第108話 伝説の料理人ポンム・ド・テール「そんなんじゃカビちまうぜ」 !
「チィッ」
僕は思わず舌打ちをしてしまった。
「なっとらん」
倉庫に食材を運んだ。
だが、保管方法がずさんだ。
僕が木箱覗いていると声をかけられる。
「おい、ボウズ。俺様の食材に触るんじゃねぇ」
振り返ると大柄な男。
スヴェンよりムキムキ。
サイドを刈り上げて頭頂部の長い髪を一つに結んでいる。
僕はゆっくりとソイツを見た。
「なんだ?」
「おまえさ、ジャガイモさんに謝れよ」
「はぁ?」
僕はソイツに近づいて顔を覗き込むようにした。
「こんな小汚い箱で保管しやがって……しかもなんで『ニス』塗って通気性悪くしてんだよ?木箱使う意味わかってんの?」
「???」
「そっちのは隙間ができて光が入ってくる。何がしたいのさ?この倉庫は蒸し暑いし」
「お前、何言って……」
「『俺様の食材』?なら、口に入れるものの保管ぐらいちゃんとしろよ。5℃から15℃が適温なんだよ!暑過ぎても寒過ぎてもダメ!」
大男は僕に気圧されて後ろに下がった。
「こんなんじゃ、カビちまうぜ」
僕はフッと鼻で笑う。
「じゃあな」
そう言って立ち去ろうとする。
そこで思い出した。
「ああ、せっかくだ。リンゴも一緒に入れておくといい。芽が出にくくなるぞ」
ちょっと決まったんじゃない?
後ろ手に手を振って出て行こうとする。
「おい、ちょっと待て」
ドッキーーーーン。
勢いで乗り越えようとしたけど、ダメかぁ……
恐る恐る振り返ると、満面の笑みとぶつかる。
「お前、ただものじゃないな!」
いえ、ただのジャガイモ農家です。
「きっと名のある料理人だろ?」
いえいえいえ、料理人じゃなくて農家。
「名前を教えてくれないか?」
ヤバいなぁ……こういう時はお約束だな。
「名乗るほどのモンじゃねぇよ」
僕は答える。
名乗りたくないからね。
そして、本当に「名乗るほどたいした者」でもないからね。
「くぅっ!なんて奴だ。きっと有名過ぎて名乗れないんだな」
違うっつーの。
大男は僕に歩み寄って両肩を掴む。
「どうか、俺に一つでもいい、技を見せてくれ!」
はい?
「教えてくれって言いたいんだが、『見て盗め』が俺ら料理人だ。残ったソースを皿洗いの時に舐めてでも盗み取る」
おい、なんで「激熱料理人」な展開になってるんだ?
「こんな機会はめったにないんだ。頼む、厨房に来てくれ!ぜひ、一手なりとも」
……やだなぁ、帰りたくなったよ。
「これからランドルフ様へお夜食をお届けするんだ。お前ほどの料理人が作ったものならば、お喜びになられるはず」
え?ランドルフ?
「どうか……」
僕はちょっと溜をつくってみせた。
「厨房は料理人にとっての『戦場』であり『聖域』だろう?」
男はハッとした顔をした。
「わかってる!わかっているが、それでもっ」
「しょうがねぇな……」
「あ、ありがてぇ!」
……。
いえ、お礼を言いたいのは僕の方ですよ?
◇
「ほぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁ」
僕は奇声を上げる。
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、あっつぅぁぁぁぁ!」
アツアツのポテトに塩を入れ、混ぜ合わせる。
ぽってりねっとりが好きな人はメチャクチャ混ぜてもいいけど、僕はさっくりほろほろタイプだ。
切るようにサクサクと混ぜる。
「おい!コミ(新人)。挽肉は仕上がっているな!」
「はい!」
「アツアツの内に馴染ませるぞ」
僕はボウルでコロッケだねをつくる。
「砂糖を少しだけ入れるんだ」
そう言って砂糖と黒コショウを加える。
「一時間ほど冷やしてから整形してあげるんだ。バッター液はオリジナルでいい」
「はい!」
バットに移したコロッケだねを押しやる。
「な?ロデリック。大したことないだろ?難しくなんかないんだ」
「『奥義』やらなにやらなんて、そう難しいものじゃない。見えているようで見えていない、意識していない『基本』こそが大事なんだぜ」
僕はそうロデリック(大男)に言う。
「くっ!深いぜっ」
ロデリックが拳を握る。
「大事なのはコツコツとやり続ける『根気』。そして、人の口に入れる食材への『愛』と『責任』なんだよ」
僕の微笑みに。
ロデリックが天を仰ぐ。
「俺は、俺は小手先ばかりの技にばかり頼って、大事なことを見落としていたんだなっ!」
うん。いいように解釈してくれている。
ありがとう。
「ありがとう。シェフ!名前を教えてくれよっ!大切なことを思い出させてくれた師匠!」
あ~あ~、困ったなぁ
あ、そうだ。
「フッ、俺のことは『ポンム・ド・テール(大地のリンゴ)』とでも呼べ」
エプロンを外して、壁に掛ける。
「ポンム・ド・テール……」
ロデリックは感極まったように呟く。
いや、「ジャガイモ」のことなんだけどさ。
「じゃあな、楽しかったぜ」
僕は手を振る。
「お前の『仕事』を誰も認めなくたってな、カビるんじゃねぇぜ」
厨房を後にした。
◇
廊下の角から顔をのぞかせ、窺う。
衛兵はいない。
ちょっと不用心だな……
しかし、ここからの廊下さ、等間隔に水晶を飾ってるよね。
装飾としては違和感あるなぁ……
ゆっくり、辺りを窺いながら廊下を過ぎる。
―――――――スン
ん?何か……まあ、いいか。
燭台に照らされた廊下。
オレンジ色の廊下を警戒しながら歩く。
石造りの廊下をそっと、そっと。
閉じ込められているとしたら、地下かな?
よし、地下牢を探すか。
◇
一時間ほどだ。
地下に通じる扉を見つけた。
何かの魔術かパスワードが必要かなと思ったけれど。
扉を触った瞬間だった。
―――――スン。
何かが静まった感じ。
僕が扉に手をかけると普通に開いた。
なんだよ、ここ。
言っちゃあなんだけれどセキュリティ、ガバガバじゃないか。
◇
「あれ……ちがったぁ」
僕は落胆の声を上げた。
地下牢はなかった。
代わりに、唯一見つけた地下はデカい水晶が安置された部屋だった。
無機質な壁に覆われた空間。
その中央に浮かぶ水晶。
(はぁ、すごいなぁ。ダンジョンで見た魔水晶よりでっかいな)
そう思いながら部屋を探る。
隠し通路とかもあるかもしれないからね。
壁面を触ってみたり、水晶の置かれた台を覗いてみたり。
う~ん、床の紋様って「魔術」か何かかな?
屈み込んだとき、「棒」を背負っていた紐が滑る。
そのまま「棒」が床を叩いた。
―――――スン
あれ、あれあれあれあれ!?
何か光ってるのが、暗くなった!?
もしかしてやらかした?
水晶にまで嫌われたっ!?
そして、外が騒然となる。
「なんだ!?急に動力源がストップしたぞ!」
「魔水晶がかっ!?不具合なんて起きるわけないだろ!メンテしたばっかりだ」
「侵入者か?」
「魔術トラップいくつ仕掛けてたと思ってるんだ!」
「これだけのセキュリティ突破できるなど!敵は大魔導師かっ!」
「さては『最悪の魔女』アンジェの仕業かっ!」
あああああっ、やっちまったぁ!?
アンジェさん、ごめ~~~ん。僕のせいで!
バタバタと足音が聞こえる。
こ、こっち来るぅぅぅぅ!?
ジャガイモ仲間のみなさんへ
今日もお疲れ様でした。
お疲れではありませんか?
意識しなくても、ちょっとたことの積み重ねでモヤモヤすることもあると思います。
でも、そんな日を乗り越えたアナタは凄い人なんですよ!
もし、嫌なことがあったら…
「こんなんじゃ、カビちまうぜ」
とハルくんみたいにシニカルに「スン」です!
あ、明日って4月1日エイプリルフールですね…
ということはっ!?
朝5:00に「アレ」を投下したいと思います。
朝の清涼剤に。
ぜひご覧下さい。




