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第101話 救いの御手は……ちょっと後退ぎみ?


「コレットが家出!?」


夜が明けて騒然となった。

「うん。リム姉と寝てたと思ったんだけれど……」


今もリムアンは夢の中。

一緒に寝ていて気付かないとは……


「書置きがあったんだ」


ルーダがみんなに紙を見せる。



――ごめんなさい。

  悪い子はいなくなります。

  だから、探さないでください。


          コレット・オルレア



本当だ。

コレットの字。


「どどど、どうしようぅ。僕のせいだぁぁ」

ハティさんがうろたえる。

ちょい、過呼吸気味。

この人、大丈夫なの?


「大丈夫でしょ」

エリーゼさんがすかさず言う。


「お腹が空いたら帰ってきますよ」

冷たい言葉。


僕は、これに腹が立った。


いくらエリーゼさんでも、それはない。

僕たちに「いるだけでいい」って言ってくれた人の言葉だと認めたくない。


「それ、なんなんですか?」


思わず口をついて出た。

自分でも驚くくらいの声色。


みんなが僕を見る。


「アンタらが冷たくあたるから、いなくなったんだろ」


「追い出すような真似をしたのはアンタらだ」


僕はあの、優しくて、僕とコレットを受け入れてくれた人たちが、今はこんなになっているのが許せなかった。


「アンタらさ、『マクスウェル家 家訓』とか言ってるけど、本当にわかって言ってるのかよ!」


「ひとつ、お前は誰だ?そんなの決めるのお前だけ。誰も責任とっちゃくれない」


僕は叫んでいた。


「ひとつ、迷ったら自分の中の鏡に向かって聞いてみろ。そこに映った自分は誇れるのか」


「ひとつ、仲間を侮辱する奴はぶん殴っても構わない。けれど殴り返されることを忘れるな」


続けて叫ぶ。


「僕は今のアンタらをぶん殴ってやりたい」


「でも、コレットを探すのが優先だ」


「帰ってきたら覚悟しろよ!それまでの間、今のアンタらが『自分自身を誇れるか』ちゃんと考えておけよ!」


そう捨て台詞を吐いて家を飛び出した。

愛用の「土寄せ棒」改め「神樹の枝(毛)」を持って。



「ひぃぃぃぃ」


私は悲鳴を上げて走った。


森を歩いて一時間も経たないうちに巨大生物が襲ってきた。


この生物、体が大きいだけで「魔獣」じゃない!?


私の『眼』の索敵にあまりひっかからない。


もっと、能力の解像度をあげないと……今となっては遅いけれど。


とにかく走った。

走って、走って、植物の下とか姿をくらませられそうな場所、相手が走りづらそうな場所を通った。


バキバキバキバキ……


なに!?ぐらっぷらー……じゃなくてダンプカー!?

遮蔽物全部薙ぎ倒してその巨大生物は追ってきた。


「ぎぃやぁぁぁぁぁ」


私は普段出さないような声を上げて走った。


なにか、なにかなかったッ!?


マジックバッグを漁る。


食料、水筒、お菓子、野営セットとお洋服、毛布……


そして、「薄い本」―――――


ダメだっこりゃぁ!


私を追ってきている巨大生物は爬虫類が二足歩行しているような感じの見た目。

顎がしゃくれているので、仮に「シャクレックス」と呼ぼう。


「シャ~シュシャシュゥシャ~」

鳴き声もしゃくれているからなんていってるか、ちょっとわかんない。


「あっ!?」

足をとられる。


えええええええ!?嘘でしょぉぉっ!



シャクレックスがなんと、首から8本の触手を出している。

そして、その一本が私の足首に巻きついていた。


おかしい、おかしい!エルフの森の生態系っておかしい。


普通さ、首がいっぱいの「ヒュドラ」とかじゃないの?

なんで、爬虫類が触手なのよ!


嫌っっ!やめてッ!「美少女」に「触手」なんて18禁の内容よっ!

誰かさんに怒られるわっ!


早くひっこめなさいよ!


そんな私の抗議が届いたのか、シャクレックスが私を引き寄せる。


ズザザザザザザ


あいたたたたたたっ、あっ痛ぁっ!


引きずるなぁぁっ!

ひっこめろって言ったけど、ひきずるなぁぁぁ。


ここは釣り上げて、私が「きゃー」とか言いながらスカート押さえるところでしょ!

なんで、お約束とかセオリー無視するのよ!


私を引き寄せながら、待ち構えるシャクレックスが口を開ける。


ヤバいっ!ポテチ口に放り込むみたいに食べる気なんだ。


――――ハルのポテチ、死ぬ前に食べたかったなぁ


せめて、一思いにがぶりとやってください。


私は覚悟を決めて目を瞑った。


え~、出会いは別れの始まりと申します。

みなさんに出会えたことは、私の人生の中でも幸せであったと思います。

今日、私は新たな旅路へと出発いたしますが、どうか皆さんはお体を大事にしてください。


ごめんね、ハティお兄ちゃん。エリーゼお姉ちゃん。みんな……


ヒュッ!


風を切る音がする。



地面を引きずられるのが止まった。

私はまだシャクレックスに食べられていない。


「無事かっ!」


若い男性の声。


私は瞑っていた目を開ける。

駆け寄って来る男性。


誰?もしかして、「王子様」?みんなが助けに来―――――


「害獣め、この『必中の猟師』。ランドルフ・エッガーが退治してくれる」


一難去ってまた一難。


「食らえ、【瞬刻十箭しゅんこくじっせん】!」

矢を番える動きすら見えない。

瞬く間に十本の矢が放たれる。


彼がいつも使う「重力の矢」ではない。


だが、その威力はまるで砲弾だ。

シャクレックスは瞬く間に穴をあけられて地面に倒れた。


地面に転がっている私を見る。


「大丈夫か?」

少し険のある顔立ち。

けれども、目鼻立ちは整っていて美形ともいえる。


痩身で背が高い彼は、手を差し伸べる。


風が吹く。


その燃えるような赤毛を風がさらう。


……ちょっと生え際、後退しかけてないかな?


「あ、ありがとうございます」

私はお礼を言って彼の手をとる。


「お前、どこかで見たことがあるな」

「あ、いえ。きっと人違いではないかと。私みたいなのはその辺どこにでもあるような顔ですから」


「ん~」

エガちゃんが私の顔を眺めながら首をかしげる。


「まぁ、いいか」


ほっとした。


「お前はエルフじゃないな。ならば行商人か何かか?護衛もつけていないようだ。はぐれたのか」


「いえ、そういうわけではないん…ですけど……」


「俺は『猟師』ではあるが、『騎士』でもある。共和国の民を守るのが俺の役目だ。遠慮するな」

気さくに声をかけてくる。


「どこか近くの集落に送り届けよう」


そう言ってふと考え込む。


「確かここからだと『ユー・ツリー・ビレッジ』が近かったな―――」

「やだっ!」


私は叫んでいた。

「ん?何かあったのか?」


あ……しまった。


「え、エルフって怖いので……できれば人間のいるところに」


「ああ、そうか。確かに奴らはおかしなのも多いし、人間を差別する者もいるそうだからな」

エガちゃんって、いい人なんだな……


「ならば、仕方あるまい。共和国本営に連れて行ってやろう。そこなら安心だ」


―――――ふぇ?


ええええええええ、もっと状況が悪くなったぁ!?


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