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第111話 恐ろしきはエルフの執着。ワンワンワンって「ポチ」って呼ぶな。



「ハッティくんは思ったでござる」


あ~、その設定、続けるんだね。


「拙者がいくら【隠形】使っても、そこのポチ丸が台無しにするでござる」


な、なんで僕が足引っ張る設定なんだよ!

しかも、微妙に寄せて「ポチ」言うなよ!「薄い本」思い出すよ。


「術が消されて見つかるのでござる」


「そこで、プリンセスちゃんとポチ丸はクロ千代の先導で脱出するでござる」


その変換、何とかならない?

クロエに先導してもらって、僕らが逃げるんだろ?


ってかさ、「クロ千代」ってライバルのペットだよね。

その「煙に巻き」方、何とかならないかなぁ……


「ハティ…ハッティくんは、どうするの?」


コレットが尋ねる。


「僕は派手に暴れて時間稼ぎをするよ」


……おい。せっかくコレットが合わせたのにマジレスするな。


アンタらちょいちょい「素」に戻るから。

そこ、しっかりしろよ。


「プリンセスちゃんは、ポチ丸たちと一緒に」


急に修正するし。

ストレスたまるなぁ……


たぶん、設定ガバガバだから、「忍者」としても違う流派じゃないの?



ヒューーーーー


風が吹く。


未曽有の「モンスターパニック」に兵士たちは殺気立っていた。


月を背に、塔の上に立つ人影……


影に気づいた兵士が見上げる。


「な、なんだっ、アイツは?」


それを待っていたかのように影は跳躍する。


「とぉう!でござる」


そして手近な建物の屋根に降り立つ。


衛兵たちが群がった。


「敵襲!怪しい奴がいるぞ」


100%怪しいのは言うまでもない。


「なんだ、貴様!名乗れ!」


ハティが大見得を切る。


「あっ、しらざぁ言って聞かせやしょうぅぅぅぅ」


「か、歌舞いているっ!」


衛兵の驚きを余所に、カラカラと笑う。


「浜の真砂まさごと盗賊がぁ~歌に残せしぃ盗人のぉぉぉ、種は尽きねぇ共和政府ぅ」


「いよっ、不審者!」


「大陸一のバカ野郎!」


合の手が入る。


「忍者『ハッティくん』ただいま参上!」


ハティが流れをぶった切って名乗った。


「はっ、ハッティくんだと!?」


衛兵たちの中で動揺が広がる。


(な……誰か知っている奴いるのか?)

(知らん。あれだけ自信満々に言われても「知らん」)


(というか、「忍者」ってなんじゃ?)

(どんなモンじゃ?)


こそこそと囁き合う。


それをちょっとイラッとしたようにハティが言う。


「忍者ってのはぁぁぁ」


そう言って魔力を込めた水晶を取り出す。


発破はっぱ!」


手あたり次第投げつける。

途端に爆発を起こした。


透波すっぱ!」


いつの間にか兵士たちの中にいる。


キィイイイイイン


金属音と共に兵士たちが血を吹いて倒れる。


乱波らっぱ!」


本営の建物から火の手が上がる。

大混乱となった。



「とにかく、敵陣でムチャクチャするのでござるよ。ニンニン」





おおおっ、本当に無茶苦茶だ。


「ハッティくん」とんでもないことしやがる。

普通、手裏剣とかスマートに投げるんじゃないのかよ!


辺りは火の海。


ってぇぇぇジャガイモさんたちまでぇぇ。


くっそぉう。


君たちの犠牲は忘れないよぅ。


それでも、この混乱に乗じて僕たちは走った。


逃げまどう人たちに紛れて。


でも、事はそんなに簡単にはいかない。


だって、ここには「彼」がいるんだ。




「っ!?」


どこからともなく矢が飛んでくる。


ハティはそれをすんでのところでかわした。


空を割いて飛び去った矢であったが、途中の土壁を貫通していく。


「……」


ハティは剣を構えて周囲を窺う。


「っ!?」


背後からの狙撃。


背を向けた方から放ってくる。


ならば、そのセオリーを逆手に取るべきか。


そう思うところだが、ハティの体はわずかに強張ってしまう。



(悪いな、コレット……)


隠蔽スキルを使って姿を隠したランドルフは内心呟く。


(まさか、お前の言う「お兄ちゃん」がハティだったとは)


気後れするところはある。

だが、彼にも思うところがある。


(俺は「許さない」選択をしたんだ)


矢を放つ。


標的はこちらの場所に気づけていない。


それでもギリギリのところでかわしている。


(あの野郎はっ、クラフト様をっ、「師匠」を殺したヤロウなんだ)



コレットはハティの動きと襲い掛かる「矢」を見て察した。


(わ、私は、また……)


狙撃手はおそらくランドルフ。


そして、ランドルフは容赦なくハティの「背中」を狙っている。


数十も射られている。


ハティはそれをかわしてはいるが、動きが悪い。


そして、せわしなく狙撃手を探している。


明らかに動揺しているのだ。


(私が、ランドルフさんを信用して話しちゃったから)


「なにやってるんだよっ、もう!」


隣でハルが叫ぶ。


「らしくないんだよっ!いつものバカっぽさで何とかできないのかよ」


苛立たしげに言う。


ハルも気づいているはず。


狙撃手がランドルフさんだってこと。

そして、ハティさんの動きが悪い原因が。


私はいつの間にかハルの上着を掴んでいた。


「どうしたの?コレット」


怖い。こわいこわいこわい……


「大丈夫?顔色悪い。ハティさんなら大丈夫だよ」


だって、だって私のしたことだから。


「は、ハルっ、わたし、わたし、また……」


ハルは私の顔を覗き込んだ。


「私が、ランドルフさんに、言っちゃったから」


それでハルも気づいたみたい。


「コレットは悪くない」


静かに言った。


「聞きだしたランドルフが、それをどう使うかってのは『アイツ』の問題だ」


どうして、どうしてそんなふうに言うの?

私が言わなければ、こんなことにならなかった。


上着を掴む私の手にハルはそっと手を重ねた。


「コレット」


優しい顔。

でも、厳しい顔。


「僕は行くよ」


どこに?


「あの変人がもたついてるから、イライラしてきたんだ」


私の手を離す。


「なんかさ、アイツらまとめてぶん殴ってやりたい」


「口でカッコいいこと言ってるクセにさ、心配かけさせるなよってさ」


それから笑う。


「もちろん、コレットに、だよ」




さすがのハティも危機感を覚えている。


避け続けているものの、狙撃手の位置は特定できていない。


また、物陰に潜んでも、過たずに放たれる。


さすがに大規模な破壊を生む「重力の矢」は使ってこない。


だが、貫通力の高い精密射撃が代わりに襲ってくる。


(囮役はできてるけれど、さすがにキツイな)


自身のトラウマもあって反応が鈍い。


体が強張ってしまう。


力圧して全てを吹き飛ばすこともできるが、巻き添えを食うのはコレットたちだ。


そして、狙撃手は無傷だろう。


(やはり、最も厄介な敵――――――)


思った時、建物を迂回するように矢が飛んでくる。


(こんな芸当もできるのかっ!?)


対応しようにもわずかに遅れる。


そこへ、割って入る人がいた。



「何やってるんだよ!」


僕は叫んだ。


エーレンブルグで使った「ハティさんの力」。


アミュレットからもたらされるその「力」を使って矢を捻じ曲げる。


「ハル……」


呆けたようにハティさんが言う。


「聞いたよっ、アンジェさんに」


ハティさん、この言葉にちょっとイラッとしたような顔をした。


「アンジェに?何を?」


「『棒』が魔力消しちゃうから、『アミュレット』が発動しないって!」


この言葉に「ああ、そう」と言う。


この人、絶対わかってたな。


「で、棒は?」


「その辺にほっぽって来た」


ハティさんに胸倉を掴まれる。


「アンジェがぁぁ、くれたものぉってぇ、わかってるのかぁぁん?クソガキャぁ」


うっっわ、めっちゃ怖い。


「大丈夫だよ!」


「何がだよ!」


―――――カラン


固い音がする。


コロコロコロコロ


数メートル先に現れた「土寄せ棒」がこちらに転がってくる。


「ほら」


さしものハティさんも固まった。


「あの子、僕から離れると10分くらいで追いかけてくるんだ」


僕は笑う。


「可愛いでしょ?ペットみたいで」


「怖いわぁぁぁぁっ!」


魔人さんが叫んだ。


そうかなぁ?

きっとアンジェさんの「片時も離れたくない」っていう気持ちが「棒」にも移ってるんだろうと思うけれど。


というか、ハティさんなら理解できると思ったんだけれどなぁ


矢が襲ってくる。


「っ!」


僕は「ベクトルを捻じ曲げる力」でそれを逸らす。


ハティさんは気を取り直したようだ。


「そうか」


何を納得しているの?


「僕は、自分だけでやろうとしていた」


「君たちを見くびっていた。すまない」


そして僕へと頭を下げる。


「君たちは弱くなどない」


「君たちは強い」


なんだよ、急に改まってさ……


「だから、共に『狩り』をしよう」


そう言ってニヤリと笑った。


あの、首都の地下牢で見た、どう猛な顔。



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