第116話 変装潜入のはずが「壁ドン」からの身ぐるみ剥がされる僕。そして、安定の「地雷踏み抜き」
ああ、なんだか既視感があるな……
僕は壁を背にし、挟み込まれるように追い詰められていた。
いわゆる「壁ドン」。
ここは「旧マクスウェル領」で「現スペンサー領」。
雨上がりの路地裏。
表通りの喧騒は遠い。
薄暗く、足元はまだ水たまりが残っている。
目の前には「白銀の髪をした美女」。
「うふふふっ、あなたから『いい匂い』がします」
◇
壁に右手をあてて、僕を逃さないようにしている女性。
彼女が妖艶に笑う。
けれど、アイスブルーの瞳は笑っていない。
エリーゼさんとそっくりの容姿。
髪の長さやちょっとした髪質の違いがあるだけで、間違えそうになる。
そして、匂いも違う。
エリーゼさんは柑橘系の匂いに「スパイシー」な感じがする。
この人は柑橘系の匂いのなかに「重く甘ったるい」感じがする。
オルジュの街や首都で嗅いだあの匂い。
「あ、あの……」
僕は見詰められながら恐る恐る声をかけた。
「イグリースさん?ですよね」
スンスンと僕の匂いを嗅いでいる美女。
「ええ、首都であった時にはそう名乗っていましたね」
興味なさげに答える。
「ああ、『いい匂い』の元はこれですね」
そう言って左手をそっと僕の胸に這わせる。
「ちょっ……」
「あら?可愛い声」
そう言って僕の上着の中に手を入れる。
服の中をまさぐる。
「こ・こ・ね」
「あっ!?」
僕は声を上げた。
引き抜かれた手には「フェンリルナイトの団員証」が握られていた。
「私の『旦那様』の匂いがすると思ったら、コレを持っていたのね」
「返してください」
僕が言うと、イグリースさんはちょっと驚いたような顔した。
「あら、見た目によらず、ハッキリと物が言えるのね」
「いいですから、返してください」
僕は手を伸ばして取り返そうとする。
スッ―――
かわされる。
僕はなおも取り返そうとする。
スッ―――、ススススス――――
かわされる。
「いいかげん、返せよ!」
僕はちょっと乱暴に取り上げようとする。
けれど、足をかけられて転ばされる。
「っ!?」
僕は地面に転がって泥だらけになった。
「この――――――っ!?」
顔を上げた。
僕は言葉を失った。
エリーゼさんそっくりの顔。
それが冷たい目で僕を見ている。
あの晩にコレットが向けられたものに似ている。
敵意に満ちた―――
「泥棒が、よくもぬけぬけと」
何を言っているんだ。
「私の『旦那様』から『御力』をお借りしているのでしょう?『借りパク』くん」
別に、盗んで返してないわけじゃない。
ちょっとは力を借りたりしたけど。
「あなたたちは、『旦那様』にお力を借りたままで、なにもお返ししていないでしょう?」
どういうことだよ。
「借りっぱなしで返さないのですから『借りパク』くんではありませんか」
それだって、向こうが押しつけてきたようなもんじゃないか。
「『旦那様』があんなにおやつれになられて」
そっと涙を拭うマネをする。
ぜんっぜん、泣いてないけどね。
「『旦那様』の『御力』はこんなものではないのです。昔のあの凛々しくも冷徹で恐怖すら覚える御姿。それなのに、ご自身が弱体化するのも構わず、あなた達に『力』を分け与えている……わかっているのですか?」
え?
「そんなありがたい身でありながら……『眷属』にすらならず……」
言いかけて止まった。
◇
なんだ?なにが起きた?
急にガクガクと震え出す。
「あ、あああ、あああああ」
ヤバい。この人、なんか、ヤバい。
「そ、そういうことでしたか。ああっ『旦那様』!浅はかなエルザをお許しください」
ん?「エルザ」?どっかで聞いたような。
「エルザに取り返させようというのですね。だから、いつでも奪える状態にしている……」
いや、どういうことだよ。
「ふふふっ、相変わらず恥ずかしがり屋さんですね」
恥ずかしいのは今のあなたの姿だよ。
「奪い返した私が、お返ししに現れるのをお待ちになっている」
「ご自身で私に『来てくれ』と言えないからって……んもうっ」
んもうッ、それあげるから帰ってくれないかな。
「あの~、妄想中すみませんが」
僕が声をかけると「キッ」と睨み付けられた。
「なんですか」
この手の人たちって本当「お楽しみ」を邪魔されるの嫌うよね。
「もういいです。それ、あげますから帰ってください」
言った途端だった。
胸倉を掴まれて釣り上げられる。
って、片手で!?
「オマエ、ふざけているのですか?」
な、なんで?欲しかったんだよね。僕から奪ったよねっ!?
「『旦那様』からの授かりもの。それを簡単に渡すなどっ」
いや、矛盾だらけっ、言ってること支離滅裂っ!
「……あぅ」
え?なんで急に顔を赤らめるの?
「『旦那様からの授かりもの』って、エルザったら、はしたない……そんな、まだなのに」
もうどうにかしてよぉ、この人。
おまわりさん助けてよぉ。不審者だよ。
だいたい、さっきから言ってる「旦那様」ってハティさんのことだろ?
アンジェさんと婚約してなかったけ?
あの人、どんだけ女癖悪いんだよ。
◇
―――あ、いいこと思いついちゃった。
この手の人たちって、「精神攻撃」に弱いはず。
暴走していても、現実に戻されればイチコロだ。
「あ~イグリースさん」
「なんですか?エルザですが」
「あ、エルザさん」
「だから、なんですか?」
「ハティさんって確か『婚約者』いましたよね?」
エルザさんが固まり、僕から手を離した。
僕は解放されて地面に尻もちをつく。
た、たすか――――――あああっ!
首筋に剣を充てられる。
「小僧、死にたいようだな」
やっ、やっちまったーーーーーー!
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日もお疲れ様でした。
今日という日はどんな日でしたか?
久しぶりに息抜きができた日?
それともいつもと同じ?
まずはゆっくりと深呼吸して、気持ちを「スン」って落ち着けてくださいね。
本編ではついに「あの人」が登場しました。
ハルくんがピンチですね(笑)
(彼が主人公ですよ?)
さて、どうなることやら。
次回もぜひご覧ください。




