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ハルの新生活特別編 ハルの一日(午前の部)


農家の朝は早い。


日の出前には畑に出る。

ハッキリ言ってお日様より遅いと「寝坊」だ。


だから僕は早起きが習慣になっている。


今日もエルフの集落にあるハティさん家の畑を耕す。


布団を抜け出す。


周りではフェンリルナイトのメンバーが寝息を立てていた。


ん……まて。

コリガン君の髪色がおかしい。


夜は銀髪美少年のはず。

太陽の光に当たると、ぽっちゃり地味メンになる。


と、いうことは今の時間帯は……


そっと布団をめくってみる。


――――うわぁ


見ない方が良かったかなぁ……


僕はそっと離れる。

寝ている他のメンバーを踏みつけないようにしてっと。


物音を立てないようにして廊下を歩くけれど、ギシギシという音が立つ。

あえてこういう造りにしてるんだってさ。


あ~、ティアさま、また徹夜だ。

「薄い本」の執筆してるんだな……


そういや、以前拾った原稿だけれど、まだ僕の手元にある。

どっかに埋葬しようと思ったけれど、掘り返されたらアウトだ。


きっと僕だってバレるだろうから。


「あれ?ないな」ってティアさま探していた。


「まあ、構図が気に食わなかったから良いか」って切り替えてた。


「それよりも筋肉ドーベルマンとポチの『どすこい』カップリングはどうするか」とか不穏なことまで呟いていたのは忘れよう。


玄関で長靴を履いて、鍬を持って……と。


ちなみに「土寄せ棒」の先に鍬の刃を取り付けている。

ほんと、この「棒」は万能だ。


「いってきま~す」



まだ鳥も起きない時間。


静かな紺色の世界を歩く。


この静寂は、僕を落ち着かせる。


もちろん眠いし、もっと寝ていていいよって言われたらそうするだろう。

でも、この静寂を味わうのだって格別なんだ。



舗装されていない道を歩く。


あれ?誰だろう。


風を切る音。


んん?エリーゼさんと……ハティさん?



二人は剣の「型」を繰り返していた。


ゆっくり、ひどくゆっくりと剣を振る。

同じ角度、同じ場所、同じ線を正確になぞるように。



「ハティ、そろそろやりましょうか」


エリーゼさんが言う。


「はい」


そう言ってふたりは木剣を提げて向かい合う。


「祖霊に」


互いに剣を逆手にして目を閉じて礼をとる。


「剣に」


そのまま木剣にも礼をする。


「互いに」


向き直ると、互いに礼をする。


同じタイミング。同じ動作。

この二人は、きっと何十年と同じことを繰り返してきたんだろうな。



正直、僕はふたりを見直してしまった。

ふだんふざけてばかりいるのに、ちゃんとした剣士だ。


剣士の礼式なんて知らないけれど、この二人の所作はとても美しくて、呼吸をするように当たり前に繰り返されて身についたものだとわかる



きれいだな。


なんだろうな、このふたりの所作はそれだけで他を魅了するほどに美しい。


これで、稽古前の礼式なのか。


互いに向き合い、礼をする。


それからゆっくりと構えをとる。

静かな、それでいて緊張感が伝わる。


「では―――」

エリーゼさんが言った。


「行きますよ」

そう言ったのと同時であった。


ハティさんの姿がない。

いや、もうエリーゼさんの目の前にいた。


エリーゼさんが剣で受ける。


はや―――――


今までの旅でエリーゼさんの立ち回りは見てきたつもりだった。


彼女が剣を使うことは少なく、拳か足で相手を打ち伏せていた。

しかも、一瞬の出来事。

速攻による一撃必殺って感じだった。


先手を取られるのは初めてかもしれない。

それから打ち合いが始まる。


正直、手元が見えない。


二人の動きが早すぎて剣跡をたどることができない。


それでも、一瞬競り合いになって動きが止まるときはある。

その姿勢で分かるのは、エリーゼさんが押し込められているようだということ。


少しずつ、ふたりが移動を始める。


曲線的な回り込むような動き。



また動きが止まった。

エリーゼさんが突いたようだけれど、それをハティさんが受け流したように見える。


でも、二刀流の一本を止めても……


って、肘が入ってる。


エリーゼさんに密着するようにハティさんが踏み込んでいた。

同時に剣を流しながら反対の腕を振れないように肘で肩口を抑えている。



そのままエリーゼさんが投げ飛ばされた。



エリーゼさんはすぐに起き上がり、追撃に備える。


なんというか……


「すごい」


言葉が漏れる。


そう、とにかく凄いんだ。


もっとガシガシ打ち合ったり、蹴ったりとかいろいろ荒っぽいのを想像していた。


けれど、木剣を打ち合う音が絶え間なく聞こえるだけ。


時々接触はあっても、なんというか舞っているかのような感じがする。


とんでもなく速い打ち合いなんだろうけれど。


それでも動いて見えないのは二人の体の中心がブレていないからだろう。



また動きが止まった。

今度はエリーゼさんの双剣がハティさんの得物を挟み込むようにして止めている。


くるっと回して跳ね上げる。


両腕が上がる。

ハティさんの胴ががら空きだ。


エリーゼさんが過たずに胴を払うだろう。


と、思ったが違った。



スンッって音が聞こえる。



風が吹いた。



―――――エリーゼさんは動けていない。


剣を交差させ、受けるのか斬るのか分からない中途の動作で止まっていた。


そして、ハティさんの得物がエルザさんの肩で止まっている。



ふたりが息を吐いた。

スッと距離をとって互いに礼をする。


「ハル。おはよう」

「あら、ハル。今日も早起きね、おはよう」


「おはようございます」


ふたりの挨拶に僕も応じる。


「すごいですね」


素直な感想。


「ん?あっ、あはははは、ありがとう」

ハティさんが照れて笑う。


「でしょう?今度ハルにも教えてあげますからね」

エリーゼさんが自慢げに言う。


「ハルはこれから農作業なの?」

エリーゼさんの問いに僕は頷く。


「朝ごはんできたら呼びに行きますから。でも、頑張りすぎちゃダメよ」


そう言ってくれる。


「はい」


僕は嬉しくなって元気よく返事をした。



「「いってらっしゃい」」



ふたりが手を振ってくれる。

僕はそれに応じて畑へと向かった。


自然と足早になる。

なんか、いいな……



僕は鍬を振るって畑を耕す。


種芋を植えるための畝も作らないと。


ふたりの稽古に見入って、ちょっと時間をロスしたかな……


次第に山間から日が昇ってくる。


鳥の鳴き声。


僕は手を止めて登りくる太陽を見た。


自然と思うことは……


みんなが元気に過ごせますように。



「ロッシェ、ごはんだよ」


アンジェさんが迎えに来てくれる。


「は~い」


僕は作業の手を止めて返事をする。


彼女は僕のファミリーネームの「ロッシェ」で呼ぶ。

僕のご先祖さまにこの「棒」をくれた人。

そして、千年以上生きる「ハイエルフ」。


「ロッシェ」というのも彼女が呼び始めたのだそう。


僕たちは家に戻る。


「ロッシェ、ちゃんと水分補給してる?」


「してますよ」


「お腹空かない?軽食とか用意しておこうか?」


「大丈夫ですよ。あんまり食べちゃうと、朝ごはんの楽しみも減っちゃうし」


かなり気にかけてくれる。

うん、オカン属性だ。

見た目は10代前半の幼女なのに。



「ただいま~」


僕は玄関の戸を開ける。


靴を脱いで、上がり框に上がって……


「手洗い、うがいしてから居間に来てね」


「は~い」

うん。オカンだ。


僕は金色のツインテールを見送りながら思った。


洗面所で済まそうかな……


途中、リムアンとすれ違う。


「リム、おはよう」


「おは…やう、ござますぅ……」

寝癖頭でお辞儀をしてくれる。


やっぱり朝弱いんだね。



「お疲れ~」


フィンレーたちが出迎えてくれる。


彼らだって何もしていないわけじゃない。

起きたら布団を上げて片付けや掃除をしている。


「兄貴たち、そこどけて」


ルーダがお盆を持ってくる。


「へ~い」


気のない返事をしながらフィンたちが場所を開ける。


続いてリャナンたちが来てテーブルの上に朝食が並ぶ。



おお、今朝も豪華ですな~


・白飯(僕はここに来て初めて食べた)

・ジャガイモとエンドウ豆の味噌汁(味噌汁もここで初めて)

・焼き鮭

・山菜のお浸し

・トレントの根っこのきんぴら

・マンドラゴラの浅漬け



―――――ん?後半二つ……


「どうした、ハル?」


配膳を手伝っていたスヴェンが聞いてくる。


「いや、この『きんぴら』と『浅漬け』ってさ……」


「あっ、リムっ、しっかり持てっ、ふらふらしてると落すぞ」


半分寝ているリムアンを注意する。


「あ、悪い。何だった?」


「うん。『きんぴら』と『浅漬け』の材料――――」


「おい、リャナン、つまみ食いするな。減ったのはお前の分な!」


皿から「浅漬け」を摘んで口に放り込むリャナン。

それをスヴェンが注意する。


「うまうま~」


黒髪の美少女が逃げるように去っていく。


「ったく……あ~ごめん。材料がどうした?」


「なんでもない。大丈夫そうなんで」


「そっか」



みんな揃っての朝食。


『いただきま~す』


手を合わせてから箸をとる。

だいぶ、箸の使い方にも慣れたなぁ~


大ぶりな焼き鮭の切り身をほぐして口に運ぶ。

あら、ほんのり脂が広がりつつもくどくなくて、ほろほろに解ける。

塩加減もいい感じ。

最強のご飯のお供ですな。


僕は白飯を掻き込む。


そして、僕特製のジャガイモさんとエンドウ豆の味噌汁。

うむ。滋味深い。

早朝の畑仕事で疲れた体に染みわたりますな。

エンドウ豆の優しい爽やかさがアクセントですね。


さて、問題の「きんぴら」さんは。


ほほう。

自走する樹木の「トレント」さんの根っこだけあって歯ごたえと弾力がありますな。

コリコリと歯切れが良いながら、噛めば噛むほど味が出てくる。

ゴボウとかいう根っこを食べる植物と似ているね。


そして、一番の懸念材料「浅漬け」。

リャナンがつまみ食いしていたので安全だとは思うけれど。


ぱりっ、ポリっ……


ちょっと甘いながらに酸味もある「蕪」ですな。


ティアさま~、なんで浅漬けと微笑み合ってるのですか?


テーブルの向こうでマンドラゴラの浅漬けを見詰めているティアさま。


徹夜明けっぽい。


眼の下にクマまでつくっている。

そして、箸で持ち上げた…マンドラゴラの顔部分を凝視する。


ええ?顔部分、今笑った!?

生きてるの?


ああ!ためらいもなく頭から齧りついた。


それはもう、気持ちのいいくらいにボリボリ音を立てている。



……

………


大変、おいしゅうございました。


「ごちそうさまでした」



「ハルは、また畑に行くのか?」


「うん。午前中に作業終わらせないと」


「そっか」


「フィンたちはどうするの?」


「まあ、それぞれだよな。生産職組はお勉強とか、冒険者組は訓練とか」


「へぇ」

そういえば、コレットも魔術(神聖魔術なので「法術」)を習っている。

エガちゃんに襲われたときも、守ってくれたのは彼女の「イージス(盾)」だった。


「みんな、がんばるなぁ」


あ、もちろん君たちもだよ!


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