第114話 木漏れ日の中で……
チュンチュン……
鳥のさえずりが聞こえる。
サワサワサワ……
風が吹き、頬を撫でていく。
こんなに爽やかな朝だというのに……
目の前には岩のような大男がいる。
旅を共にし、苦楽を共にした仲間。
「スヴェン」だ。
今、僕は彼に「話がある」と連れ出され、家から僅かに離れた森にいる。
いや、いいんだ。
スヴェンとは仲が良い。
気楽に話せる兄貴分って感じだ。
でも、なんで……
僕は彼に壁ドンならぬ「樹木ドン」されているんだ?
「いや……その、なんつぅか」
いつも泰然自若としているスヴェンとは違う。
木を背にして立つ僕。
僕の顔の横に手を着いて挟み込むようにして立つスヴェン。
落ち着きなく、視線をさまよわせている。
「き、昨日さ、ハル……エリーゼさんにキスされたろ?」
その言葉で僕はまた顔が火照ってきた。
「その反応、やっぱりか」
スヴェンが困ったように顔をしかめる。
「ハル。俺、昨日のことで、もう自分の気持ちが抑えられなくなったんだ」
スヴェンが苦しそうに呟く。
「恥ずかしいんだけれどよ、『嫉妬』しちまったんだ」
◇
なななんじゃぁこりゃぁぁぁ
私は草むらから二人の様子をうかがって絶句してしまった。
(コレット、動かないでっ、気づかれる!)
小声でリャナンさんが注意してくる。
(ごめんなさい)
私たちは朝ごはんの後、ハルとスヴェンが出ていくのを目にした。
しかも、ただならぬ様子。
気になって後を追いかけた。
(これは、どういう状況?)
リムが首を傾げる。
(俗にいう「壁ドン」だよな?)
ルーダも訝しむ。
女の子チーム勢ぞろい。
あ、エリーゼお姉ちゃんたちを入れてないけれど、許してね。
(このシュチュっていったら「アレ」しかないでしょ)
リャナンさんが断言する。
アレって……「アレ」ですかっ!?
(「アレ」ってなに?「亜鈴」?)
ルーダがとんちんかんなことを言う。
ちなみに「とんちんかん」の語源は「鍛冶」からきてるとか。
ルーダらしい……
(るーちゃん、そういうボケはいらないの)
リャナンさんが真面目に言う。
(それとも、わかっていてボケてるの?)
(なにがだよ)
(ハルが「される」と困るからでしょ~)
(な、なに言ってるのっ)
リャナンさんとルーダが小声で言い合う。
(うるさくしていると気づかれる)
リムが注意する。
(「アレ」っていうのは「告白」のことでしょ。リムは賢いからすぐにわかった)
……
私は胸がチクリと痛んだ。
ハルが、誰かに「告白」されるんだって思ったら。
隣でルーダが服の裾をぎゅっと握った。
きっと、ルーダも同じ気持ちなんだ。
(でもでも、スヴェンが?意外だよね……男の子どうしで)
(いやいや、今や「多様性」の時代。恋愛の形だって「多様」であっても良い)
(リムったらすごいね~)
リャナンさんとリムは私たちにお構いなし。
(だから、義理の父と言い張るハティと「血縁のない」リムも万事問題なし)
(結局、そこいくのね)
(当然)
リムは「ムフー」と鼻息を荒くする。
(でも、どうしよう)
何が?
(上手くいけばいいけれどさ、失敗だったらこれからどう接すればいいのかな?)
リャナンさんの言葉にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ私は「悪い感情」が芽生えた。
――――上手くいかない方がいい。
そんな、「悪い気持ち」。
だって、スヴェンとハルを取り合いたくない。
そして隣を見る。
ルーダとも……誰とだって……
◇
え?何?「嫉妬」って言った?
「恥ずかしながら、俺は『嫉妬』しちまったんだ」
もう一回言った。
「昨日からモヤモヤして、我慢できなくなっちまって……」
自分の胸を押さえるスヴェン。
苦しそうに僕に訴えかけてくる。
「う、うん。がまんはぁ、よくないよねぇ」
「そう、思うか」
「うんうん」
僕は頷く。
「なあ、ハル」
「何?」
「お前は俺の友達か?」
「そうだね」
「俺は、お前を大事に思っている」
……ええっと~
「だから、お前にはちゃんと俺の気持ちを伝えなきゃいけないと思ったんだ」
「だから、お前からも聞かせてほしいんだ」
「俺……その、ずっと『好き』だったんだ―――――」
◇
(キターーーー!)
グッと身を乗り出す女の子チーム。
え?ほんとうに、本当に「告白」なの?
スヴェンが、「ハル」に。
私は膝が震えてきた。
嫌だ、なんか、ヤダ……
ルーダも不安そうに自分の手を握っている。
みんなで目の前にいるふたりを見守り続けた。
◇
スヴェンが顔を真っ赤にして――――
僕を見て言った。
「ずっと、ずっと好きだったんだっ!」
だ、だれを?
「俺、エリーゼさんのことっ!」
………
……
…
うん。知ってる。
男の子はみんな。
「お前が、昨日エリーゼさんに『キス』されてっ、嫉妬しちまったんだ!」
「お前もエリーゼさんのこと好きだって知ってる」
スヴェンがまくしたてた。
「羨ましくて羨ましくてさっ、こう胸がモヤモヤしちまってよっ」
ああ……
「だから、せめて、せめて聞かせてくれよ」
ぐっと身を乗り出して近づく。
顔近い。顔が近いよぉぉぉっ!
「エリーゼさんの『キス』ってどんな感じだった?」
スヴェンが言った時だった。
『ダメえええええええええええ!』
叫び声が木霊した。
◇
声に驚いてそちらを見る。
草むらで仁王立ちしているルーダと……コレット?
足元には驚いた顔をしているリャナンとリムアン。
コイツら、何をしているんだ?
「ダメだよっ兄貴っ!そんな、そんな朝っぱらからっ」
ルーダさん?何をおっしゃって……
「無理に迫るなんてっ、強引にするのは良くないですっ」
コレットさん?
「そういうのは、お互いの気持ちを確かめてからじゃないとっ」
「そうですそうです!まずは『交換日記』から始めるのが正しい交際です」
何の話ですか?
「手を繋いで公園でデートして、それからじゃないとっ」
「手順ってものがあるんです!」
いや、チョットナニイッテイルノカワカラナイナ……
「お前ら、何を言ってるんだ?」
スヴェンも驚いている。
「ハルと『ちゅー』したいなら……」
言いかけたところ、闖入者が―――――
「黙れぇぇぇっ『グス』どもがぁぁぁあ!」
ティアさまが木の上から叫んでいる。
「せっっかく、せっかく『リアル』で見られると思ったのにぃぃぃ」
「邪魔をしおってぇぇぇ!」
うえええええ。
「ここまできていたんだぞっ!こ・こ・までっ」
手のひらで顔の近さを表す。
いや、そんなに近くないってっ!
「私の『夢』が叶うところをっ貴様らぁ」
その「夢」は、夢のままでいさせてあげてください。
「ふ、ふふふふふふふ」
あれ?なんでコレット笑っているの?
って、ルーダも。
「ティアさま?」
「なんだ」
「こじらせるのは結構ですけれど、こんな言葉を知っていますか?」
絵面変わってる?
レジェンドヒーロー?
あまりの凄みに一瞬ではあるがティアさまもたじろいだ。
「人の恋路を邪魔する奴は『シュトゥーテ(牝馬)』だって蹴られてしまえって」
いや、なんかうまいこと言ってるけれど!
「なんだとっ!?」
あれ、ティアさま?なんでビビッて……
溜をつくったコレット。
そして叫ぶ。
「変な妄想ばっかりしてるって『ハティお兄ちゃん』に言いつけてやる!」
「やめろおおおおおおおおお」
ティアさまの悲鳴が響き渡った。
「ねえ、スヴェン」
「なんだ。ハル」
「僕たちは、ちゃんとライバルとして励もうね」
「そうだな」
僕たちは目の前のダメな人たちを目の前に誓い合った。
……ああ、そうだ。
ティアさま。たぶん、ハティさん、「知ってる」と思うよ。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日もお疲れ様でした。
今日はどんな日でしたか?
新年度が始まって忙しかったり、ストレス溜まったりしていませんか?
そんな毎日のストレスをこの物語で「スン」としてもらえると嬉しいです。
さて、次回からは【新章】突入です。
やっとマクスウェル領奪還へ!
そして、「あの人」が満を持して登場!
もう、一筋縄ではいかないです…
ぜひご覧ください。




