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第98話 アイスを愛す!エールと時々ストーカー


ハティさんがうろうろしている。


そしてそれに隠れるようにして僕たちは身をひそめる。

何をしているのかって?

それは彼から逃げるためだ。


「そこか」


ふすまが開けられる。


「ひぃっ」


引きつった悲鳴を上げた。


「待ちなさい」

そう言って捕まえられる。


それからスンスンと臭いを嗅がれる。


「ちゃんと風呂に入っていないな」

「ここに来てから毎日入ってるって」

「では、洗い方がなっていない」

男子連中がこうやって捕まってはボディチェックをされる。


あ、ハティさんは女子連中の臭いを嗅いだりはしない。

いくら非常識な人でもそこは弁えている。


「風呂、入るよ。にゅ~・よ~く(入浴)に行きたいかぁ」


誰も返事をしない。


「にゅ~・よ~くに行きたいかっ」

顔、怖いんですが。


「おお~」

それぞれが何とも言えないテンションで迎える。



「はい、右に見えますのがフォンターナ・サクラ(聖なる泉)でございま~す」

アンジェさん、ノリノリだなぁ。


こんな森の中に、滝のように水が湧いている。

「春には、美しいチェリーブロッサムの花が咲き、夏にはバンブーの清涼な青さが……」


説明を受けている間に、温泉に着いた。


「あ、男女別なんだね」

浴衣を着てみんな一緒かと思った。

「ああ、しかも素っ裸でな」

「え……」


僕は驚いた。

温泉って、あったかいお湯にみんなで浸かるんだよね。

水着とか浴衣を着てさ。


「裸の付き合いってのをする所らしい」

本気ですか?



「盗みの心配はないけれど、鍵のかかる脱衣箱に入れなよ」

そう言って木札にひもが付いた蓋つきの棚に近づく。


みんなの前で裸ってな……


ちなみに石鹸とタオルは各々の分をハティさんが用意してくれている。


う~ん、みんなの裸を見たことあるけれど……ぼくってやっぱり貧相だよな。


依然、ハティさんの体は無駄がない。

それどころか針金で出来てるんじゃないかっていう感じ。


スヴェンなんか、もう岩だね。


フィンだって引き締まった体している。


アルセイスは……ちょっとエロい。


オーレは標準的な体つきだ。


今のコリガンくんはぽっちゃり。安心する。


「オーレ、コリガンくん、仲良くしようね」

「え?あ、うん」



「露天行こうぜ~」

脱衣を終えたフィンが先頭に立って行く。

「かけ湯、ちゃんとするんだぞ~」

ハティさんの注意に「は~い」ってみんなで空返事。


声が聞こえる。

「リムったらかわいい」

「リャナン、バカにしてるだろ」


「そんなことないよ~」


「そうだニ。人の体つきを……」


「クロエ姉さん、ひがまないで~」

「腹が立つ子だニ」

リャナンたちが騒いでいる。


「リャナン、ちょっと胸が大きいからって威張らない。だって……」

「な、なんだよ」


「ルーダ、いつのまにそんなに育ったの?」

「知らないよ」

「姉妹の中で一番下のくせに、一番大きいってどういうこと」

「文句言われてもなっ、ってちょっと触るな姉貴」


ああ、楽しそうだな。そして実に興味深い。


「大きさって言うなら、アレは反則だろ」

静まった。


「なんですか?みんなで」

エリーゼさんの声がする。


「何を食べたらそんなになるの」

「虎よりも牛女だニ」


「あらあら、そんなに褒めないでください」

うぁ、声だけでもわかるマウント。


「きぃぃぃっ」


女子連中の狂乱。


「何を騒いでいるのだ、お前たちは。他の人の迷惑も考えろ」

「ティア……」

ティアさんか……


「あ、あああっ!?」


女性陣の叫び声。


「な、なんだ?」

「お前、なんで貧乳じゃないニ!」

「そうだ、胸にコンプレックス持ってこその妹キャラでしょ」

「何を言っているんだ」

「認めない、認めない、馬女がなんでこんな……」

なんか、気になるなぁ


「というか、その腹」

「ん?やはり太ったか」


「ぜんっぜん。そんなバっキバキの腹筋。アスリート体形。誰よりも甘いの食べてるのに」

「これでも贅肉がついたほうだ」


「くそぅ、オマエ、嫌いだ」

「何を言うか。エリーゼ様を見ろ」


「……」


「そんなにじろじろ見ないでください。恥ずかしいわ」


「なんでシックスパック!毎晩酒飲んでる酒クズがっ……って違う!八つに割れてる!?」


「なんでって言われても、美容のために運動していたからじゃないかしら」


「嘘つくなっ!」


え、うそエリーゼさんのお腹が……割れているって!?


「ハティったら、『良い体してますね』って。ふふっ、お姉ちゃんどうしましょ」

ハティさんの性癖が特殊すぎる……


「アンタたちさ、うるさいわよ」

あ、アンジェさんの声だ。


「……うん。安心した」

リムの声だ。


「なに、同類を見る目をしてるのよ」

「べ~つ~に~」


そんな騒がしさを男子連中は顔を赤らめて聞き入っていた。


「みんな、どうしたの?」

ハティさんが声をかけてくる。

「いい天気だねぇ、こういう日の露天風呂は格別だね」

そう言って湯船まで来る。


って、改めて良く見るとエロぃぃ……


体はバッキバキに鍛え上げられている。

でも、そこまで筋骨隆々って感じじゃない。


それに、いつも結んでいる髪を垂らしているから……


首から上はエルザさんに似ている。


湯気でぼかしたら女の人みたい……


「親父、相変わらずエロい体してるな」

「なんだよ、そのエロいって」

フィンの声に壁の向こう側が静かになった。


ハティさん、掛け湯をしてから湯船に入ってくる。


「おぉぉ」

おっさんぽい声。


泡が浮いた。


「親父、さいってい!」

「くっさぁ、おっさんっ!」


皆で逃げる。


「ごめん、ごめん」

「ふざけんなよぉ」


男子みんなでお湯をかけて騒ぐ。

なんだろうな、楽しいなぁ。


あれ?向こう側、静まり返っている。


「ん?」

スヴェンが首をかしげる。


「なんか、音がしないか?」

「あ、なんかするね」

アルセイスもあたりを見る。


確かに、なにか軋んでいるような……


パキ――――――


一際高い音がする。

その途端に、露天風呂の壁がこちら側に倒れてきた。



「うわぁぁ!?」


僕たちは悲鳴を上げて逃げる。


「あ――――――」


倒壊した壁の上に折り重なるようにして転んでいる女性陣。


目が合った。


「あ、えっと」


「何しているの?みんなして」

ハティさん湯船から上がってのんびりと問いかける。

っ、前っ、前隠して!


女性陣が食い入るようにハティさんを見ている。


「ブフッ」

って、ティアさんっ?鼻血吹いてる。


「お、お嬢様ぁ!」

ジャンヌさん、アンタまで何やってんだよ。


「というかさ、ちゃんと隠しなよ。男の子たちには刺激が強すぎるよ」

いや、アンタがまず隠せよ。


リムなんかのぼせて目を回しているよ。


「ご、ごちそうさまでしたぁ~」

鼻血垂らしながらアンジェさんが言う。


『撤収!』


彼女の号令で女性陣がスタコラ逃げていく。

背中しか見えなかったけれど、僕たちも眼福でした。



この狂態を茂みに紛れて観察している者がいた。


その様はまるで自然と同化し、潜む狐のようであった。


(スー、ハー、スー、ハー……)


息を殺しながらも抑えられない鼻息。


(ふふ、うふふふふふ)


エルザ・ジグニュール・ブライトガード。

旧帝国の英傑。人呼んで「鉄血のエルザ」。


そして今はハティのストーカーである。


(いいわ、いいですわ。私の旦那様)

男湯を覗き、ハティをロックオンしている。


(なんて御姿。これをおかずにどんぶり飯6杯はいただけますわ)


かつての英傑のなれの果てである。


(旦那様のお布団の匂いを嗅いで堪能したあと、髪の毛のメッセージをおくったというのに。エルフが先に見つけるなんて)


(いけませんいけません、私と同じことをしようとしていたのですから同族嫌悪ですね)


頭を振る。


(あら、露天は壊れてしましたか。今度は屋内ですね)


そう呟いてカサカサと虫のように這いながら忍び入った。



僕たちは屋内に戻って体を洗う。

交代で背中を流し合ったりしている。


コリガンくんもみんなと普通に接している。

アルセイスくんが彼の背中を洗ったりしている。


血は繋がってなくても兄弟で仲がいいんだよな。


僕もスヴェンが背中を流してくれている。


「痛くないか?」

「ううん、ちょうどいいよ」

「そうか」

スヴェン、優しいんだよね。


「親父、背中流そうか?」

フィンがハティさんに尋ねる。


ハティさんちょっと困った顔で「ありがとう。でも、いいよ」って断ってる。


「そっか」

フィンも複雑な顔で離れていく。


どうしたんだろう?


僕の背中を流し終わったスヴェンがフィンを見る。

フィンは小さく頭を振る。

それをアルセイスたちは黙って見ていた。


ケンカしているようには見えないけれど。

そうだな、日ごろお世話になっているし、僕からいって背中を流そうかな。


思い立ったら即行動。


僕はタオルと石鹸を持って髪を洗っているハティさんの後ろから近づいた。


「あ、バカ―――」

誰かの止める声がする。



「ハティさん、僕―――」

後ろから声をかけた。


僕は腰を抜かしていた。


失禁していた。



殺される――――――



震えが止まらない。


一瞬、ほんの一瞬だけれど。

こっちに視線を向けたハティさんの目が……


拒絶するその目に殺意が見えた。



髪を流してハティさんが「ハル、大丈夫か」って声をかけてくる。


「ひっ」


僕は引きつった悲鳴を上げた。



「親父、ちょっと転んだだけだ。俺たち見てるから」

慌ててフィンが僕の肩に手を置く。


「親父殿、露天もう一回行こう」

「親父、僕も」

アルセイスとコリガンくんがハティさんを引っぱっていく。

オーレが手を引いていた。


「え?あ、うん」



「バカ、親父に後ろから近づくなよ」

「止めるのが遅かったな、すまん」

フィンとスヴェンが僕を介抱する。


浴室から連れ出されて、今は脱衣所のベンチに座っている。


「ほら、水飲め」

そう言ってマジックバックから出した水筒を渡してくる。


「うん」


飲もうとして、まだ手が震えていることに気づく。


また思い出してしまった。


ハティさんに、魔人アガートラームに敵意を向けられることがこんなに恐ろしいだなんて。


ダメだ、怖い。怖すぎる。


死んでないのに。

痛みよりも恐怖を植え付けられる。


「大丈夫だよ、親父は無意識だったんだ。ハルを憎んでるわけじゃない」

フィンが背中をさすってくれる。


「親父がお前を嫌うわけないだろ。傷つけることもしない」

スヴェンが重ねて言う。


「う、ん。でも、わかってるけど、こんなに、こ、怖いって」

「まあ、無意識だったから素が出ちまったんだよな……」


「親父の背中、見た?」

「うん」

傷だらけだった。

ちょと大きな創傷痕とかもあった。


戦に出ていたからなんだろうなって思っていた。

父さんもそうだったから。


「火傷痕も見たか?」

「うん」


「あれ、戦でつけられたんじゃないんだ。ガキの頃に焼き殺されそうになったんだって」

え……


「親父とケンカした時、聞いただろ。親父、ガキの頃から身内にも命を狙われていたって」


「それは、聞いたけど」

さらっとしか言ってなかったよ。


「悪口とか石を投げられるのなんか日常茶飯事。矢を射かけられた時もあったって。矢傷はその時のものもあるみたいだ」


「親父の故郷では銀髪ってのはまず滅多にいないらしい。だから、化け物だと思われていた。小さいとき、何も知らない親父が他の人と話したくて里に下りたんだって。そうしたら、化け物が出たって松明とか煮え湯を投げつけられたんだって」


「うそ、だろ」


「俺も聞いたときはぞっとした」

「親父のトラウマなんだよな。だから他人が怖くて信用できない」


「信用しようって頑張っているみたいなんだけれどさ、でも無意識に拒絶してる部分があるんだよな」


「特に背後から襲われることが多かったから、背後から近づくのは絶対にダメだな。背中に触られるのも嫌みたいだ」


「背中を流すのも?」


「我慢はするだろうけど、我慢させちゃダメだろ」

「そう、か」


「例外はアンジェさんとエリーゼさんの二人」


「え?あ、そうなの」


「そう、親父にとって特別な人」

やっぱり、そうなんだよな。


「でも、リムたちは負けてないぜ。『おんぶして』って強要するんだから」

「あ、ああ」


「『自分からするのは大丈夫だと思う』ってさ、実際親父もガキの頃俺たちおんぶしてくれたから」

「そうなんだ」


僕は、あの人のこと何も知らないんだな。



「いいお湯だったねぇ」

ご機嫌なハティさん。

腰に手をあて、反対の手を天に向けて指さした。


「ということで、恒例の――――」

ハティさんの言葉にフェンリルナイトたちが唱和する。


『アイス、愛す。あいすくりーむっ』


アイスクリームを売っている店に連れ立て行く。


「うわっ、種類めっちゃあるな」

「な、悩むぅ」

「ね、ね。親父、一人一個?」

「久しぶりだから特別。ダブルでいいよ」

「よっしゃぁ~太っ腹ぁ」

ワイワイ騒ぎながらケースを覗き見ている。


「ハルも、ハルもっ」

ルーダが呼んでくれる。


「うん」

ハティさんは先に人数分の払いを済ませる。

そうしてふらふらと隣の店に行く。


「なに?飲むの?」

「風呂上がりくらい、いいだろぉ」

「飲みすぎ注意!だからね」

「はぁい」

アンジェさんは根っからのオカンだ。


あっちはあっちで何やら楽しそうだ。

アダルト4人組(ちゃんとアンジェさんも入っている)はエールを飲んでいる。

ジャンヌさんはティアさまのお隣で待機中。


僕たちヤングチーム11名(クロエはこっちに入っている)でアイスを堪能中。

「お酒飲める歳になってもね、これはぜったいに外せないよね」

リャナンがにこにこしながらチョコチップクッキーアイスを口にする。


「悪くないニ。お風呂我慢したかいがあったニ」

クロエがミルクアイスを舐めながらそううそぶく。


「お、コレットさぁ、ラムレーズンって食べられるのぉ?」

ルーダがコレットをからかう。

「お試しです」って拗ねたようなコレット。


将来、酒飲みにならなきゃいいけれど。



「ハティ、ハティ」

リムアンがハティさんを見上げて言う。


「ん?」

「一口、あげる」

そう言ってダブルベリーアイスを差し出す。


「あ、うん。ありがと」

差し出されるままにハティさん遠慮がちに食べる。


「おいしい?」

「うん。おいしいよ」

「そう」

リムアンが嬉しそうに笑ってそのまま去っていく。


それを面白くなさそうに見ていた、エリーゼさん。


「ハティ」

「はい、なんでしょう姉上」

「エール、好きでしょう?」

「はい」

「じゃあ……お姉ちゃんが口移し」

エリーゼさんが口に含む。


「う~ん」

顔を寄せる。


「させるか、痴女がっ!」

右からアンジェさんが、左からティアさまがその頬を押す。


口からエールが噴き出てハティさんの顔にかかる。


「あ……」

三人ともびっくりした顔で見ていた。


ヤング組はそれを「バカだねぇ」って笑って見ていた。

そうして、僕はふと思う。


これだけ楽しいんだ。


みんなそろったら、ガレットさんたちも加わったら、これ以上に、とんでもなく楽しくなるんじゃないかな。



ジャガイモ仲間の皆さんへ


今日も1日お疲れ様でした。


作品は「温泉回」でしたね。


あの人の影もちらついておりましたが、まずは皆さんも、お風呂で1日の疲れをとってみてはいかがでしょう?

そして、明日のために「アイス」で、元気チャージです!


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