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第104話 暗殺者(アサシン)の襲撃と魔女の国王恐喝。おしめ替えが狂犬の命を救う?


アンジェから教えてもらった魔術の解除法を使う。


屋敷の結界に一時的な穴をあける。


完全に解除すると気づかれるので、一瞬の不具合か揺らぎを起こすのが良いという。

この一瞬の早業と、【気配殺し】を併用して侵入する。


敷地に入ると、あとは人の目だ。


警備は案外くらますことは簡単である。

獣の方が鼻や耳が良い分よほど油断ならない。


問題は、クラフト卿がグリーブス(軍靴)と呼ばれる所以。

諜報機関とつながりを持つ人物であるという事。


すなわち、スカウト(盗賊職)を多く使っているということだ。



――――――何名か潜んでいる。


これは、除かないといけない。


それぞれを排除する。

他の者に悟られないように。



ようやく、クラフト卿の私室にある階へとたどり着いた。


外壁を伝い、窓から様子をうかがう。


――――――クラフト卿がいる。


執務に励んでいるようだが、時折ドアをうかがう様子を見せる。


おそらく、今日届くはずの文を待っているのだ。

ならば、と建物の中に侵入する。


暫くしてメイドが飲み物を運んでくる。


一度給仕が終わればしばらくは近づかないと思う。

だが、ことがことだけに保険はかけておこう。


眠り薬の香を焚く。


吸い込めば、一時間くらい寝てくれるだろう。


香が広がるまで時間がかかる。

給仕を終えるころには広がるだろう―――――



メイドがドアをノックし、入室を乞う。

開けて入るとき、【隠形】を使い、天井から侵入する。


無駄に大きい扉だから視界から外れてくれてありがたい。



メイドが退室したのを見届け、物陰で様子をみる。


気づかれれば即座に始末できる位置にとる。


近接もできるだろうが、主に弓兵である彼に距離をとるのは愚策だろう。


――――クラフト卿は気づいていない。


ふと、席を立ち、机から箱を取り出した。


厳重な封印を解除し、一通のスクロールを取り出す。

そして、地図と並べて確認を始める。



―――――その時、3人のサインが見えた。



封をされる前に奪取すべきである。



決断からは早かった。



すぐに迫ると、利き腕を斬り落とす。


返す剣で足を、次いで利き腕とは反対の脇を斬る。


――――――これで両腕は使えず、逃亡もできない。


声を出そうとしたので喉を打つ。

ゲッといううめき声を発して倒れる。


スクロールの中身を間違いがないか確認し、回収する。


……これでいい。


あとは、裏付けだ。


証拠もあるので手身近に。

何もなくても始末をつけなくてはならない。


クラフト卿の剣を奪うと、意識を戻す。


「……」


咳き込み、状況をうかがおうとしたところで声をかける。


「そのまま、動くな。声を発するな。怪しいそぶりはすべて命を縮めると思え」

「……」


「質問にのみ答えろ。わかったら一度だけ頷け」

これに素直に応じた。


「なぜ、マクスウェルを狙った」

この問いに、クラフトは少し思い当たる節があったのか。


「お前はマクスウェル家の者か?」

「聞いているのはこちらだ。次に質問をしたら命はない」


「お前たちに頼まれたのだよ」

「それだけか。見返りは何だ」


「領地と資源の採掘権の割譲だ」

なるほど。嘘はないようだ。


「あの魔女を使ったのは?」

この呼び方はしたくなかった。

だが、言い方によっては分かってしまう。ここは我慢だ。


「あの魔女ならばなんだってあり得ると納得するからだ。何百年と王領に居座って、王の寝所に侍る魔女」

寝所に……侍るだと?


「王族の血を、精をすする醜い化け物だ。しかも何代にもわたって。幼い子供のように装っていても、しょせんは亜人。価値観が違う」

この男、生かしておく必要はない。


「なるほど。マクスウェルの家の者にそそのかされたか。トリスタンは明日をも知れぬ。後継ぎがいなくなれば、その者の手に家は渡り、お前は利を得る、と」

「そうだ。……お前は何者だ?」


クラフトが再度問うてきた。

僕に迷いはない。


「違えたな」


そう言って一刺し。


「っ!?」


心臓を抉る。

死を確かめるためだ。


……時間をかけすぎた。


もう少しすれば薬の効果も切れるだろう。


僕はクラフト卿の屋敷を後にした。


その足でマクスウェル領に向かう。



夜が明けるころにはマクスウェル家の邸宅に着いた。


門番に挨拶をし、開けるように指示する。

察しが良い門番で良かった。

すぐに開門してくれた。


屋敷までは息を整えながらも足早に進む。



「ハティ?」

姉上の声がする。


「どうしたのです?」

姉上が駆けてくる。

どうやら朝の鍛錬をなさっていたのか。少し汗ばんでいる。


「っ!?」

急に険しい顔をする。


「あなた、人を斬りましたね」


血の匂いがしたか。


「こちらに来なさい」

納屋まで引っ張っていかれる。


幼い頃に密談に使っていた秘密基地だ。

しばらく使っていないが、納屋の下に潜めるだけの空間がある。



「何があったのです?誰かにいじわるでもされましたか?」


「そのような子供ではありません」

言うと、スクロールを渡す。


姉上は受け取り、内容に目を通す。


「あなた、これを……」


驚いた顔でこちらを見る姉上に、僕は無言で頷く。


「私は、すぐにでも伯父上の首をとりにいくつもりです」


手身近に伝え、納屋を後にしようとした。

だが、姉上に止められる。


「これは、クラフト卿から奪ったのですね。なんと無茶なことを。それでは人に知れるのも時間の問題。伯父上は拘束します。尋問をして、そのうえで処分を検討しましょう」


言うと、僕の頭を抱え、胸に抱く。


「ああ、ハティ…ほんとうに、なんて無茶なことをしたのです。姉は、姉はあなたがぶじならそれで良いのですよ」


「姉上、すみません」


「いえ、あなたが私を思ってくれてのことです」

そう言うと、体を離して目を見返してくる。


「あなたの苦労を無駄にしません。伯父上は逃がしません。まずは、捕らえるまでここに潜んでいなさい」


そう言うが早いか、納屋から飛び出していく。



しばらくして伯父上は拘束された。


父上、母上、姉上、私の前に引き出され、詰問された。


初めは兄妹である母上は同席させるつもりはなかったのだが、母上は強情だった。


伯父は最初こそ否定していたが、証拠物を見せると観念し、白状した。


そして、姉上を口汚く罵った。


――――――気づいた時には僕は、伯父上を斬っていた。


父上も母上も、姉上も泣いていた。


僕は母上に深く、深く謝罪をした。

僕を赦さず、憎んでもよいといった。


だが、母は礼を述べてくれた。



翌日、僕を残して姉上と父上は王領へと発った。


こればかりは現当主である父上が行かなくてはならない。

本件を王の前で説明しなくてはならないのだ。


もちろん、家内の問題が発端ではあった。

しかし、二人の領主の加担とそのうちの一人が死んだことについては始末をつけないといけない。



屋敷に残された僕は、幼い頃に過ごした私室でしばらくの休息をした。


母は気遣ってくれ、ゆっくりと過ごすことができた。


一週間はマクスウェル領で過ごした。


これだけの大事だ。

簡単に結論が出るものではないだろう。


僕は自分が処刑されるだろうことを覚悟していた。


僕がしたのは貴族殺しだ。

戦争や決闘とはわけが違う。


通常、貴族殺しは死罪。


ならば、二人殺しているし、邸宅で何人も殺している。


いくら父上や姉上が弁護してくれても死罪は免れまい。


死ぬ前に穏やかに過ごせるのはありがたかった。

でも、最期に一度アンジェに会いたかった。



そんなふうに思っていたが、「無罪」となった。


父上、姉上、ガレス卿、そしてアンジェが王を説得したというのだ。


いや、きっと脅迫したんじゃないかな。

アンジェのことだから。


「アンタのおしめ替えてあげたこともあるのよ」

「おねしょしたのこっそり始末してあげたわよね?」

「燃やすわよ(国を)」


とか何とか言いそう。



ウォーロック卿は国外追放となった。


そして、この件はすぐに世の人の知ることとなった。


人の口に戸は建てられないという。

けれど、むしろ尾ひれがつくとはこのことであった。


確かにクラフト卿と伯父上を殺したのは僕だ。

それを、姉上を侮辱したから斬ったというところだけが誇張された。


家のことを、姉上を……アンジェを思ってのことだから後悔はない。


それでも怖れや嫌悪の情でまた見られ続けるのはいい気分ではない。


しばらくして、僕は王領に戻ることとなった。



ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日も1日お疲れ様でした。

いろいろ大変なことが多いですが、頑張れていますか?

とにもかくにも、今日1日を過ごしたあなたはヴィクトリ-!です。


明日の投稿は「番外編 ハルの春の新生活特別編」です。

農家としては遅い「5:00」と「12:00」となります。

ある意味飯テロ回となりますので、献立のイメージをされながら是非ともご覧ください。

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