第115話 偽名、変装、潜入作戦!でも、開始早々ストーカーに捕捉されちゃいました
雨の降るなか、荷馬車が進む。
街に入る門で門番に止められる。
「降りろ」
言われて御者台にいた男が下りる。
「他には?」
「子供が二人」
「お前の子か?」
「いえ、孫です。息子夫婦が魔物に殺されたので引き取りました」
「そうか」
門番はさして興味がないというふうに答える。
「通行証は?」
「ございません」
「ならば、通行税と許可証発行手続き、それと料金をとるぞ」
「……はい」
「まずは、荷物を検める」
そう言って門番は幌のかかった荷台を覗く。
栗色の髪をした少女と茶色がかった黒髪の少年がいる。
木箱が多く並び、その隙間に収まるようにしていた。
「出てこい」
言われるままに二人は荷台から下りる。
門番の一人が入れ替わりに荷台を検分する。
「野菜ばかりだな」
そう言って積み荷の中から「トマト」を一つ取る。
シャクッ……
齧りつく。
少しの青臭さの後に甘みと酸味が舌に広がる。
「おっ、なかなか美味いな」
◇
ここ、旧マクスウェル領は、今や「ロナン・スペンサー」の領地となっていた。
3年前の反乱。
王国への不満が爆発した夜。
以前の領主「エリーゼ・カナン・マクスウェル」はこの反乱によって追いやられた。
その後釜としてロナンが領主となった。
ロナンは「セドリック・スペンサー」の息子。
エリーゼ・マクスウェルの従弟にあたる人物である。
御家騒動の渦中で、セドリックは亡き者となっていた。
セドリックは「一族への反逆」という汚名を着ることとなる。
そして、ロナンを含めたその家族は国外追放となった。
「ロナン」は反乱が起きた時、共和政府に協力した。
その功績から、こうして「旧マクスウェル領」を手にすることとなった。
門の待合室のなかだけでも、「ロナン」のマクスウェルへの恨みは見て取れた。
至る所に似顔絵と共に彼らを糾弾する内容が貼り紙されていた。
門番が3人を見ながら名前を確認する。
「ガルム・ストーン」
「ヴェル・ストーン」
「ニコル・ストーン」
呼ばれる度、それぞれが頷く。
「まずは通行許可の申請だ。字は書けるか?」
これに「ガルム」と呼ばれた老人が頷く。
震える手で紙面にペンを走らせる。
「行商か。積み荷は野菜の他に何かあるのか」
「いえ、農作物だけです」
「そうか。では、通行税と許可書発行の手続き料金を」
そう言って門番は金額を示す。
ガルムは言われた額を納める。
「確かに」
そう言って門番は領収書にサインをする。
「無くすなよ?再発行の時にはまた払わされるからな?」
そう言って許可書をひらひら振ってから領収書と共に渡す。
「ありがとうございます」
ガルムは礼を言って去ろうとする。
「……はて?『ガルム』?どこかで聞いたような」
「それは、昔、冒険者をしておりましたので」
ガルムと呼ばれた老人が言う。
「ああ、思い出した。『飲んだくれのガルム』だったな」
門番が笑う。
それに合わせて「ガルム」も愛想笑いを浮かべる。
「そうか。飲み過ぎがたたったか。税も納めたし、行っていいぞ」
門番が手を振る。
「もう飲みすぎるなよ」
その言葉にガルムが頭を下げる。
ガルムとその孫は荷馬車に乗り込み、ロバを進める。
(ハティさん……)
「ヴェル・ストーン」こと「ハル・ロッシェ」が声をかけてくる。
(なんだい?)
(「飲んだくれのガルム」って?)
(ああ、僕の冒険者の時の通り名)
(は?)
(ほら、帝国との大戦の後さ、僕は王様から追放されたろ?)
そう。ハティ・アガートラーム・マクスウェルは危険分子として追放された。
(それで、なんとか身分詐称して「ガルム」って偽名でやってたんだ)
しかし、英雄の右腕を食いちぎった番犬「ガルム」を名乗るとは。
(ティアがさぁ「ガルム」を名乗れって……皮肉屋だよね)
右腕を失った英雄に「右腕を食いちぎる犬」を名乗らせる。
ツンデレどころか、ただならぬ「恨み」を感じる。
(まぁ、大概の人は僕がそれを名乗るわけがないって思うよね)
苦笑いするハティ。
(お兄ちゃん、ティアさんはきっと……)
「ニコル・ストーン」こと「コレット・オルレア」が言う。
(うん?)
聞き返すハティにコレットは頭を振った。
(ううん、何でもない。でも、「飲んだくれ」って飲みすぎる人でしょ?体に悪いからほどほどにしてね)
(は~い)
◇
旧王家の5人の英雄、「五将」が僕たちの陣営にそろった。
最優の聖騎士長。白銀の虎で十字の騎士、エリーゼ・カナン・マクスウェル。
最狂の魔人。銀の右腕、ハティ・アガートラーム・マクスウェル。
最強の傭兵団団長。黒金の鷹、ガレット・グランハート。
最悪の魔術師。深紅の盾、アンジェ・フラン・スカーレット。
最速の智将。金の軍靴、ティア・シュトゥーテ・フライン。
ハッキリ言って、この五人がそろっていたからこそ「旧王家」は「帝国」に勝てた。
それは誰もが知ること。
けれど、まず先に、「ハティ」さんが王様に追放された。
怒った他の将たちはつかず離れずで「非協力的」になった。
特に「エリーゼ」さんと「アンジェ」さんは酷くて、王様の招集にも応じなくなる程だった。
「ガレット」さんは北方の「エーレンブルグ」に領地をもらう。
けれど、そこは異民族と領土を接する「危険地帯」。
「ティア」さまは内政を「そこそこ」こなす程度で、自身の領地運営に注力。
ついでに、「冒険者ギルド」を買収するなど暗躍していた。
こうなれば、内政も国防もグダグダ。
後は「口だけ」上手い人たちが足引っ張り合う。
そうして、「反乱」が起きて「王家滅亡」って結末。
まぁ、ね。
近くで見ていてもわかるよ。
この五人はとんでもなく深い絆で結ばれている。
だから、誰が欠けてもダメなんだろう。
しっかしさぁ……アドニス王は、なんでそんなことも考えられなかったんだろうな。
◇
「よぅし。明日から営業できるよ」
商業ギルドから戻ってきたハティさん。
部屋の扉を開けながら言う。
「はぁ、そうですね」
僕は気のない返事をする。
コレットも一緒だ。
僕たちを見て、ハティさんが驚いた顔をした。
「……ベッドでふたり腰かけて……」
コイツっ!ナニ想像しているんだっ!
「まさかっ!」
ハティさんが声を上げた。
「違いますっ!お話ししていただけですぅ」
手をぶんぶん振り回してコレットが叫ぶ。
「そうかい?お邪魔だったら、僕は一時間ほど散歩を……」
「必要ありません!」
いい加減にしないと「削除」対象だよ?
「なぁんだ。『恋バナ』とかいろいろ盛り上がっていたのかと思ったのに」
こいつ、ワザと言っているだろ。
「うちの子の中で、誰がタイプかぁとかさぁいろいろあるだろ?」
そうして、ハティさんが「ポン」と僕の肩に手を置いた。
「まあ、後ろから刺されないようにね」
なぜか真顔。
「あ、『撃たれる』なのかなぁ、あの子の場合は」
渇いた笑い。
冗談じゃない。怖いよ。
今のハティさんは「おじいちゃん」の姿。
身長はそう変わらないけれど、ワザと背中を丸めている。
髪もあえて汚しているので、灰色。
もちろん変装のため皺を増やしている。
なんでこんな面倒なことをしているかって?
それはもちろん「マクスウェル領奪還」のために決まっているだろ!
エリーゼさん、ハティさんの領地。
「奪われた」ものを取り戻す。
それは「土地」であり、「人」である。
さらに、「名誉」も。
メンバーの中で顔が知られていない僕とコレット。
そして「潜入(暗殺)」のプロ。忍者、『ハッティくん』。
実はリャナンもメンバー入りしていたけれど、リムたちが駄々をこねた。
「お前だけズルい」って。
本当に「義父さん大好きっ子」たちだよな。
こうして、内偵を進めて「攻め時」を探る作戦。
こんな調子で大丈夫かなぁ。
本当、どうなることやら。
◇
「ふふっ、ふふふふふふふふふ」
闇夜の中。
雨が降りしきる路地で一人の女性がほくそ笑む。
道行く人は見て見ぬフリをして足早に去っていく。
(ついに、ついにこの時が来ました)
そう、彼女の名は「エルザ・ジグニュール・ブライトガード」。
かつての帝国の女傑。
そして、今はハティのストーカー。
(「旦那様」がいらっしゃるのはわかっておりましたわ)
(私との「愛の楽園」を取り戻そうとするのを)
(私は狭量ではありません「ちょっとしたお知り合い」のアンジェのところへお見舞いに行くのは、同僚だったのですから当然です)
雨脚が強まった。
だが、エルザは気にも留めない。
傘もささずにハティたちがいるであろう宿屋の窓を見続けている。
(でも、その「義理」を果たして、今は、「マイ・スイート・ホーム」を本気で取り返しに戻られている)
それから、花畑を駆ける妄想をする。
(ああ、見えます。旦那様が「僕を追ってきなさい」とおっしゃっているのが)
(「僕は待っているからね。エルザ。でも、三歩下がって後ろにいるのが『妻』の勤めだよ」ってねぇぇぇぇ。ぐへへへへへっ)
彼女の名は、「エルザ」。
外見は「エリーゼ」と間違われるくらいに酷似している。
そして、かつて「鉄血のエルザ」と呼ばれた帝国の女傑。
果たして、「マクスウェル領奪還作戦」は成功するのか!?
それはもう……この人の出方次第である。




