
今はそこに間借りしている。
「しっかしさ、ハルのジャガイモは本当に美味いな」
フィンレーがポテトサラダを食べながら言う。
「確かにそうだね、何でか魔力まで回復するし」
「だよな、筋肉痛にすらならない」
アルセイスとスヴェンも同意する。
「あら、お上手ね。もっといっぱい食べてね」
ハルの母、マーナが言う。
フィンレーたち「魔狼騎士団」たちもこの宿舎に居座るようなった。
朝早い職人たちに先を譲って、今は、ゆっくりと食事を摂っている。
ルーダだけは他の職人たちと共に工房へと行ってしまった。
・ライ麦パン
・豆と野菜のトマトのスープ
・トルティージャ(ジャガイモ入りオムレツ)
・ポテトサラダ
特に「ポテトサラダ」はこだわりの一品。
あえて甘みを出すために玉ねぎと煮込んでマッシュしている。
アイスクリームみたいなドーム状にミニトマトとレタスの彩りだって完璧。
「お世辞じゃないですよ~」
リャナンもポテトサラダを食べながら言う。
「私、あんまり頭良くないからよくわからないけれど、ハルの作る野菜は他のと全然違うんですよ?」
リャナンが褒める。
ちょっと垂れてきた黒髪を手で押しやって食べる姿は美少女そのもの。
「ね?リムもそう思うでしょ?」
リャナンが同意を求めるようにリムアンを見る。
「ん……」
リムアンは無言でこくこく頷く。
猫舌のリムアンはスープをふぅふぅ冷ましながら食べている。
「ありがとう。ハルにも言ってあげると喜ぶわ」
マーナの言葉に「はぁい」とみんなで元気よく答える。
「しっかし、珍しいな。ハルがまだ起きてこないって」
スヴェンが二階へと続く階段を見る。
「確かにね。一番の早起きだったのにさ」
アルセイスも首を傾げる。
「まあ、街に着いて気が緩んだんじゃないか?トレーニングもキツいしさ」
フィンレーが言う。
「もう少し、寝かしておいてあげようか」
◇
食事を終えた時だった。
ハルが階段を下りてくる。
「おはよう」
フィンレーたちが声をかける。
しかし、ハルは返事をしない。
ふらふらと危うげな足取りで階段を下りる。
「ねえ?大丈夫?」
異変に気づいたリャナンが駆け寄る。
見ると、ハルが荒い息をついていた。
はぁはぁはぁはぁ……
「ねえ?ハル?」
リャナンが顔を覗き込む。
ハルの目は虚ろだった。
「…チヲ……ツチ……、オイモ……さん」
ハルが何事かを呟いている。
「え?何?熱でもあるの?」
そう言ってリャナンがハルの肩に触れる。
「触りたい」
そうハルが呟いた。
リャナンは反射的に後ろへと跳ぶ。
「っ!?どうした」
笑顔を絶やさないリャナンの目が、暗く、敵意に満ちたものに変わる。
「……触らせて」
ハルが今度はハッキリと言った。
リムアンも立ち上がり、警戒を示す。
「触りたい……匂いを……」
ハルがふらふらと歩み寄って来る。
「なんだ?何かの呪いか?」
「昨日の夜まで普通だったよね」
「サキュバスとか?」
「いないでしょ、この街には」
「だよね~」
男どもは暢気に話している。
「匂いを……嗅ぎたい」
そう言ってふらふらと歩み寄るハル。
「ダメダメダメダメっ!生理的に無理!」
リャナンが叫ぶ。
「り、リムも……嫌だ」
斧槍を構え、ハルを威嚇する。
しかし、ハルは止まることはない。
「匂いを嗅ぎたいっ、触りたいっ!」
突然、ハルが叫んだ。
そして、突進してくる。
『ぎゃあああああああああああ!』
リャナンとリムアンは悲鳴を上げて跳び退る。
ハルから離れるように壁際へと避難した。
「―――――あれ?」
だが、ふたりを無視してハルが駆け抜けていく。
ふたりは唖然として、ハルが出て行った扉を見る。
「どういうこと?」
首を傾げるリャナン。
「まっ、まさか!?」
リムアンが驚きの声を上げる。
「街の人たちを狙ってっ!」
その言葉に「魔狼騎士団」たちは顔を見合わせた。
『まずい!ハルが変質者になってしまう!』
慌てて後を追った。
◇
ふふっ、ふふふふふふふ……
僕はかぐわしき香りに包まれていた。
さわさわさわさわさわ
撫でている手には、吸いつくようなしっとりさと、絶妙な柔らかさ。
「はぁぁぁぁぁ」
僕は嬌声を上げる。
くんかくんかくんか
鼻腔一杯に匂いを吸い込む。
〈ろ、ロッシェ……〉
アンジェさんが困ったような声を漏らす。
〈こんなの、誰かに見られたら〉
躊躇う声。
でも、僕はこの香りと感触から離れることができない。
至福の時間だ。
「もうちょっと、もうちょっと」
〈あっ!?ろっしぇぇっ〉
アンジェさんの戸惑う声。
〈そんな、深くまでっ!?〉
僕は彼女の声に構わず頭を進める。
「――――――おい」
後ろから声をかけられる。
当然、僕は無視した。
「何をやってるんだ。不審者」
うるさい。今、良いところなんだ。
グリグリと顔をさらに奥へと押し入れる。
〈待って、さすがにそれは――――〉
アンジェさんの悲鳴も僕は遠くに聞こえる。
「おいってばっ、ハル!」
グイッと引っ張られる。
「キシャアアアアアアアア!」
僕はせっかくのお楽しみを邪魔され、奇声を上げて威嚇した。
「うおっ!?」
僕を「ソレ」から引っぺがしたスヴェンがたじろぐ。
「邪魔ヲスルナ」
僕はうめく。
「いや、さすがに、止めるだろ」
フィンレーが言う。
「『トモダチ』が、ヤバい行動していたら」
その言葉に僕は止まった。
「トモダチ……」
僕の呟きにフィンレーたちが頷く。
「そう、俺たちは『トモダチ』だ」
その笑顔に涙があふれてくる。
「トモ、トモダチぃぃぃ」
「そうだ、俺たちは『トモダチ』!いや、『マブダチ』だっ」
その言葉が僕の胸を打った。
「『土』ハ、トモダチィィィ!」
そう言って膝をつく。
再度、掘った地面の「奥」へと顔をこすりつける。
『だからぁっ!花壇の「土」に顔こすりつけて匂い嗅ぐのやめろって!』
みんなが声を上げた。
◇
「フム。いささか取り乱してしまったようだ」
僕の言葉に、「あっそう」とフィンたちが言う。
「それで済んだら、ねぇ……」
リャナンは不機嫌そう。
「確かに。けっこうビビった」
リムアンも言う。
ふたりはわずかに警戒してか、僕から距離をとっていた。
「まさかさぁ、急に飛び出して行ったと思ったら、花壇に頭突っ込んで匂い嗅いでるとか、正直、引いたよ」
アルセイス肩をすくめる。
「だってさぁ」
僕は言い訳をする。
「メタラム集落って石ばっかりで、『土』がないんだよ」
そう言ってみんなを見る。
「耕作地なんてほんの僅か。みんな野菜を『買う』のが当たり前ってどういうことさ」
僕は文句がとめどなく出てきた。
「輸入に頼って、食物自給率が低いって致命的だよ」
「品物が入ってこなくなったら、みんな飢えてしまうよ」
バンバンバンッ!
僕はテーブルを叩いて駄々をこねる。
「僕は農家だよ!お天道様のもとで土耕して、作物育ててなんぼなんだよ!?」
バンバンバンバンバン
「『ノー、ポテト。ノーライフ』!アイラブ、農業」
「僕に『土』をいじらせてくれなきゃグレちゃうよ!」
バンバンバンバンバンバンバン
僕は必死に訴える。
「僕に【土寄せ棒】振るわせてくれよ!」
「三角ホーで、除草作業だってやりたいよ!」
バンバンバンバンバンバンバンバン
「つーか、うるせぇよ!テーブル叩かなくても話せるだろ!」
フィンレーが怒鳴る。
「いや、僕さっきから叩いてないけれど?」
その言葉に皆が「?」と顔を見合わせる。
「確かに」
そう言って、廊下を見る。
どうやら誰かがドアを叩いているみたいだ。
「?」
僕は出入り口に向かう。
「どちらさま……うわっ!?」
ドアを開けた瞬間、抱き着いてきた人に驚いて転んでしまった。
「ハル!村が大変なのっ!助けてっ」
大荷物を背負った少女が僕に抱き着き、そう言った。




