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004 満月の夜

 ダンドール家のイリアに貸し出されている客間において、今日もまたイリアとカルアが集まっていた。

 あの日、本来のイリアと身体を交換した時から、毎日英霊招来を自分自身にも用いるということをしているが、あの日以降その実験が成功したことはなかった。

 だが、そのことは実験をしない理由にはならず、毎日カルアを監視役として客間で英霊招来を試し続けていた。


「今日は満月か。」

「ん。アルが黄昏ている。」

「別にそんなんじゃないけどな。」


 窓の外には大きな満月が覗き、夜であるにも関わらず明るい光が街を照らしている。高い位置にある客間から見える庭と遠くの町並みは夜に浮かぶ星を思えるほど美しいものであった。

 その光景を眺めているイリアに対してカルアは揶揄うような笑みを浮かべると、とことことイリアの側によっていく。

 それにイリアは慌てる理由もないはずだが、若干早口になりながら窓の外からカルアの方へと目線を動かす。


「ん~?……満月を見ているのに?」

「満月くらい見るだろ。」

「何かあった?」


 満月くらい誰でも見るもので、イリアが見ていてもおかしなことはない。しかし、カルアに掛かれば、その状態を揶揄いのネタにすることは簡単である。

 イリアのいつも通りの表情にカルアも視線を向けながら、言葉を投げ掛ける。


「……別に何も。」

「そう。」

「ありがとな。さて、今日もやるか。」


 今日もやるというのは当然、実験の事である。最早、毎日の日課になりそうな自分自身に向かっての英霊招来。いつもは発動もせず、何の効果も得られないものだが、今日は果たして。


「“英霊招来”アルベルト!!」

「……!!成功?」

「また、ですか。」


 英霊招来を発動した瞬間にイリアの身体は光に包まる。光に一度分解された身体は何も支障もなく、その身体は生前のアルベルトの肉体をベースにして再構築されていく。

 そして、光が収まった頃には完全に魂と肉体の主導権が入れ替わっており、本来のイリアの人格が表面へと出て来ていた。


(おっ、上手く行ったか。久しぶりだな。)

「えぇ。まさか、二度目もあるとは思いませんでした。」

(まだ話を聞けていないからな。)


 イリアとアルベルトは英霊招来によりパスが出来ており、心の中で話すことができる。その性質を利用して、アルベルトは前回聞けなかった事情を聴こうと考えていた。

 一方でイリアの方はそもそも身体を取り戻そうとは考えておらず、その結果普通なら取り戻そうと両者で努力できることが、出来なくなるという逆転現象が起きていた。


「話せば諦めて貰えるのでしょうか。」

(それは話を聞くまでは分からないな。)

「……あなたはしつこそうですね。」

(英雄だからな。諦めないことに関しては一番だろうな。)


 イリアとしては諦めてもらうことが最適解である。そのために対話をすることは否定するものでもないのだが、アルベルトという人物が対話をしたからと諦めるとは到底思えないのも事実であり、呆れたような声が自然と漏れ出ている。


「しつこい男は嫌われますよ?」

(それでも、聞かないわけにはいかないから。)

「……そうですか。時間制限もあるようですから、少しだけ語りましょう。」


 諦めがよくて英雄ができるはずもなく、徹底抗戦の構えのアルベルトに諦めたように目を伏せて、イリアは語り始める。


「あれは……」

(うぐっ、頭が……)

「時間切れのようだな。」


 が、語り始めようとしたときに時間制限が来てしまい、話を聞くことができずに英霊招来が解けてしまった。そのことにがっかりとした表情を浮かべてしまうのも無理はないだろう。


「アル?戻ったんだ。」

「ああ。何も話は聞けなかったけれど、満月の夜になったら話を聞けるみたいだな。」

「ん。みたい。……それで黄昏ていた理由は?」


 満月の夜。条件として考えられることはこれだけであり、英霊招来を自分自身に発動して身体を交換することができるものはこれと仮定して、イリアは考えるのであった。

 真面目な表情を浮かべるイリアにカルアは黄昏ていた理由という、今の話題におおよそ相応しくないことを聞く。

 それに対して、イリアはびっくりした表情でカルアの方を見つめなおして、首を傾げた。


「うん?別にそんなんじゃないからな。」

「しつこく聞くのは聞かれる覚悟があるから、だね。」

「ちょっ、勘弁してくれ。」


 イリアとしては特に最初から黄昏ているわけではないと回答しているわけだから、ここでも同様の回答を返すのが正である。

 が、カルアはその回答に満足していないようで、望む回答を得られるまでは追及するつもりなのだろう。目をキラリと光らせている。


「言っちゃえ。言っちゃいなよ。ゆ~。」

「どんなテンションなんだ。」

「ん。……アルも抱えこまないでね。あの時みたいに。」


 カルアの謎のテンションに呆れたような表情を浮かべるイリアであったが、続く言葉に表情を変え、真剣みの帯びた表情に変わる。

 あの時、それは魔王討伐の時。仲間に相談なく魔王と相討つになった。あの時はイリアの判断としては最善であったが、それでも仲間たちにとっては最善というにはほど遠く、やるせなさを胸に抱かせるものだった。

 だから、今度は抱えこませないように。ふざけた態度であれ、ちゃんと確かめておきたかったのだろう。


「……ああ。ありがとな。」

「ん。寝る。」

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