第100話 暗い布団の中の……切ない「告白」
エルフの集落の別荘こと、ハティさんの家は今、とんでもない雰囲気だ。
コレットがしでかしたことが原因で、今は非常にいたたまれない感じ。
コレットは部屋でふさぎ込んでいる。
コレット自身、ハティさんを無自覚に傷つけてしまったことを悔いている。
そう、罪の意識にさいなまれているんだ。
フェンリルナイトのみんなもコレットに冷たい。
意地悪をするわけじゃないけれど、距離を置いて関わらないようにしている。
ティアさまはコレットを慰めている。
ジャンヌさんも一緒。
アンジェさんは「オマエ、足先から炙り殺してやろうか」と脅してきた。
「闇(病み)」全開。
そして、問題はエリーゼさん。
あれだけコレットを可愛がっていたのに……
「近寄るな」と敵意をむき出しにしている。
僕はどうしていいかわからない。
◇
「いやぁ~、まいったねぇ、恥ずかしいところを見せちゃったなぁ」
ハティさんは一晩で回復した。
というのは真っ赤な嘘。
笑いながらもまだ何かに怯えているような感じがする。
「みんなも、そんな怖い顔しないでよ。コレットだってわざとやったわけじゃないんだからさ」
そう言ってコレットのところに行こうとする。
でも、それをエリーゼさんとアンジェさんが止める。
「会ってどうするのです?」
「それは『気にしないで』って言うのですよ」
エリーゼさんの問いにハティさんが答える。
「そんな顔で言っても追い詰めるだけよ」
アンジェさんが言う。
「ハティ、アンタ、今自分がどんな顔してるかわかってるの?」
そっとアンジェさんがハティさんの頬に触れる。
「ダメよ。『無理してます』っていってるようなものじゃない」
ハティさんをめぐっていがみ合う二人。
だけれど、こういう時は大切な人のことを第一にしている。
「ハティ……」
コレットのいる部屋からティアさまが出てきた。
とても心配している顔。
「その、大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
ティアさまがきゅっと唇を噛んだ。
涙がこぼれる。
「すまない。私は何もしてあげられない」
普段は中二病全開なのに、こんな時は女の子している。
「あ、あの……」
襖が開いてコレットが顔をのぞかせる。
途端に空気が張り詰めた。
いや、違う。
ここだけ極寒になったような冷たさ。
原因はこの二人。
エリーゼさんとアンジェさん。
コレットは歯の根が合わず、歯をカタカタと震わせる。
冷たい目。
静かで重く、殺意に満ちた……敵を見る目だ。
「ふたりともやめてくれ」
ハティさんの声。
「でないと、僕は『自分』を許せなくなる」
追い詰められたような声。
小さく震えている。
我に返ったふたりはそのまま踵を返していなくなってしまった。
「あ……と、コレット」
ハティさんが力なく笑う。
「ごめんね」
そう言った。
―――――コレットは声を上げて泣き出した。
◇
私が「視た」のは、ハティさんの昔の姿。
やせ細っていて、でも女の子みたいにかわいい顔をしていた。
いつも「気持ち悪い」「死ね」と怒鳴られていて石を投げつけられていた。
大人の人に捕まって、殴られたり蹴られたりしていた。
抱き着いた瞬間。
私は体がとても熱くて痛かった。
それはハティさんの心の声が視せた錯覚。
煮えたぎったお湯と松明が投げつけられた。
とっさに逃げようとしたハティさんの背を焼いた。
その後、騎士のような人たちが来て、逃げるハティさんに火がついた矢を射ってきた。
何本かが刺さってとても痛い。
でも、「殺される」と思ったハティさんは必死に逃げた。
怖い、痛い、それ以上に悲しい。
そして――――――――「憎い」。
あんなに優しくて、小さな子に甘くて、だらしなく笑う人の奥底にあるもの。
私は彼の心の傷に触れてしまった。
けして癒えることのない「傷」に。
「憎しみ」に。
人の心の声が「視える」ことに慢心していた。
気味悪がられていたあの頃に戻ってしまった。
私はなにも学んでいなかった。
反省したつもりになっていた。
お姉ちゃんとお兄ちゃんが受け入れてくれたからって、いい気になっていたんだ。
◇
ろくにご飯が喉を通らない。
みんなは距離をとっているけれど、ティアさまは違った。
「食べなさい」と言って私の分を持ってきてくれる。
もとはお姉ちゃんやアンジェさんが用意してくれたもの。
ふたりだって意地悪じゃない。
ちゃんと私の分も用意してくれている。
でも、ふたりに合わせる顔がない。
なによりも、「お兄ちゃん」を傷つけてしまった……
私は、なんで、なんてっ、バカなことをしたんだろう。
知っていたつもりだった。
気づいていたつもりだった。
ハティお兄ちゃんはいつも「他の人のため」に頑張っていた。
それは、自分の存在価値を「他の人が認めてくれる」ことに見つけようとしていたから。
子供を助ける時、いつも「ありがとう」って言っていた。
助けておいて「ありがとう」って。
それは自分への贖罪だったんだ。
なにもできなかった「幼かった自分」を他の子に映して救いたかったからなんだって。
◇
暗い部屋の中、私は布団の中で丸まっていた。
ゴソゴソと中に入ってくる人がいる。
私と同じくらいの大きさの人。
「コレット……」
そう言って手を握ってくる。
「返事、しなくていい。黙って聞いて」
そう暗い布団の中で言う。
「リムも、昔、バカなことをしてハティを傷つけた」
静かな声。
「リムは後悔した」
ちょっと震えている。
「リムは、初めて他の人のこと。男の人を『好き』になった」
切ない告白。
「バカなリムはハティが差し伸べてくれた手を払ったの」
それから、ちょっとした間。
「だから、リムは決めたの。もう一度あの人の手をとるまであきらめない。あの人が、本当に『私』を抱きしめてくれる日まで、絶対に」
それからちょっとだけ鼻声で言った。
「リムの愛した人は、とんでもなくお人よし。だから、『ごめんなさい』ってちゃんと謝ったら許してくれる」
そうして、私を抱いた。
「コレットの『好きな人』も、絶対にあなたのことを嫌いにならないわ」
ちょっとした沈黙。
それから私は彼女の顔を見た。
「リムおねえ……」
くかー。くかー……
いや、さすがは「マクスウェル」を名乗る御方。
寝息を立てて爆睡なされている。
たしか、あなたは二十代前半とか。
私は十代前半でございます。
そう思いながらも、繋がれた手を見てしまう。
自然と涙はこぼれ出てしまった。
(頑張れ。頑張れ。あなたの好きになった人は、あなたを嫌いになったりなどしない)
そんな心の声が視えた。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日も1日お疲れ様でした。
新生活に向けて忙しい方も、日々の諸々に追われている方も、今日という日を乗りきっただけでも凄いことだと思います。
ヴィクトリー!
さて、本作品はハティさんの古傷を無自覚に抉っちゃった回ですね。
この後、コレットちゃんはどうするのか?どうなってしまうのか?
是非とも次回もご覧ください!
ご評価いただけますと、さらに作者としても筆が加速いたします。
よろしくお願いいたします。




