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第128話 捨て猫と白金の虎。これでアナタを遠慮なく殴れます。語られる「巨人撲殺伝説」!



「私はクロエ・カッツェと申します」

少女は慇懃に挨拶をした。



「よろしく、クロエ。あなたが案内人ポーターと伺っています。合っているかしら?」

私は握手を求めた。


小柄なその少女の瞳をのぞき込む。


少女はいささか躊躇いながも私の瞳を見返してうなずく。


握手をしてくれた。


「……そう。ではよろしく。私たち迷宮攻略の経験は少ないので案内人がいるのは心強いわ」


カッツェですか……怪しい家名ですね。


“猫”とは本物の家名なのでしょうか。




しばらく歩いた先。

石碑を見つける。


「あの石碑はなんでしょうか?」


「歌ですかね?何か書いてあります」

ルークが私に代わり、石碑に近づく。


「え~、なんだ?」


『犬は守り手 常に謙虚で誠実に努める』


『熊は賢者 知恵と勇気を備え困難を打ち崩す』


『獅子は王者 公正に裁きすべてに寛容である』


ルークが首をひねる。


「聞いたこともないな、ダンジョン内だから何かの呪いの言葉か?」


「確かに私も知らない言葉ですね」


「誰か知っている者はいるか?」

他のメンバーも首を振る。


とはいえ、無意味に立てられているわけがない。


記録しておきましょう。




ダンジョンアタックは割と順調であった。


罠もあったが、クロエが先回りして解除してくれた。


(うん。怪しい子ですね)


私は思う。


これだけの技術がありながら、「荷物持ち」という位置づけ。


獣人族であるのだから、身体能力も高いはず。


身のこなしからにじみ出る「実力」。


さらに、ここまででの立ち回り。


出てきたモンスターの命を奪うことに「ためらい」がない。


たとえ、「人型」をしていたとしても。



「伏せてっ!」

クロエの声が聞こえる。


私は伏せる。


同時に矢が飛び、黒い塊を射落とす。


「クロエ、ありが……」

言いかけた私はその黒いものを見た。


うねうねと動く大きなクモ。


「大丈夫ですか」


クロエの問いに答えることができない。


「あ、ああ…あ……」


私は形容しがたい嫌悪感に体を振るわせた。


「いかん」


ルークが駆け寄ってくるのと私が悲鳴を上げるのは同時だった。


私は混乱して泣きわめきながら暴れた。



その間のことはよく憶えていない。


気づけはあたり一帯が更地になっていた。


「うう、るーくぅ、るーくぅ」


べそをかく私をルークはよしよしと撫でて慰めてくれる。


「ホント、苦手なんですね……」

「だってぇ、きもちわるいんですもの」

「わからんではないですが」


他の者たちは私の狂乱に怯えているようだった。


それでもルークが叱りつけてあたりの警戒をさせていた。



ごめん、ルーク。





三体の巨像が立っている。


一体は鎖と鏡を手に立っている。

もう一体は戦槌と書物を持っている。

そして3体目は剣と秤を手にしている。


「他に通路は見当たりませんでしたね」


「ということは、ここが最奥でしょうか」


私の問いに同意するようにルークが答える。



「『謙虚』『誠実』『知恵』『勇気』『公正』『寛容』とは騎士の徳と思っていましたが……」


ここまでの部屋で得たアミュレットを見る。



「犬」「熊」「獅子」の三種類。



「あの像に対応しているのでしょうか?」

「そうですね、その前にこの部屋を調べてみましょう」

私たちは手分けをして部屋を探る。


「なにもありませんね」

一通り調べ終わった私たちは「やはり」と三体の巨像を見た。


「台座にちょうどアミュレットを納められる穴がありましたね」


「つまり……」


犬のアミュレットは『謙虚』『誠実』


熊のアミュレットは『知恵』『勇気』


獅子のアミュレットは『公正』『寛容』


「これらを示す台座に置かなくてはならない」


「あの像の持ち物、それぞれが違うので判別してみましょうか」



「あの~」

ブレイブが手を挙げる。


「どうした?」

「秤を持っている像は『公正』ではないでしょうか。『寛容』かはわかりませんが」


「なるほど」


「では、本を手にしているあの像は『知恵』だな」


「そうすると、消去法で鏡を手にしているのは『謙虚』か『誠実』ってことに?」


「とりあえず置いてみるか」

そう結論付ける。




一番確実な「秤」の像に近づく。


「エリーゼ様はどのような罠があるかわからないので、この者たちに」

ルークが無慈悲なことを言う。


「部下を危険な目に遭わせるわけにはいきません」

私がなおも前に出ようとするとブレイブが止めた。


「ダメです。私が言いだしたのですから、私がやります」


うん、いい子ですね。


台座に獅子のアミュレットを置く。


青い光が浮かび、像の表面を蜘蛛の糸のように広がりつつ走っていく。


像の目の部分に到達すると目の部分が光った。


私たちは警戒を示す。


しかし、何も起こらなかった。


ブレイブが手を放すとアミュレットが弾かれて台座から落ちた。


「間違っていたのでしょうか?」


そう言って落ちたアミュレットを回収してから「熊」と取り換える。


そうして台座にはめ込んでみる。


「何も……」


「ブレイブっ避けろ!」

彼が立っていた場所に巨大な剣がふりおろされる。


ブレイブは横に転がって避けた。


巨像はなおもブレイブに襲い掛かる。


私とルークがさせまいと巨像に攻撃をしかける。


かなり固い手ごたえではあったが、表面を削り、押し返すことができた。


像はなおも動き続ける。


それどころか削り取った部分が修復されている。


「えいっ」


クロエが掛け声と共に台座からアミュレットを外す。


途端に巨像が動きを止める。


追撃に備えていた私たちはほっと息をついた。


「グッジョブ!クロエ」


ルークが褒める。


「やりますね」


私も笑いかけると彼女は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「助かりましたぁ、ありがとうございます」


ブレイブは半泣きで縋りついてくる。


「こら、どさくさに紛れてエリーゼ様に抱き着くな!」

ルークが叱る。


それを遠くの物陰からアビスが見ている。


「……」


私たちがじっと見つめると、「すみません」と謝った。





「えっと、状況を整理しますと」

クロエがそれに構わず話を進める。


「たぶん、ブレイブさんの予想どおり、「獅子」は「公正」を表す秤を持った像で合っているんだと思います」


「では、誤ったものを置くと攻撃されるというのだな」


「おそらくは」


「そうなると、正しいものが弾かれたのはなぜでしょう」


「それは……」


「たぶん、3か所同時に置かなければならないのではないでしょうか」

アビスが言う。


「ふぅん」

私は思わず頬を緩めた。


「あ…いえ、間違っているかも……」

急に意見を引っ込める。


「やってみましょう!」

私はアビスの背を叩いた。


「ぶっ」


彼は咳き込んだが、良い傾向に私はご満悦だ。


ルークもブレイブも笑って彼の肩を叩いた。


けれども視界の端でクロエが固い表情で見ているのが気になった。




「それでは、エリーゼ様とクロエは離れて見ていてください」


ルークが言う。


男三人がそれぞれにアミュレットを持ち、台座の前に立つ。


「置いたら弾かれないように押さえておく。異変や危険、特に像が動き出したらアミュレットを即座に外す。良いな!」


ルークの指示にブレイブもアビスも頷く。


「それでは、カウントをする。私の指示で同時に置くぞ」


緊張の面持ちで三人は台座を見る。


私は最初の像が台座から離れてしまっているので、その動きを注視する。


「3、2、1、設置!」


三人が同時にアミュレットを置く。


最初の時と同じように青白い光が走り、像を覆う。

像の目の部分が光を帯びる。


「どうだ?」


ルークが声をかける。


「なにも……起きませんね」


アビスが言った時だった。




入り口の扉が閉まり始める。


「しまった!エリーゼ様、お逃げください」

ルークが叫ぶ。


気づくとクロエの姿が入口付近にある。


「す、すみ、ません。エリーゼさま」


「あなた……」


「ごめん……なさい」


「武器が!?」

ブレイブの言葉にクロエの手元を見る。


私たちの装備……武器が彼女の手の中にあった。


(盗賊スキル、『窃盗』)


即座に私はクロエから武器を奪おうと走った。


「貴様っ!」


ルークも叫び、クロエに向け駆ける。


他の二人も脱出のために入口へと走った。


「っ!?」


そこで、巨像が動き出した。


再度迫りつつある。


入り口付近にいた「剣の像」が襲い掛かってきた。


これによって私たちの脱出は阻まれてしまう。



「ここで、死んでください」



言い終えるが先か、クロエの姿が壁に溶け込むように霞む。


【隠蔽】スキルまで使っての逃走。


それと同時に重い音を立てて扉が閉まった。





逃げ場のない状況。

武器もない。


ならば―――――


「全員、私に命を預ける意思はあるか!」

私は叫ぶ。


「全員、生き残る勇気はあるか!」

本当は怖い。逃げたい。


「栄光は我がもとに。そなたら騎士の誉はここに」

けれど、私は導かなくてはならない。



騎士として、当主として彼らを。



一瞬だが、ある青年の顔が浮かぶ。

彼ならどうしただろう。


彼なら、彼は己の外聞など気にかけず心の声に従う。


「我が命に従え!」


エリーゼ・カナン・マクスウェルは、決断した。



   「皆の者!―――『逃げろ』!」





古今、どこの指揮官が「逃げ回れ」と命令することがあったであろうか。


だが、攻撃の手段を持ち得ないのでは逃げ回ることで機を得るしかない。


「こっちだっ!ウスノロ」

ルークが走り回り、一体をひきつける。


その間、他の一体に対し、ブレイブとアビスが石を投げ注意を反らす。


そして、私はというと・・・・


「あああああああああぁぁっっ!」


咆哮とともに一体のゴーレムに向かう。


無論、素手であった。


ガントレット、つまり手甲で覆われた拳を巨像……ゴーレムの眉間に叩きつける。


殴りつける一瞬、身の内の魔力を接触面に集中させる。


ゴーレムの眉間部分の外装が削れ落ちた。


(削れる!)


一撃ではこの深さ。

なら一体を倒すにも何千、何万も当てなければ中心部まで削れない。


そして、自己修復をされるのであれば・・・


手ごたえを感じた後、削れた箇所を土塊が覆い始める。


(なるほど、自己修復にかかる時間はせいぜい1分ほど)


頭の中で相手の特徴を推し量る。


(これは、なかなか!)


訓練のなかで素手の格闘術は体得している。


しかし、武道僧侶のように熟達しているわけではない。


(直す前より、深く削り取る!)


本当なら声を発するのも億劫。

それだけ余裕はない。



「魂なき傀儡よ!哀れなるそなたらの身に刻め!誰を敵に回したかを!」



「我が名は『エリーゼ!』、『エリーゼ・カナン・マクスウェル』!」



「白銀のマクスウェルの爪牙にかかり、膝をつかぬものは無かったと後世に語られよ」



無様と笑われようが、幼き頃より読み聞かされた英雄を演じる。


自分が弱みをみせれば、皆の士気が萎える。

だから、導くのだ。





「うわぁぁぁぁ」

ブレイブが悲鳴を上げる。


鎖と鏡を持った像。

それが振るった鎖が彼をかすめ、転倒をしてしまったのだ。


(仕方ない)


「【コンビクション(断罪)】!」


法術の中でも数少ない攻撃術。


光剣が地面から突き立ち、像を足元から穿つ。


だが、その剣先が像を捉えたかと思うと鏡に反射するようにこちらに伸びてきた。


「っ!?」

咄嗟に私は避けた。


だが、立っていた場所が反射された法術によって焼き切れていた。


「嘘だろっ」

アビスが悲鳴を上げる。


ああ、武器以外の道具はそういった使い方をするものなんですね。


ということは。


戦槌と書物の像が放電する。


やはり知恵の象徴である書物から予想されるのが。


戦槌を掲げると天井から雷が降ってくる。


「こいつ、魔術を」

ルークが慌てて退避する。


これはかなりまずい状況。


私以外の3人に攻撃手段がない。

だから回避に専念してもらい、かく乱して1対1の状況をつくってもらっている。


だが、こうも遠距離や範囲攻撃を出されるとこの構図が崩れる。


何よりも、剣と秤の像の「秤」で何をしてくるのか予想がつかない。


気をとられているうちに剣の像が私に迫り、剣を振り下ろしてくる。


私はそれを避けてカウンターの拳を叩き込む。


よしっ、胴を削った。


このまま畳み込んで―――――


「……カフッ」


私は腹部に痛みを感じ、吐血した。


何が起きた?


目の前の像が手にしている天秤が傾いている。


それがもとの均衡を保とうと動いていた。


(「公正」ってそういうことですか)


私が痛みを感じた場所は、剣の像を削った場所と同じ部位。

おそらく鎧の中では傷を負っている。


すぐに回復術を使って治療する。


(いやらしいですね)



この剣の像は「秤」を使って自身の受けたダメージを返す。

つまりは攻撃できない。



鎖の像は「鏡」を使って魔術を反射する。

つまりは魔術攻撃をすると危険だ。



戦槌の像は「書物」を使って魔術を放ってくる。

つまりは近づくことが難しい。



唯一の救いはそこまで動きは速くないこと。


ここにいる全員が避けることは可能。

ただし、体力が続けばの話。


幸い、ブレイブもアビスもちゃんと走り込み訓練をしているのか、まだ体力が残っている。



(おや?おやおやおやおや……)


私は気づいた。



戦槌については対処可能。

鎖は鏡の反射に気をつければよいので物理攻撃は可能。



問題はダメージ反射をしてくる剣の像。

危険度が最も高いのはコイツだ。


では、他の像が攻撃した場合もダメージ反射をするのか。


試してみる価値はある。


「ルーク!」

私はルークを呼ぶ。


彼は戦槌をひきつけるのをやめ、転がるように私のもとに来た。


「考えがあります」

そして手短に伝える。


「あの二人にも協力をしてもらいます」

「承知しました」

ルークは頷く。


「作戦を伝えるまで私が二体ともひきつけます。伝令が終わったら作戦通り、こちらに向かってきてください」

「はい」


ルークが鎖をひきつけている二人に駆けだそうとした。


「待ちなさい」


呼び止める。

ルークは不満を見せることもなく、ただ指示に従って私の言葉を待った。


私は言い忘れていたことを彼に言った。


「あの二人にも『信じている』と伝えてください」


それを見てルークは笑った。


  「エリーゼ様にはやはりかないませんな」





走り去るルークを確認して、私は二体の像に集中する。


私はうまくやれる。


そう言い聞かせる。


二体の像の攻撃をかわす。


戦槌は魔術を使わない。

やはり剣のダメージ反射を避けているのか。


「エリーゼ様!」

ルークが声をかけてくる。


作戦開始だ。


私は法術で強化した筋力を解放した。

高速で二体の巨像の攻撃を掻い潜って接近する。


目指すは剣の像の腕。


「はぁぁぁ!」


ダメージ反射を覚悟で剣を握っている拳を壊した。


「ぃっ!」

覚悟していたとはいえ、激痛が走り、私も同じ右拳を骨折した。


けれど、これで――――


「うおおおおおお」

ルークが叫び、剣の像が取り落とした剣を奪った。


「これで俺も反撃できる」


巨像にとっては片手で扱う剣だが、ルークの身長の三倍はある巨大さ。


それを彼は両手で担ぐ。


魔術が使えない分、それを補えるだけのフィジカルの強さを彼は持っている。


「行くぞっ!」

ルークが鎖の像へと突進する。


ゴーレムはひきつけていたふたりを無視してルークへと鎖を投じてきた。


「おらぁぁぁ!」


気合一閃。


大剣を振るい、鎖を叩き落とした。

そのままの勢いで接近する。


「これでも、食らえっ」

ルークが大剣を振り下ろして鎖を持つ腕を壊す。


すかさずブレイブとアビスは鎖を二人がかりで持ち、巨像の足に絡ませる。


ルークがダメ押しとばかりに剣を薙いで巨像を転倒させた。


「エリーゼ様!」

私は待っていたとばかりに法術で攻撃を放つ。


「【ジャッジメント(神判)】!」


身動きのとれない鎖の像は私の術を鏡で反射させる。


だが、私の立っている場所には戦槌と剣の像もいるのだ。


私は反射された術を回避したが、二体の像はこれに巻き込まれた。


そして、目論見通り剣の像は自身の受けたダメージを鎖の像に返してしまう。


鎖の像が崩壊した。


「「よっしゃぁ!」」


ブレイブとアビスが歓声を上げる。


剣の像も体が崩れていく。


残るは―――――


戦槌は耐性があるのか、まだ動いて槌を振るい、私に襲い掛かる。


「ふふっ」


私は思わず笑みを浮かべる。


筋力解放と魔力の集中を両腕に施した。


ようやくだ。

図体のわりに反射だとかなんとかちまちまと小賢しい。


「これで、心置きなくっ」


暴走しているのか、戦槌を振るいながら巨像は魔術も手あたり次第に放っている。


私は駆けた。



   「あなたを――ぶん殴れますっ!」



ジャガイモ仲間のみなさんへ


今日も1日お疲れ様でした。


今日はどんな日でしたか?

いつもどおり?

ゆっくりできた?


それともクロエみたいな「裏切り」があった?


どんな日であれ、1日を戦い抜いたアナタは「ヴィクトリー」!



作中のエリーゼさんたちみたいに、「罠」をぶっ飛ばしてしまいましょう!



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