第111話 恐ろしきはエルフの執着。ワンワンワンって「ポチ」って呼ぶな。
「ハッティくんは思ったでござる」
あ~、その設定、続けるんだね。
「拙者がいくら【隠形】使っても、そこのポチ丸が台無しにするでござる」
な、なんで僕が足引っ張る設定なんだよ!
しかも、微妙に寄せて「ポチ」言うなよ!「薄い本」思い出すよ。
「術が消されて見つかるのでござる」
「そこで、プリンセスちゃんとポチ丸はクロ千代の先導で脱出するでござる」
その変換、何とかならない?
クロエに先導してもらって、僕らが逃げるんだろ?
ってかさ、「クロ千代」ってライバルのペットだよね。
その「煙に巻き」方、何とかならないかなぁ……
「ハティ…ハッティくんは、どうするの?」
コレットが尋ねる。
「僕は派手に暴れて時間稼ぎをするよ」
……おい。せっかくコレットが合わせたのにマジレスするな。
アンタらちょいちょい「素」に戻るから。
そこ、しっかりしろよ。
「プリンセスちゃんは、ポチ丸たちと一緒に」
急に修正するし。
ストレスたまるなぁ……
たぶん、設定ガバガバだから、「忍者」としても違う流派じゃないの?
◇
ヒューーーーー
風が吹く。
未曽有の「モンスターパニック」に兵士たちは殺気立っていた。
月を背に、塔の上に立つ人影……
影に気づいた兵士が見上げる。
「な、なんだっ、アイツは?」
それを待っていたかのように影は跳躍する。
「とぉう!でござる」
そして手近な建物の屋根に降り立つ。
衛兵たちが群がった。
「敵襲!怪しい奴がいるぞ」
100%怪しいのは言うまでもない。
「なんだ、貴様!名乗れ!」
ハティが大見得を切る。
「あっ、しらざぁ言って聞かせやしょうぅぅぅぅ」
「か、歌舞いているっ!」
衛兵の驚きを余所に、カラカラと笑う。
「浜の真砂と盗賊がぁ~歌に残せしぃ盗人のぉぉぉ、種は尽きねぇ共和政府ぅ」
「いよっ、不審者!」
「大陸一のバカ野郎!」
合の手が入る。
「忍者『ハッティくん』ただいま参上!」
ハティが流れをぶった切って名乗った。
「はっ、ハッティくんだと!?」
衛兵たちの中で動揺が広がる。
(な……誰か知っている奴いるのか?)
(知らん。あれだけ自信満々に言われても「知らん」)
(というか、「忍者」ってなんじゃ?)
(どんなモンじゃ?)
こそこそと囁き合う。
それをちょっとイラッとしたようにハティが言う。
「忍者ってのはぁぁぁ」
そう言って魔力を込めた水晶を取り出す。
「発破!」
手あたり次第投げつける。
途端に爆発を起こした。
「透波!」
いつの間にか兵士たちの中にいる。
キィイイイイイン
金属音と共に兵士たちが血を吹いて倒れる。
「乱波!」
本営の建物から火の手が上がる。
大混乱となった。
「とにかく、敵陣でムチャクチャするのでござるよ。ニンニン」
◇
おおおっ、本当に無茶苦茶だ。
「ハッティくん」とんでもないことしやがる。
普通、手裏剣とかスマートに投げるんじゃないのかよ!
辺りは火の海。
ってぇぇぇジャガイモさんたちまでぇぇ。
くっそぉう。
君たちの犠牲は忘れないよぅ。
それでも、この混乱に乗じて僕たちは走った。
逃げまどう人たちに紛れて。
でも、事はそんなに簡単にはいかない。
だって、ここには「彼」がいるんだ。
◇
「っ!?」
どこからともなく矢が飛んでくる。
ハティはそれをすんでのところでかわした。
空を割いて飛び去った矢であったが、途中の土壁を貫通していく。
「……」
ハティは剣を構えて周囲を窺う。
「っ!?」
背後からの狙撃。
背を向けた方から放ってくる。
ならば、そのセオリーを逆手に取るべきか。
そう思うところだが、ハティの体はわずかに強張ってしまう。
◇
(悪いな、コレット……)
隠蔽スキルを使って姿を隠したランドルフは内心呟く。
(まさか、お前の言う「お兄ちゃん」がハティだったとは)
気後れするところはある。
だが、彼にも思うところがある。
(俺は「許さない」選択をしたんだ)
矢を放つ。
標的はこちらの場所に気づけていない。
それでもギリギリのところでかわしている。
(あの野郎はっ、クラフト様をっ、「師匠」を殺したヤロウなんだ)
◇
コレットはハティの動きと襲い掛かる「矢」を見て察した。
(わ、私は、また……)
狙撃手はおそらくランドルフ。
そして、ランドルフは容赦なくハティの「背中」を狙っている。
数十も射られている。
ハティはそれをかわしてはいるが、動きが悪い。
そして、せわしなく狙撃手を探している。
明らかに動揺しているのだ。
(私が、ランドルフさんを信用して話しちゃったから)
「なにやってるんだよっ、もう!」
隣でハルが叫ぶ。
「らしくないんだよっ!いつものバカっぽさで何とかできないのかよ」
苛立たしげに言う。
ハルも気づいているはず。
狙撃手がランドルフさんだってこと。
そして、ハティさんの動きが悪い原因が。
私はいつの間にかハルの上着を掴んでいた。
「どうしたの?コレット」
怖い。こわいこわいこわい……
「大丈夫?顔色悪い。ハティさんなら大丈夫だよ」
だって、だって私のしたことだから。
「は、ハルっ、わたし、わたし、また……」
ハルは私の顔を覗き込んだ。
「私が、ランドルフさんに、言っちゃったから」
それでハルも気づいたみたい。
「コレットは悪くない」
静かに言った。
「聞きだしたランドルフが、それをどう使うかってのは『アイツ』の問題だ」
どうして、どうしてそんなふうに言うの?
私が言わなければ、こんなことにならなかった。
上着を掴む私の手にハルはそっと手を重ねた。
「コレット」
優しい顔。
でも、厳しい顔。
「僕は行くよ」
どこに?
「あの変人がもたついてるから、イライラしてきたんだ」
私の手を離す。
「なんかさ、アイツらまとめてぶん殴ってやりたい」
「口でカッコいいこと言ってるクセにさ、心配かけさせるなよってさ」
それから笑う。
「もちろん、コレットに、だよ」
◇
さすがのハティも危機感を覚えている。
避け続けているものの、狙撃手の位置は特定できていない。
また、物陰に潜んでも、過たずに放たれる。
さすがに大規模な破壊を生む「重力の矢」は使ってこない。
だが、貫通力の高い精密射撃が代わりに襲ってくる。
(囮役はできてるけれど、さすがにキツイな)
自身のトラウマもあって反応が鈍い。
体が強張ってしまう。
力圧して全てを吹き飛ばすこともできるが、巻き添えを食うのはコレットたちだ。
そして、狙撃手は無傷だろう。
(やはり、最も厄介な敵――――――)
思った時、建物を迂回するように矢が飛んでくる。
(こんな芸当もできるのかっ!?)
対応しようにもわずかに遅れる。
そこへ、割って入る人がいた。
◇
「何やってるんだよ!」
僕は叫んだ。
エーレンブルグで使った「ハティさんの力」。
アミュレットからもたらされるその「力」を使って矢を捻じ曲げる。
「ハル……」
呆けたようにハティさんが言う。
「聞いたよっ、アンジェさんに」
ハティさん、この言葉にちょっとイラッとしたような顔をした。
「アンジェに?何を?」
「『棒』が魔力消しちゃうから、『アミュレット』が発動しないって!」
この言葉に「ああ、そう」と言う。
この人、絶対わかってたな。
「で、棒は?」
「その辺にほっぽって来た」
ハティさんに胸倉を掴まれる。
「アンジェがぁぁ、くれたものぉってぇ、わかってるのかぁぁん?クソガキャぁ」
うっっわ、めっちゃ怖い。
「大丈夫だよ!」
「何がだよ!」
―――――カラン
固い音がする。
コロコロコロコロ
数メートル先に現れた「土寄せ棒」がこちらに転がってくる。
「ほら」
さしものハティさんも固まった。
「あの子、僕から離れると10分くらいで追いかけてくるんだ」
僕は笑う。
「可愛いでしょ?ペットみたいで」
「怖いわぁぁぁぁっ!」
魔人さんが叫んだ。
そうかなぁ?
きっとアンジェさんの「片時も離れたくない」っていう気持ちが「棒」にも移ってるんだろうと思うけれど。
というか、ハティさんなら理解できると思ったんだけれどなぁ
矢が襲ってくる。
「っ!」
僕は「ベクトルを捻じ曲げる力」でそれを逸らす。
ハティさんは気を取り直したようだ。
「そうか」
何を納得しているの?
「僕は、自分だけでやろうとしていた」
「君たちを見くびっていた。すまない」
そして僕へと頭を下げる。
「君たちは弱くなどない」
「君たちは強い」
なんだよ、急に改まってさ……
「だから、共に『狩り』をしよう」
そう言ってニヤリと笑った。
あの、首都の地下牢で見た、どう猛な顔。




