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第107話 どうしてもわかりあえない僕たち。孤独な心と「育毛剤」



共和政府本営。


その砦の廊下。


「ランドルフさん」


コレットが暗い顔でランドルフに声をかける。


「どうした!?コレット、何があった?」


「私、どうしたらいいの」


「んん?クレイグとケンカでもしたのか」


頭を振る。


「私、わけがわからなくて」

「私のお父様とお母様は、私を捨てたんだとずっと思っていた。けれど、違うってクレイグさんが……」


「クレイグの『眼』か」

「うん」


「それで、恨んでいたお前はどうしていいかわからなくなったと」

「うん」


頷くコレットに、ランドルフがあっさりと答えた。


「そうか。なら『恨んだまま』でいいんじゃないか」


「へ?」


「お前が辛い思いをしたのは、事実だ。その過去は変わらない」

キッパリと言い放った。


「だから、お前が両親を恨むのを誰も『間違ってる』なんて言えない」


「他人の気持ちが分かるわけないだろ?同じ痛みを感じられるか?たとえ、クレイグみたいに『視え』て『感じる』ことができたとしてもだ」


「その辛さ、その痛みは受けた時点でソイツのものだ。追体験しても必ず『自分』のフィルターを通してしまうんだからな」


「だから、俺は『そんなの大したことない』とか『わかってる』なんて言わないよ」


そう言ってコレットの頭を撫でる。


「コレット、ムカついたら怒っていいんだ。迷惑かけられたら、バカ野郎って言ってやっていいんだ。俺らはお互いさまだ」


涙がこぼれた。


私は「怒っていい」。


私は「恨んでもいい」――――




コレットが泣き止むまでランドルフは待った。


「ここじゃ、なんだな。風に当たるか?」

そう言ってバルコニーへと誘う。


外は夜の帳が落ちている。


眼下には魔術によって灯された照明。


本営の敷地内がオレンジ色に照らし出されている。


「ランドルフさん」

「なんだ」


「もう一ついいですか」

「ああ、いいぞ。『どーーん』と来い」


コレットには今の「どーーん」が心強く思えた。


「私、お兄ちゃんを傷つけてしまったの」


ランドルフは以前、コレットが「兄妹はいない」と言っていたことに違和感を覚えた。


「お姉ちゃん、本気で怒って。お兄ちゃんは許そうとしてくれたんだけれど」


「そうか」


「ワザとじゃなかったの。知らなかったの。お兄ちゃんが『背中を触られるのが怖い』って」


ランドルフは黙って聞いていた。


「私、お姉ちゃんもお兄ちゃんも好きなの。大切な人なの。それなのに」


「うん」

ランドルフが手を打った。

コレットが顔を上げる。


「コレット」

そう言ってランドルフがコレットを見る。


「生きている限り、誰かに迷惑をかける。必ずだ。生きている限り、誰かに迷惑をかけられる。これも必ずな」


「じゃあ、自分が迷惑をかけているのに、他の奴に迷惑かけられたことばっかり言うのって都合がよくないか?」


それにコレットは首をひねった。

(あれ?さっき、いい感じで「私は誰かを恨んでもいい」って……)


「恨んでも、怒ってもいいんだ。その気持ちは間違いじゃない。でも、そっから『じゃあ、自分はどうだ』って思えばいい」


「そうやって、悩んで悩んで、出した答えが『恨み続ける』でも『許す』でもどっちでもいいんだ」


それからランドルフは、フッと笑う。


「でもよ、やったことや決めたことには『責任』は伴う。誰かが罰しなくてもお天道様が見てる」


「『許さない』選択をしたなら相手に『許されない』ということも受け入れろ。『許す』選択をしたなら相手に『許してもらえる』ように努めろ」


つまり、コレットが両親を「許さない」選択をしたのなら、ハティたちにも「許してもらえない」ことを受け入れなくてはならないこと意味する。


ランドルフがコレットを見る。


「もし、お前の兄貴や姉貴がお前を『許さない』って言ったら?」


その言葉がコレット胸を抉る。


(きっと、きっと許してくれない……)


コレットの表情を見てランドルフも答えを得たようだ。


「じゃあさ、もしお前の兄貴や姉貴がお前を『許す』って言ってきたらどうする?」


さっと風が吹く。


コレットが顔を上げる。


「もう一度、言うぞ」


「俺は、お前が親を許さなくても、恨んでもいいと思っている」


「お前自身が『恨み続ける』選択をしたんだからな」


向かい風が彼の髪をなびかせる。

前髪がぱっくりと割れて後退した部分を強調する。


「でもよ。そんなお前のしたことを『許してやる』って言ってくる奴がいたら、おまえはどうだ?」


ニッと白い歯を見せて笑う。


その笑顔が、なんだか、コレットにはカッコよく思えた。


「少なくとも俺は『こいつは尊敬できる奴だ』って思うな」


言っていることは無茶苦茶。


「自分の感じたままでいい」って言っている。

それは「真実」で、「嘘」じゃないって。


「許しなさい」とは言っていない。

もし、自分が「許されたのなら」自分はどう考えればよいのかを問うている。


最後は「自分で決めなきゃいけない」って厳しさも伝えている。


「結局俺たちはどこまでいっても『自分』しかないんだよ」


「分かり合えるって『夢』を見ながらな」



――――コレットは、心に決めた。


「今度、ランドルフさんに育毛剤をプレゼントしよう」




ふふふふふふ、「村人A」さまを舐めるなよ。


僕は本営内を歩く。


通り過ぎる衛兵も「なんだ、荷運びの奴か」とスルーする。


たまに「どうした?」と聞いてくる人もいる。

そうしたら決まり文句。


「すみません、同じような感じの建物で迷いました」


そうすると不思議なことに、「集荷場所はあっちだ」と教えてくれる。


正直、この人たち、大丈夫かって思う。


とはいえ、おかげで本営中央まで辿り着いた。


しっかりと建てられた砦。


待ってろよ!コレット。


僕が必ず助けてやるからな!


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