表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/135

第129話  黒猫の裏切り?。白銀の聖女と痣の従者。



―――――グシャッ!



鈍い音がして巨躯が倒れる。


さして広くない小屋。


すり鉢状に中央が低くなっている。


中央では10人の男たちが殴り合っている。


後ろに下がることがないのは、観客席と彼らとの間にある「溝」のせいだ。


そう、「溝」では熱湯が湧いている。


落ちればひとたまりもない。


観客がまた一際大きな歓声を上げた。


コレットはそれを横目で見ながらも、惨劇に眉をひそめた。



「さっさと歩くニ」


追い立てられる。


後ろにいるのはクロエ。


黒猫の獣人族。


フード付きの外套を身に着けている。


「おっと、こっちは見るな。お前の【能力スキル】は把握しているニ」


コレットはせっつかれて進む。


(しまった。これは想定していなかった)




今朝のこと。



「コレット、大丈夫かニ」


積み荷を準備しているところにクロエさんが現れる。


「あ、クロエさん。どうしたんですか?」


「連絡がないから様子を見に来たんだニ」


「ああ、そうでしたか」


クロエさんは、共和政府本営でも私の見守りしていた人。


きっと、またエリーゼお姉ちゃんに言われてきたんだろう。


「この間、『変なおじさん』に絡まれて……」


私は休憩がてら空箱の上に座って話し始めた。


クロエさんも手近な箱を見つけてちょこんと座る。


先日の「ディック」の件について話した。

そうしたらクロエさんは腹を抱えて笑い出した。


「傑作だニ。いいお土産話だニ」


それから私の頭を撫でた。


「オマエは面白い子だニ。エリーゼ様に似てきたニ」


背丈とか私とそう変わらない。

見た目も同い年くらい。


これで、フィンたちよりも年上って悪い冗談みたい。



なんだか、くすぐったい。


お姉ちゃんに似ているって。


「ハルとは進展があったかニ」


不意にかけられた言葉に私は身を固くした。


「あ~あ~、失言だったニねぇ」


クロエさんは頭を掻いた。


「敵陣の中で『にゃんにゃん』しようとしていたからてっきり、もう……」


「キャー、キャー!」


私は慌ててクロエさんの口を塞いだ。


「く、くりゅしぃ、ニ……」


「わっ、ごめんなさい」


私は手を離した。


「なんだ。もう『ちゅ~』くらいしていると思ったニ」


……ワザとですか?


「ふむふむ。そっちはまだ年相応だニね」


クロエさんはわかったような顔をする。

あなたも、見た目だけなら同い年ですよ。


「それなら、いい機会だニ。大人のお姉さんが教えてあげるニ」



そう言ってぴょこんと箱から降りた。


「街での行商。休憩時間についてくるニ」





そして私はクロエさんに拘束された。


「悪いニねぇ」


そうして、この「格闘興業」をしている見世物小屋に連行されている。


「こうも簡単に騙されるなんて。マクスウェル関係者はみんな『いい人』だニ」


私は振り返りそうになった。


「おっと、ダメだニよ」


ちょんっと背中に固いものがあてられる。


たぶん。ボウガン。


引き金をいつでも「引ける」と脅している。


「ちゃんと、『ボス』に会わせてあげるだニ」


私はとにかく蒸し暑い中を歩く。


そして、小屋の地下へと進んでいった。





地下室の一角。


幾重にもブラインドが下ろされた向こうで対面する。


本当に、私の【能力スキル】を知っている。


「君があの、『コレット・オルレア』なのか」


ブラインドの向こう。


男が質問してくる。


「そうです。だったら、どうだって言うのですか?」


私がそう尋ねた時だった。


男が席を立ち、こちらへ向かってくる。


ふゎっと風が舞った。


私の目の前で跪いている。


「無礼をお許しください。『王女殿下』」


なにを……。


「一従者の無礼。あくまでも私の独断です。我が主は一切知りません」


その黒髪の男の人は首を垂れて礼を尽くしている。


「主というのは?」


「エリーゼ・カナン・マクスウェルさまです」


その人は断言した。


「なぜ、このような」


「必要なことだからです」


「私を帰してください」


「できません」


「どうしてですか」


「今はお答えできかねます」


そう言って立ち上がると、一礼をする。


そうしてブラインドの中へと姿を隠してしまう。


本当に、私の「能力スキル」【高貴なる洞察ノーブルインサイト】について理解している。


この能力は「視界」に納めていないと効果がない。


それは私が認識していなくてもいい。


ランドルフさんは本営の時、【隠蔽】のスキルを使っていただけで「あの場所」にいた。


そして、物陰には隠れていなかった。


だから、視界には入っていたんだ。


そして、魔術を併用していたからすぐにわかった。


けれど、この人は「魔術」も使わず、ブラインドに隠れて「視界」から逃れている。


本当に、「頭のキレる」人。


そして「警戒心」と「疑り深さ」が強い人。


それでも、先ほどの会話の中だけでも「視えた」ものがある。


それは、「お姉ちゃん」の過去の姿。


この人との出会い。





目の前にかわいらしい女の子がいる。


私は弟の「ルーク・バッフェ」と共に彼女に面会した。


彼女の名は「エリーゼ・カナン・マクスウェル」といった。


我ら「バッフェ(剣)一族」が仕える「マクスウェル家」の一人娘。


彼女は白銀の髪を持ち、透き通るようなアイスブルーの瞳をしている。


まるで、美しく象られた人形だ。


世の少女が羨むであろう美貌。


それでいながらも勝気な雰囲気を醸し出している。


「フリード、ルーク。挨拶を」


ご当主の「トリスタン様」が促す。


私とルークは跪いた。


「フリード・バッフェ。10歳です」


「ルーク・バッフェ。8歳です」


挨拶をするも、返答がない。


「今日からこの二人はお前の『従者』として仕える」


トリスタン様が言う。


「年も近い。仲良くしなさい」


そのようにおっしゃられても、当のエリーゼ様は無言。


ややあって口を開いた。


「ねえ、『ふりーど』はなぜ顔を背けているの?」


単刀直入。


「それは不敬ではなくて」


核心をついた言葉。


「あ、兄者はっ!」


ルークが弁護しようとした。


「いいんだ。ルーク」


私はそう言って弟を制す。


「失礼いたしました」


私は真っ直ぐにエリーゼ様を見る。


私の右半面に広がる「痣」がわかるように。


「フリードの痣は生まれつきだ。感染する病ではない……」


説明するトリスタン様を無視して、エリーゼ様が私に歩み寄った。


そっと私の右痣に触れる。


「ねえ、ふりーど。痛いの?」


そう幼い少女は言った。


「いえ」


私は答えたが、彼女は手を離さない。


「でも、『痛そう』」


手を離す。


「だって、あなたは泣いているもの」


不意に、私の右の頬骨のあたり、「痣」に柔らかい感触があった。


―――――ちゅっ


「っ!?」


トリスタン様もルークも驚いた顔をしていた。


もちろん、私も。


「ね、やっぱり『痛かった』んでしょ?」


エリーゼ様が離れる。


「じゃなきゃ、なんで今も泣いているの」


私は自分の頬に手をやった。


涙が……なぜ……


「うん。あなたたちとは仲良くなれそう」


にっこりと笑う。


「私も同じだから」


そう告げる少女。


「お父様。ありがとうございます。こんな素敵な従者を紹介してくれて」


エリーゼ様は深々とトリスタン様に礼をとった。


そして私たちの方を向く。


「ふりーどっ、るーくっ」


私たちの名を呼ぶ。


「これからは『私の従者』として励みなさい。私も『主』として恥じないように励むわ」


声高らかに告げた。


「これから大変よ。暇なんかしていられないんだからっ!」


いたずらっ子のような顔で「にっ」と歯を見せて笑う。



これが、我が「主」。


エリーゼ・カナン・マクスウェルとの出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ