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第103話 犠牲にしてきた男。マクスウェルの「恥さらし」の暗躍。


「姉上……」


ハティが声をかける。


「……なんですか」


不機嫌そうなエリーゼ。


困ったようにハティが笑う。


「痛かったですね。彼の言葉」


ハティの言葉にエリーゼが顔を背ける。


「ガレットも上手い言い方をするものです。ジャガーノート(不可抗力の破壊者)などと」


ハティの苦笑。

それにつられ、拗ねたようにエリーゼが呟いた。


「あんなの、フリードに怒られて以来です」


それを聞いてハティ頷いた。


「ハルは不思議な子ですね。僕たちよりも年下で、力もない。それなのに『流転の悪魔』としてしっかりと干渉してくる」


「ホント、困った子よ」


ハティの言葉に応じるエリーゼ。

耳が少し赤くなっている。


「ふふふっ、姉上は本当にこういうことに弱いんですね」


笑うハティを横目で見て、エリーゼも安堵のため息をつく。

(人をからかえるくらいの元気は出たのですね)


「さて、それでは僕はコレットたちを迎えに行きますね」


ハティが伸びをする。


「行くのですか?場所はわかるのですか?」


「コレットの場所はわかりませんが、ハルの場所はわかります」


「ああ」


フェンリルナイトの団員証。

そのアミュレットには、ハティの「銀の右腕」の魔力が分け与えられている。


つまり、同じ波長の魔力を追えば良いのだ。

……見守り用GPSみたいなもの。


「今回は僕のいたらなさが原因です。僕がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかった」


「姉上まで僕のせいで悪者になってしまった」


「申し訳ございません」


ハティの謝罪にエリーゼが眉を顰める。


「また、無茶をするんじゃないでしょうね?」


「さぁて、どうでしょうか」


「あなたが『クラフト卿』を殺害した時は肝を潰しました」


「姉上でも肝を潰すことがあるのですか?」


「ありますとも。家族のことですから」


その言葉に、ハティが困った顔をする。


「そうですよ。『家族のため』です」


エリーゼがハティの顔を見上げる。


「僕は母上を救えなかった。何もできなかった。だから、せめて今の『家族』には幸せになって欲しい」


月光に照らされた彼の瞳が濡れている。


「弱い自分にけじめをつける。『家族に手を出す者』に容赦はしない」


表情の消えた顔。


ああ、あの時の―――――




(僕のことなどどうでもいい。僕のむくろの前で、褒めてくれるのなら――)


彼は回想する。


過去起こした己の惨劇を。




僕は元の名前を捨て、ハティ・マクスウェルとして生きていくと決めた。


僕は、守れなかった母上へのお詫びをして生きたいと願う。


母上が望んだ「武士」としての生きざま。

守れなかった「家族」を今度は守るのだと。



「ある事件」が起きたことで、マクスウェル家……というより、姉上が大変なことになっていた。


神殿が爆破され、姉上の恋人が「行方不明」となった事件。


姉上の動揺は計り知れないほどだった。



僕はマクスウェルの家にできるだけ顔を出すようにした。


姉上の様子が気がかりだ。

父上や母上、みんなのことも心配だった。


姉上は少しずつではあるが元気を取り戻していった。


姉上が帰るとやたらベタベタしてきて、甘えてくるのには困った。


王都に戻ったら戻ったでアンジェが不機嫌そうに舌打ちする。


「女のにおいがする……チィッ、エリーゼめ」


そんな感じで月日を過ごした。

依然、僕のやることは変わらない。


研鑽を積み、名を立て身を立てるために励む。


こんな自分を信頼してくれる人のために、力になれるようになるのだと。


王直下の騎士団として、ガレス卿のもとで剣を振るった。

戦で戦功をあげることも増えた。


そんなときである。


ある噂を耳にした。


宮廷魔術師、アンジェ・フラン・スカーレットが姉上、エリーゼ・カナン・マクスウェルを呪っているというものだ。


僕としては一笑にふすしかない内容である。


「あの時」のケンカを聞き知った者が変に煽っているのだろうが見当違いである。


確かに何かと衝突することがある二人であるが、本気ではない。

それは長年ふたりを見てきた僕だからこそ言えるものだ。


だいたい、このふたりの気性では、やるならば正面からやりあう。

こそこそと裏で策を弄するのが嫌いなのだ。


だが、人々はこの噂を信じ、まことしやかに広めていた。

実に腹立たしい。




姉上が訪ねてきた。


噂について聞いてみた。


「は?何をバカな。あの魔女が私を?」


「私はあの魔女のことは好きではありませんが、嫌いでもありません」


「呪うくらいなら、白昼堂々と私を丸焼きにしに来るくらいの気骨がある女性です。父上の病を好機として、私とあの魔女の失脚を狙っている者の仕業でしょう」


姉上は、やはり気にしていないようであった。


「むしろ、気に入りませんね。こんな陰険な嫌がらせ、恥ずべきことです」

そう言った後、


「……アンジェはどうしてますか?」

不意に姉上が聞いてきた。


「え?なぜ、僕に」

「仲が良いでしょう。表向きはああでも、気に病んでいるはずです。あなたが気にかけてあげてください」


実に、姉上は姉上であった。



数日後、アンジェの元を警備のふりをして訪ねた。


アンジェはひどく驚いた様子だった。

「ハティ、なんで?王領ではできるだけ接点をもたないようにって」


軍議や晩餐会などで散々からんできた人の言葉とは思えない。


しかし、そのようなことは些末なことだ。


「心配で……」

この言葉にアンジェは暗い表情を隠せないでいた。


「あの、噂よね?」

「うん」


「まさか、信じてないよね」

「そんなわけない。アンジェがどんな人か、僕が一番知ってる」

声を荒げてしまった。


これにはアンジェも驚いたようであったが、すぐに小さく笑った。


「ふふっ、一番か」


「うん、一番知ってるつもりだよ?」

「そう。ありがとう」


「姉上が心配していた。姉上もアンジェのことを信じている」

「エリーゼも、ねぇ。ほんとアンタたち姉弟は良い子よ」


「その言い方は感心しないな」

「うん?」


「『良い子』ってのは、その、子供を見るみたいで……」

少し拗ねてしまった。

確かに頼りないとは思うが。


だが、アンジェの方は華やいだ笑顔を浮かべた。


「そうね。ごめん、ハティっ」


そう言って「立派な男の人だもんね~」とにやけた顔で近づいてきた。


「そんなハティ君に、元気、もらいたいなぁ~」


彼女は前に立つと、ちょっと伸びをしながら頤を反らせ、自分で唇を指さす。


「う…」


僕はこのお誘いを断ることはできなかった。



自室で考えてみた。


アンジェと姉上が普段から口論をしているのを知っている人物。


アンジェが失脚することで利がある人物。


姉上が居なくなることで利がある人物。


もちろん、姉上に関連して体調の思わしくない父上もいなくなることを見越しているわけだから、マクスウェルの家や領地も視野に入れている可能性もある。


姉上が死んで、その罪はアンジェに擦り付けてしまえばいいという筋書き。



優先順位でもっとも高いのは「姉上の死」であろう。


とにかく我々には敵が多い。

そのせいで、疑わしい者も多い。


情報が必要だ。


大切なふたりのためだ。


唇を指でそっとなぞる。


……あの子を傷つけるのを赦せない。


しかし、こうも色仕掛けに弱いとは。

喜んで自らかかっているのだから始末が悪い。


さて、ここはひとつ。

騎士、ハティ・マクスウェルから、「信繁」に戻ろう。


風間……いや、「風魔」よ。

お前に教わった「天狗」の技が役立つことになるとは思わなかったぞ。



「ハティ」

ガレス卿から声をかけられる。


「はい。いかがされましたか」

仕事の話だろうか。


「最近、王都で盗賊が出ているのは知っているか」

「ええ」


「どうやら本腰を入れて捜査にのりだすことになりそうだ」

「そうですか。忙しくなりますね」


「まったくだ。しかし……」

ガレス卿が首をひねる。


「どうかされましたか?」

「いや、金品に興味がない賊というのも妙でな。貴族の屋敷に忍び込んで、書簡など物色するだけで何も盗らないとは」


「確かにそうですね」


「どう思う?」


「帝国側のスパイとかでしょうか?」

「ほう」


「金品ではなく、書簡狙いでしたら情報が欲しいのでは?」

「うむ。その可能性もあるな。探ってみよう」



貴族の邸宅に何件か潜入し、文書を集めた。


そこで分かってきたのは、三名の人物のつながり。


主犯はクラフト卿。


共謀者にウォーロック卿。


そして、依頼したのはマクスウェル家でも小領主筆頭。伯父セドリック。

クレア母さまの兄か。


しかし、王より領地を拝受し、王国騎士団の一角を預けられた二人が加担するとは。


騎士団長を務めている二人は特に難敵である。


神聖騎士として【蒼雷の装束アズール・ガルブ】の呼称を得るウォーロック卿。


弓兵として【零式千里眼タイプ・ゼロ・サイト】と称されるクラフト卿。


彼らの力とは僕は相性が悪い。


騎士団長だけあって相当な力の持ち主だ。


伯父上だってマクスウェルに列席するだけあって他家には劣らない強さだ。


そして何より、この三人は僕などよりも策謀に秀でている。


ウォーロック卿などこのようなずさんな計画には加担しないと思っていた。

が、遂行に足るものがあるからこそなのだろう。


いずれにしても証拠が必要だ。


それぞれの署名がある文書があれば、良いが。



王城警備の任の傍ら、三名の動きを探った。


ようやく、クラフト卿の元へマクスウェル家から使いが発せられたことを掴んだ。


おそらく伯父からの文書だ。


そして、クラフト卿のことだから文書はすぐに始末するだろう。


早晩、クラフト卿の邸宅に使いが到着する前に捕らえた。


文を奪って中身を確認すると、伯父からクラフト卿への手紙であった。

内容も申し分がない。


封印は解いてしまったのだから、このまま届けるわけにもいかないだろう。


しかし、この「領地と採掘権の割譲」。


後に互いの主張が食い違わないように署名を取り交わしたものが残っているはず。


仕方ない。


すぐにでも向かうべきか――――――

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