ハルの新生活特別編 ハルの一日(午後の部)
僕はお昼まで農作業。
「ふぅ」
息をつき、天を仰ぐ。
太陽は中天。
けっこういい時間だな。
お待ちかねの、お昼ご飯。
今日は「おむすび弁当」。
ほう、ほほう、これはまたテンション上がりますなぁ。
・拳骨大おむすび 2個
・アンジェさん特製卵焼き
・ソーセージ
・焼きブロッコリー
・ボム・フラワーの実
……なんで毎回、1、2品怪しいの入るかな。
僕は切株に腰かけて手を合わす。
「いただきます」
まずは、卵焼き。
う……うまぁぁぁぁい!!
なに、この甘しょっぱい味付け。
ソイソース(醤油)?
でも、この味わい深い出汁感がなんともクセになる。
おむすびを齧る。
ほ、ほほほほほほ。
今朝の焼き鮭がここでも。
まるで好きだった同級生に再会したかのような喜び。
って、同級生ってなに?
それからソーセージ。
ふっ、さすがは「守護者」アンジェ・フラン・スカーレット様。
ケチャップと共に炒めるなど。
一見邪道と思える技を使って、酸味と脂に共闘させるとは、策士よの。
そして、この焼きブロッコリー。
シンプルな塩コショウの味付け。
塩味を抑えることで先ほどの「濃いメン」のソーセージとのバランスをとっている。
最後に懸案の「ボム・フラワーの実」。
赤いね……なんか、白い斑点もついてる。
ミニトマトにそっくりなんだけれどさ。
でも、育ったら、なんか虎挟みみたいな花になるんだよね。
そして、近づく人に齧りついて放さない。
引き寄せて、根を張ったあたりまで来ると刺激された「根粒」が大爆発。
食べて大丈夫かな?
口の中で爆発しない?
思い切って齧ってみる。
ポフンッ
弾けた。
でも、痛くない。
甘酸っぱい。ちょっと青臭いけれど。
あ~、酸味強めのトマトっぽいな。
…
……
………
大変、おいしゅうございました。
「ごちそうさまでした」
◇
畑を片付けて家に戻る。
農家はとにかく一日のリズムが早いのだ。
夕方まで少し時間あるからなぁ、どうしよう。
棒術の練習しようかな。
そう思って歩いていた。
……なんです?あれ。
「おっ、おおっ、おおおおおお」
スヴェンが……イジメられているっ!?
盾を構えるスヴェン。
それに対して鉄の棍棒(しかも二刀流)を叩きつけているエリーゼさん。
「ほらほらほら、押し返されていますよ!」
嬉々として殴りつけている。
「そんな耐久力ではっ、満足なんかさせられません!」
いや、何の「満足感」だよ。
たぶん、タンク役だから耐久力を上げる訓練なんだろうけどさ……
「ちょっとキツくしますよっ!」
えっあれで加減してたのっ、滅多打ちにしてたじゃない。
「どっせーーーい」
「おわぁぁぁぁっ!?」
スヴェンの巨体が盾ごと吹っ飛ぶ。
「あらら、我慢の利かない子ですね」
ちょっと表現が危なくないですか?
自重してください。
通報されます。
しっかし、片手で棒を振り回すだけの筋力も凄いけれどさ。
あれだけ動いて息を乱していない持久力って何なのさ。
◇
「いいね、いいね~」
ハティさんの声。
「もっと大胆にぃ」
なんだ?グラビア撮影か何かか?
「はい、ちょっとアングル変えようか~」
変態カメラマンみたいだな。
「おおっ、それだよっ、キタキター」
いや、ホント、アンタはどっかに行けよ。
見ると、リャナンとリムアンがハティさんに打ち掛かっている。
あ~、かかり稽古か。
それぞれが手にしているのは木製の模造品。
ふたりが同時に掛かっていくのをハティさんは容易に捌いていく。
「リムはもっと腕を大胆に使ってぇ」
「リャナンはちょと向きを変えてみようかぁ」
いや、動きの修正なんだろうけれどさ!
その言い方が問題だよっ、ちょっとヤラシイよ。
それでも二人は一生懸命。
リムアン、言われたとおりに長柄武器のリーチを活かして大きく振るう。
「はいっ、そこからのぉ」
リャナンが合わせるように飛び込む。
リムアンの振るった木槍の後を追うように。
「おおっ!?」
ハティさんの声。
「いいじゃない。いいじゃない」
いや、何がいいじゃない、だよ。
「リムの槍が受けられる想定で、攻める」
「そこから、相手の『裏』を攻める常套手段を外し、受けた相手の脇下を狙う……」
「うん。実にいいね!」
いや、言ってることは良いんですよ。
でもさ……
「ぐ……」
「くっ、う、ううう」
槍の柄を右腕で掴み、左手で逆手に持った木剣のガード部分でリャナンの木剣を押さえている。
「よぉうし、もう一回いこうねっ」
なんだかなぁ……
◇
「ただいまぁ~」
家に戻る。
土や埃を払って、家に上がる。
手洗いうがい。
「おかえり~、おやつあるよ」
アンジェさんの声。
うん。安定のオカン。
「ありがとうございます」
僕はアンジェさんからプリンを貰う。
ちゃんとしたサイズだ。
安心。
部屋で食べよ~っと。
廊下を歩いていると、声が聞こえる。
「この『グス』がぁっ!?」
「ひぃぃぃっ!」
ティアさまとコリガンくんの声?
「そんなので満足させられと思っているのかっ」
「ぼ、ぼぼ僕は、こういうの経験がなくてっ」
「あろうがなかろうが、お前は『良いモノ』を持っているのだ!ちゃんと使え」
「そ、そんなぁ」
「はああん!少年を罵倒して責めるお嬢様ぁん。す・て・き」
途中、ヤバい人の声も交じっているけれど、内容もすさまじい。
「そんな動きでは女子どもが冷めてしまうだろう!」
「ええっ!?」
いや、ホントこれ、通報レベルじゃないの!?
ついにやっちまったかっ!?
僕はそっと襖を開けた。
向かい合って座るティアさまとコリガンくん。
ふたりとも息が荒い。
こちらに背を向けているコリガンくん。
なにかゴソゴソと手を動かしている。
「そうだ、そうやって……」
「こ、こうですか?」
「その角度が良いのだ。グッといけ」
え、ええええ?
コリガンくん、なんで、ティアさまとそんな関係になってるの!?
「ん?」
ふたりがこちらを見た。
襖がスッと開く。
ジャンヌさんだ。
「なんだ、ハルも執筆活動に興味があるのか?」
ティアさまの声。
そう、そうなんだ。
なんで、コリガンくん「薄い本」手伝わされてるの?
「コイツ、なかなか絵が上手いのでな。挿絵を描いてもらっていたのだ」
うん、なんとなくそんな感じでしたね。
「だが、ビビりだからな。もっと大胆な筆遣いで動きを出さねばと発破をかけていたのだ」
いや、先ほどのセリフ。
発破どころか「炎上」しますよ。
削除されないかドキドキでしたよ。
「ハルも、私の原稿を大切に保管しているくらいだからな。嫌いじゃないだろ」
え……?
「知っているとも。自分をモチーフにしたBL原稿の『良いところ』だけを盗むとは」
あ、あははははっ。
僕、終わった……
◇
「いただきま~す」
みんなで手を合わせる。
今日の晩御飯は焼き魚がメインかぁ……あ?
それぞれの長角皿に尾頭付きの焼き魚が載っている。
ちょっと赤い丸い感じの魚。
これ、出目金魚?
いや、百歩譲ってそれだけならさ、いいんだ。
そう、それだけだったら。
なんで、カニみたいな足がついているの。
「どうしたの、ロッシェ?」
アンジェさんが聞いてくる。
「嫌いなのあった?」
「あ、いえ。嫌いとかそういうのじゃなくて」
「ん?」
「見慣れない食材が多くて……」
そこでアンジェさんが手を叩いた。
「ああ、確かにこの『タカアシ金魚』は人の里では見かけないね」
……え?やっぱり金魚なの?
「エルフの森にある池で獲れるの。カニの足もついてるし、いいとこどりって感じのグルメ」
いや、金魚……
「見た目はこんなだけれど、おいしいよ?」
ああ、まあ、今まで口にしたものもそうでしたからね。
「いただきます」
僕は恐る恐る金魚(結構デカい)のお腹部分に箸を入れた。
それから身を箸でとる。
白身魚だなぁ……骨、あんまりないし。
身離れいいな。
口に含む。
な?ななななななななんじゃぁ!?
「どう?イケるっしょ」
僕は無言で頷く。
驚いた。
高級な白身魚を食べている感じ。
しっとり、ホクホク。
川魚特有の臭みがない。
むしろ、後味がカニっぽい。
「なんだ~この味を知ってしまったのか~」
ルーダがわざとらしく言う。
「ビジュアルで引いて残しそうだったら狙ってたのにさ」
「ずる~い、私も狙ってたのにっ」
リャナンまで悪ノリして言う。
「目玉のコラーゲン。豚足みたいでおいしいのですよ」
そう言ってエリーゼさんがじゅるりと吸い込む。
うわぁ、銀髪美女が、目玉をすすっている……
ホラーやん。
「女子連中は楽しそうでいいね~」
「ルーダさぁ、ハルにめっちゃ絡むね」
アルセイスとオーレが笑いながら話している。
「ハティ、おひとつどうぞ」
見ると、リムアンがハティさんにお酌をしている。
「やや、これはどうも」
お猪口に清酒が注がれる。
ハティさんはそれをおいしそうに飲み干した。
「くはぁ~いいねぇ、子供にお酌してもらえるなんてさっ、ぼかぁ幸せだぁ」
ハティさん、嬉しそうに言う。
あ、でも、それは言っちゃダメでしょ。
「リム、子供じゃない」
ぷいっとそっぽを向いて自分の席に戻っちゃった。
いい加減、気づきなよ魔人さん。
リムアン、本気なんだってことをさ。
「コレットぉ、おかわりぃ~」
「ダメです。飲みすぎです、先生は」
「ええ~」
コレットとエリーゼさんが揉めだした。
「お魚と言ったら清酒でしょ~足りないわよぉ」
「もうどれだけ飲んだと思ってるんですか。ペース早すぎです」
「マラソンじゃないんですから、ペース配分なんかしないわ」
「そうやってお夕食前、お風呂上がりにエール飲んでましたよね」
うわぁ、ダメな感じ。
「えええ?僕が冷やしていたエール!無いなって思っていたら姉上だったんですか!?」
ハティさんが愕然としている。
「ハティ……メンゴ」
「ひどいいい、あんまりだぁ」
そのやり取りにみんなで吹き出す。
なんか、楽しいなぁ……
◇
こうして夜も更けていく。
僕は男子部屋で布団にもぐり込む。
何かいろいろあったなぁ。
ちょっと疲れたかな。
あ、ちゃんと風呂入って歯も磨いたからなっ!
みなさん、今日も一日、お疲れさまでした。
知らないことばっかりで戸惑うこともあるけれどさ、それを面白がれたら気が楽になるかもね。
それじゃあ、明日からもまた、一緒に頑張りましょうね。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日も1日お疲れ様でした。
そろそろ新生活が始まる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
不安もあると思いますが、「なるようにしかならない」精神で、起こることを面白がってみてはいかがでしょう。
もちろん、毎日代わり映えしないという方も!些細な変化を楽しんで下さい。




