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第99話 古傷 ~癒えない彼のトラウマ~



ん~、エルフの集落ってのんびりしていてとってもいいところ。


私、コレットは大きく伸びをした。


ついこの間まで戦場にいたことを忘れてしまうくらい。

変な事件?に巻き込まれたり、温泉に行ってみんなでアイスを食べたり……



こんなに楽しい思いができるのって「お姉ちゃん」に出会ったおかげだ。


お姉ちゃんはとっても頭が良くて、強くて、優しい。


弟のハティさんのことが大好きでいっつもくっつきたがる。

ときどき本当に血が繋がっているのか疑っちゃうくらい。


そういうハティさんも優しいお兄ちゃん。


初めて会った時は噂話のイメージがあったから怖かったけれど。

一緒に過ごすうちに、ちょっとポンコツで面白いお兄ちゃんだって思うようなった。


それなのに、いつも黒い靄のような魔力を抱えている。


私たちと話している時はその靄は消えるんだけれど。

あの「憎い」っていう黒い心のビジョンはなんなんだろう?



今はハルたちがエルフの集落の畑を見に行っている。


ハルってばほんと、頭の中がジャガイモ畑のことばかり。

「珍しい品種ばかり」って今日もウキウキしながら出て行った。


ちょっとは、他のこと……私を気にしても良くないかな?


私の見つけた「雲母マイカ」を大切に持っていてくれた。

殺されそうになったとき私を「守るんだ」って助けてくれた。


気にならないわけないじゃない。


そんなことを考えていたらハティさんの後ろ姿が見えた。


麦わら帽子に作業着姿。

……農作業をしに行くのかな?


私は立ち上がると後ろを追いかけた。。



ハティはトマトを収穫している。


エルフの集落は安全だ。

共和政府も手を出せない。


それはアンジェを拘束していたという事実からくる。


長い時をかけて人里を守り続けていたアンジェ。

そして族長の孫娘である彼女を捕らえていたのだから、本来ならば全面戦争だ。


だが、温厚な種族でもある彼らは進んで攻めようとはしない。


それに、彼らエルフはこの戦の「真の黒幕」を警戒している。

その者につけ入らせないためにも、今は体勢を整えている。


ハティはというと、つかの間の休息で気が緩んでいた。


安全な場所という思い込み。

アンジェや姉がいるという心理的な安心感。


彼にとってエルフの集落は故郷に近い雰囲気があり、心地が良い。


精霊たちが活発で、彼を歓迎してくれる。


冗談めかして「こっち(の住人として)こいよ」とまで誘ってくる。

悪い気はしないのだ。


(今日はトマトと鶏肉のパスタにしようかなぁ)

そんなことを考える。


(メインディッシュはトマトグラタン?野菜たっぷりの)

みんなが笑顔でご飯を食べてくれるのが嬉しい。


(トマト尽くしだと食べた感じが同じで飽きちゃうかなぁ)

いっしょに台所に立つのも楽しみだ。



あまりに気が緩んでいたようだ。

後ろから忍び寄るものに、彼は警戒していなかった。



珍しい。

ハティさん、ぜんぜん私に気づいていない。


【高貴なる洞察ノーブル・インサイト】で視てもお料理のことばかり。


すっごく楽しそう。


ハティさんはロリ……じゃなくて「蕾愛好者」を自称する。


小さな子を見るととんでもなく甘やかす。

そして不服だけれど、まだ子供の私も猫かわいがり。


う~ん、これだけ無防備だとイタズラしたくなる。


ぎゅって抱き着いたらどんな顔するかな。


いつもみたいに「にへらっ」って笑うのかな?

それとも照れちゃったりして……



私は物音をたてないように後ろから忍び寄った……



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


悲鳴が響き渡る。

その声にフェンリルナイトたちが集まってくる。


彼らが目にしたのはへたり込んでいるコレット。


そして……


「ご、ごめん、なさい。ゆるして、ゆるして……」

体を震わせて泣いているハティだった。


「いじめないでっ、ぶたないで……」

自分で肩を抱いて震えている。


何かに怯えて震える幼子のような姿。

最狂の魔人の面影はない。


「あ、ああ、わ、わた、わたし……」

コレットも愕然とした顔で座り込んでいる。

彼女もまた、ただ身を震わせていた。


「ハティ!」

エリーゼの悲鳴が聞こえる。


猛然と走ってくる。


「お、おねえ―――――」

コレットが顔を上げてエリーゼを見た。



「弟に触るなっ!」



今まで一度も向けられたことはない。

敵意に満ちた顔。


エリーゼがコレットを突き飛ばす。


「あ……」


何が起きたのかわからないという顔。

呆然と目の前の光景を見る。


地面に伏せるとともに目にしたのは、エリーゼがハティを抱きしめる姿。


「だいじょうぶ、だいじょうぶよ『信繁』……」

そう言って頭を撫でる。


「お姉ちゃんがいるわ。誰にもあなたを傷つけさせない。いじめる奴はお姉ちゃんがやっつけてあげるから……」


そう言い聞かせる。


「お姉ちゃんがいっしょよ。怖くないわ」

エリーゼがハティの額や頬にキスをする。


ハティは「恐怖」から、ただただ震え続けていた。



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