第105話 敵将の弱点は「生え際」でした。~「髪」と「神」。語られる「真・ポテト神」の伝説~
「あの~」
僕は出荷用の荷造りをしている人に声をかける。
「なんだ?ボウズ」
その中年男性はこちらを見て聞いてきた。
「お手伝いさせてもらえませんか?」
「ん?」
「お腹が空いていて……ご飯食べさせてもらう代わりにお手伝いをさせてもらえませんか」
僕は一生懸命考えた言い訳をする。
中年男性は僕をじろじろと見た。
「おまえ、どこの村から逃げてきたんだ?そんな汚い格好して」
「えっと、バクス村です」
嘘ではない。
「あっ、『魔物騒ぎ』のあったあそこか!?」
「はい。逃げてきたのはいいんですけれど、もう、お腹が減って」
「大変だったなっ、政府軍が魔物を鎮圧したっていっても、畑とかメチャクチャだもんな」
なんとも人のいい。
その政府軍が元凶だってのに。
「いいぜ、飯を食わせてやる。その代り、ちゃんと働くんだぞ」
「はっ、ハイ!ありがとうございます」
僕は上手く事が運んで嬉しくなり、頭を下げた。
「ははは、よっぽど腹が減ってんだな……まずは、俺ん家に来いよ」
◇
「ら、ランドルフさま?どうなされたので?」
衛兵さんが驚いた顔をしてる。
そりゃそうだよね、ずぶ濡れなんだから。
「いやぁちょっと川下りをしていたんだがな。ミスった」
そう言ってランドルフさんこと「エガちゃん」が笑う。
「川下り」じゃなくて「滝つぼ転落」です。
とはいえ、さすが共和政府の将軍。
真っ逆さまに落ちそうだった所、お得意の「重力操作魔術」で危機を脱した。
「ぎゅ~~ん」とか言って水面に叩きつけられる前に横滑りに移動したんだ。
そのまま石が水面を切って飛ぶように、私たちは水面を跳ねた。
「あばばばばばばば」
「大丈夫か、コレット」
水に落ちて溺れかけている私をランドルフさんが引き上げてくれた。
「あ、ありがとうございますぅ」
そうしてここまで辿り着いた。
……髪が水に濡れたことで、生え際の後退っぷりがハッキリと見てとれる。
もしかして、かなり苦労してる人なのかな?
「それに、その子は?」
衛兵さんが私を見る。
「ああ、コレットか?森で保護したんだ」
エガちゃんの言葉に、衛兵さん感心している。
「さすがは我が軍の双璧をなす御方だ。騎士の鏡だ」
「はッはッはッ、そんなに褒めるな。何も出ないぞ?」
「いえいえ、本心からです」
「なんだ、照れるなぁ~。よし、今度お前の宿営にいい肉を届けてやろう」
「ありがとうございます」
それから衛兵さんが手を揉みながら言ってくる。
「できれば、毛皮もいただければ~」
「はッはッはッ、欲しがりさんめ。いいだろういいだろう」
ああ、エガちゃん、チョロイ……
不意にランドルフさんが私に向き直る。
「コレット、そのままだと風邪をひくぞ。中に入れてやる。風呂もあるから温まるといい」
「い、いえいえ、そこまでしていただかなくても」
「なんだ、子供が遠慮するなよ」
遠慮しますって、敵のただ中に入って無事とは思えませんから。
「街に送っていただいただけでも感謝してもしきれません。私はこれで……」
そう言って離れようとする。
「待て」
ランドルフさんの鋭い声。
ば、バレた!?
「お前、兄妹はいるか?」
や、ヤバい……
「い、いいえ。いません」
私はそう答える。嘘じゃないし。
「そうか。勘違いか……」
ランドルフさん、首を傾げる。
何気に勘がいいんだよね、この人。
ホッ……
安心したのもつかの間だった。
「ランドルフ?」
女性の声。
「ああ、クレイグか」
ランドルフさんが返事をする。
「どうしたのです?」
女性が歩み寄ってくる。
杖を突いて足元を探るように。
「こちらから行く。無理に来なくていい」
あれ?もしかしてこの女の人、目が……
ランドルフさん、そっと近づいて手に触れる。
「手が冷たい。何をしていたの?」
クレイグさんが尋ねる。
「ちょっとしたアクティビティだ」
どこが、「ちょっと」ですか?死にかけましたよ?私は。
「まぁ……どんなこと?お話を聞かせて」
「いいともいいとも」
ん?んん?
ちょっと、待て。
この雰囲気。
もしかして……この二人って。
不意にクレイグさんが私の方を向く。
「ねえ、ランドルフ。そこに誰かいるの?」
その問いにランドルフさんが答える。
「ああ、コレットか。森で保護したんだ」
「コレット……?」
「ああ、そうだ。知っているのか?」
クレイグさんが私の方をじっと窺っている。
……え?私のことを知ってるの?
それから彼女は首を横に振る。
「たぶん、人違い」
「そうか」
「コレットは今、ずぶ濡れでな。悪いが風呂に入れてやってくれ」
「ええ、いいわよ」
え、いえ。私は良くないです。
「さあ、行こうか」
◇
「これを、共和政府の本営に届けるんですか?」
「ああ、そうだよ」
僕の質問に中年男性が答えた。
しめしめ、事前の調査どおりだ。
「しかし、お前、荷造り上手いな」
「そうですか?えへへへへ」
「魔術も使わずにパパッとやっちまうんだ。しかも、力もあるな。こんな重い荷物を軽々と」
いえ、使えないんです「魔術」。
中年男性が僕をじっと見る。
「え?な、なにか」
「いやな、魔獣の問題があったってのはわかるが、村に戻らないのか?」
ヤバい、怪しまれている。
「お前みたいな凄腕農家。村じゃ手放したくなかっただろうに」
僕はこれに黙るしかない。
真逆だよ。
僕は「役立たず」ってバカにされてきたんだ。
「呪われ」の「嫌われ者」だったんだ。
中年男性は僕の表情を見て「しまった」という顔をした。
「わ、悪かったな。お前の事情も考えずに」
……え?
「お前はきっと『村の希望』だったんだな!」
はい?
「荒れた村にいてくすぶるよりも、旅をして『でっかい漢』になって帰って来る。そして、『真・ポテト神』に覚醒して村を立て直すんだろ?」
なんスか、それ。「しん」2回言ってるよ?ダサくない?
「そのために、村のみんなが『俺たちに構わず、逃げるんだ』ってな!そしてお前は『みんな、ごめんよ』って泣きながら……」
このオッサン、何勝手にストーリーねつ造して、感涙にむせんでいるの?
しかも前後オカシイから。
「荒れた村」から「魔物出たから逃げろ」って逆じゃないの?
そもそも村が荒廃していたって設定なの?
突っ込みどころ多すぎるよ。
「そうかぁ、エルフたちが噂している『真・ポテト神』かぁ。神の力を宿す芋をつくる伝説の農家っ、~~~かぁっ、会ってみてぇなぁ」
……僕は何も言うまい。
たぶん、そのヘンテコな伝説、アンジェさんが創作したんだろうな。
「よぉうし、気合も入ったことだし、『共和政府本営』に納品しに行くか」
中年男性は気合を入れる。
「あ~いつまでも『お前』じゃなんだな。名前、教えてくれよ」
「あ、はい。ハルです」
「そうか、じゃあ、『ハル』いくぜ!」
僕はロバのけん引する荷馬車に乗る。
―――――待っていて、コレット。必ず助けてあげるから。




