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第115話 偽名、変装、潜入作戦!でも、開始早々ストーカーに捕捉されちゃいました



雨の降るなか、荷馬車が進む。


街に入る門で門番に止められる。


「降りろ」


言われて御者台にいた男が下りる。


「他には?」


「子供が二人」


「お前の子か?」


「いえ、孫です。息子夫婦が魔物に殺されたので引き取りました」


「そうか」


門番はさして興味がないというふうに答える。


「通行証は?」


「ございません」


「ならば、通行税と許可証発行手続き、それと料金をとるぞ」


「……はい」


「まずは、荷物を検める」

そう言って門番は幌のかかった荷台を覗く。


栗色の髪をした少女と茶色がかった黒髪の少年がいる。


木箱が多く並び、その隙間に収まるようにしていた。


「出てこい」


言われるままに二人は荷台から下りる。


門番の一人が入れ替わりに荷台を検分する。


「野菜ばかりだな」


そう言って積み荷の中から「トマト」を一つ取る。


シャクッ……


齧りつく。


少しの青臭さの後に甘みと酸味が舌に広がる。


「おっ、なかなか美味いな」



ここ、旧マクスウェル領は、今や「ロナン・スペンサー」の領地となっていた。


3年前の反乱。

王国への不満が爆発した夜。


以前の領主「エリーゼ・カナン・マクスウェル」はこの反乱によって追いやられた。


その後釜としてロナンが領主となった。


ロナンは「セドリック・スペンサー」の息子。

エリーゼ・マクスウェルの従弟にあたる人物である。


御家騒動の渦中で、セドリックは亡き者となっていた。


セドリックは「一族への反逆」という汚名を着ることとなる。


そして、ロナンを含めたその家族は国外追放となった。



「ロナン」は反乱が起きた時、共和政府に協力した。

その功績から、こうして「旧マクスウェル領」を手にすることとなった。



門の待合室のなかだけでも、「ロナン」のマクスウェルへの恨みは見て取れた。


至る所に似顔絵と共に彼らを糾弾する内容が貼り紙されていた。


門番が3人を見ながら名前を確認する。


「ガルム・ストーン」

「ヴェル・ストーン」

「ニコル・ストーン」


呼ばれる度、それぞれが頷く。


「まずは通行許可の申請だ。字は書けるか?」


これに「ガルム」と呼ばれた老人が頷く。


震える手で紙面にペンを走らせる。


「行商か。積み荷は野菜の他に何かあるのか」


「いえ、農作物だけです」


「そうか。では、通行税と許可書発行の手続き料金を」


そう言って門番は金額を示す。


ガルムは言われた額を納める。


「確かに」


そう言って門番は領収書にサインをする。


「無くすなよ?再発行の時にはまた払わされるからな?」


そう言って許可書をひらひら振ってから領収書と共に渡す。


「ありがとうございます」


ガルムは礼を言って去ろうとする。


「……はて?『ガルム』?どこかで聞いたような」


「それは、昔、冒険者をしておりましたので」

ガルムと呼ばれた老人が言う。


「ああ、思い出した。『飲んだくれのガルム』だったな」


門番が笑う。

それに合わせて「ガルム」も愛想笑いを浮かべる。


「そうか。飲み過ぎがたたったか。税も納めたし、行っていいぞ」


門番が手を振る。


「もう飲みすぎるなよ」


その言葉にガルムが頭を下げる。



ガルムとその孫は荷馬車に乗り込み、ロバを進める。


(ハティさん……)


「ヴェル・ストーン」こと「ハル・ロッシェ」が声をかけてくる。


(なんだい?)


(「飲んだくれのガルム」って?)


(ああ、僕の冒険者の時の通り名)


(は?)


(ほら、帝国との大戦の後さ、僕は王様から追放されたろ?)


そう。ハティ・アガートラーム・マクスウェルは危険分子として追放された。


(それで、なんとか身分詐称して「ガルム」って偽名でやってたんだ)


しかし、英雄の右腕を食いちぎった番犬「ガルム」を名乗るとは。


(ティアがさぁ「ガルム」を名乗れって……皮肉屋だよね)


右腕を失った英雄に「右腕を食いちぎる犬」を名乗らせる。


ツンデレどころか、ただならぬ「恨み」を感じる。


(まぁ、大概の人は僕がそれを名乗るわけがないって思うよね)


苦笑いするハティ。


(お兄ちゃん、ティアさんはきっと……)


「ニコル・ストーン」こと「コレット・オルレア」が言う。


(うん?)


聞き返すハティにコレットは頭を振った。


(ううん、何でもない。でも、「飲んだくれ」って飲みすぎる人でしょ?体に悪いからほどほどにしてね)


(は~い)



旧王家の5人の英雄、「五将」が僕たちの陣営にそろった。


最優の聖騎士長。白銀の虎で十字の騎士、エリーゼ・カナン・マクスウェル。


最狂の魔人。銀の右腕、ハティ・アガートラーム・マクスウェル。


最強の傭兵団団長。黒金の鷹、ガレット・グランハート。


最悪の魔術師。深紅の盾、アンジェ・フラン・スカーレット。


最速の智将。金の軍靴、ティア・シュトゥーテ・フライン。


ハッキリ言って、この五人がそろっていたからこそ「旧王家」は「帝国」に勝てた。


それは誰もが知ること。



けれど、まず先に、「ハティ」さんが王様に追放された。


怒った他の将たちはつかず離れずで「非協力的」になった。


特に「エリーゼ」さんと「アンジェ」さんは酷くて、王様の招集にも応じなくなる程だった。


「ガレット」さんは北方の「エーレンブルグ」に領地をもらう。

けれど、そこは異民族と領土を接する「危険地帯」。


「ティア」さまは内政を「そこそこ」こなす程度で、自身の領地運営に注力。

ついでに、「冒険者ギルド」を買収するなど暗躍していた。


こうなれば、内政も国防もグダグダ。


後は「口だけ」上手い人たちが足引っ張り合う。


そうして、「反乱」が起きて「王家滅亡」って結末。


まぁ、ね。


近くで見ていてもわかるよ。


この五人はとんでもなく深い絆で結ばれている。


だから、誰が欠けてもダメなんだろう。


しっかしさぁ……アドニス王は、なんでそんなことも考えられなかったんだろうな。





「よぅし。明日から営業できるよ」


商業ギルドから戻ってきたハティさん。

部屋の扉を開けながら言う。


「はぁ、そうですね」


僕は気のない返事をする。

コレットも一緒だ。


僕たちを見て、ハティさんが驚いた顔をした。


「……ベッドでふたり腰かけて……」


コイツっ!ナニ想像しているんだっ!


「まさかっ!」

ハティさんが声を上げた。


「違いますっ!お話ししていただけですぅ」


手をぶんぶん振り回してコレットが叫ぶ。


「そうかい?お邪魔だったら、僕は一時間ほど散歩を……」


「必要ありません!」


いい加減にしないと「削除」対象だよ?


「なぁんだ。『恋バナ』とかいろいろ盛り上がっていたのかと思ったのに」


こいつ、ワザと言っているだろ。


「うちの子の中で、誰がタイプかぁとかさぁいろいろあるだろ?」


そうして、ハティさんが「ポン」と僕の肩に手を置いた。


「まあ、後ろから刺されないようにね」


なぜか真顔。


「あ、『撃たれる』なのかなぁ、あの子の場合は」


渇いた笑い。


冗談じゃない。怖いよ。



今のハティさんは「おじいちゃん」の姿。


身長はそう変わらないけれど、ワザと背中を丸めている。

髪もあえて汚しているので、灰色。


もちろん変装のため皺を増やしている。


なんでこんな面倒なことをしているかって?



それはもちろん「マクスウェル領奪還」のために決まっているだろ!



エリーゼさん、ハティさんの領地。


「奪われた」ものを取り戻す。


それは「土地」であり、「人」である。


さらに、「名誉」も。


メンバーの中で顔が知られていない僕とコレット。


そして「潜入(暗殺)」のプロ。忍者、『ハッティくん』。


実はリャナンもメンバー入りしていたけれど、リムたちが駄々をこねた。


「お前だけズルい」って。


本当に「義父さん大好きっ子」たちだよな。


こうして、内偵を進めて「攻め時」を探る作戦。


こんな調子で大丈夫かなぁ。


本当、どうなることやら。




「ふふっ、ふふふふふふふふふ」


闇夜の中。


雨が降りしきる路地で一人の女性がほくそ笑む。


道行く人は見て見ぬフリをして足早に去っていく。


(ついに、ついにこの時が来ました)


そう、彼女の名は「エルザ・ジグニュール・ブライトガード」。


かつての帝国の女傑。


そして、今はハティのストーカー。


(「旦那様」がいらっしゃるのはわかっておりましたわ)


(私との「愛の楽園」を取り戻そうとするのを)


(私は狭量ではありません「ちょっとしたお知り合い」のアンジェのところへお見舞いに行くのは、同僚だったのですから当然です)


雨脚が強まった。


だが、エルザは気にも留めない。


傘もささずにハティたちがいるであろう宿屋の窓を見続けている。



(でも、その「義理」を果たして、今は、「マイ・スイート・ホーム」を本気で取り返しに戻られている)


それから、花畑を駆ける妄想をする。


(ああ、見えます。旦那様が「僕を追ってきなさい」とおっしゃっているのが)


(「僕は待っているからね。エルザ。でも、三歩下がって後ろにいるのが『妻』の勤めだよ」ってねぇぇぇぇ。ぐへへへへへっ)



彼女の名は、「エルザ」。


外見は「エリーゼ」と間違われるくらいに酷似している。


そして、かつて「鉄血のエルザ」と呼ばれた帝国の女傑。




果たして、「マクスウェル領奪還作戦」は成功するのか!?


それはもう……この人の出方次第である。


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