第5話 ワグナー家の決断
今回は、ワグナー家側のお話です。
話の性質上、常に主人公の周りを映すよりも効果的な角度がありますので。
ワグナー家は地の利を得ていた。
アルテリオ王国の南南西の国境地域に広がる平野に、一つだけの山林――
この地域で争うならば、この山林に陣取ることで主導権を得ることができる。
山林に設置されたワグナー家の本陣――
その中央に位置する、最大の天幕の中では、黒髪の男性が頭を抱えて独りごちた。
「……さて、地の利こそ得たが……どう動いたものか。」
すると、金髪の青年が天幕に入ってきて、背筋を伸ばして言った。
「ダート様、来客です。」
「マクシムか。――来客だと?」
黒髪の男性・ダートが顔を上げて金髪の青年・マクシムに尋ねた。
マクシムは頷いて答えた。
「はい。アルスレート侯爵家の使者と名乗る者が。」
ダートは怪訝な顔をして、それから言った。
「――アルスレート侯爵家?……数日前からこの地に野営を張っている、と報告があったな。……わかった、通してくれ。」
「承知しました。――お入りください。」
マクシムが声をかけると、線の細い黒髪の青年が入ってきた。
武器は持っていなかった。
ダートは黒髪の青年に声をかけた。
「遠路はるばるご苦労。用件は?知っているとは思うが、現在、当家は攻めてきたメイヤー家への対応に手を取られている。」
「存じております。――単刀直入に申し上げます。アルスレート侯爵家は、貴家と一戦交えることにいたしました。」
ダートとマクシムは揃って絶句した。
「「なっ……」」
しかし、黒髪の青年は淡々と続けた。
「アルスレート侯爵令息、リヒャルト様より書簡です。ご覧ください。」
黒髪の青年がマクシムに書簡を渡し、マクシムはダートに書簡を手渡した。
そして、ダートはその書簡に目を通して唸った。
「うむ……っ。返す言葉もない。」
「リヒャルト様は、国境地域における貴族同士の軍事衝突を看過できない、と。」
神妙な面持ちのダートを見て、黒髪の青年は続けた。
「無論、リヒャルト様も杓子定規に攻め滅ぼすつもりはありません。敗走する者は追わぬとのこと。」
その言葉を受けて、ダートは天井を仰いで瞑目した。
それから、少しだけ沈黙した後に、言った。
「――承知した。お心遣いに感謝する旨と、一戦交える旨、伝えてくれ。」
黒髪の青年は、小さく口元をつり上げて、一礼した。
「承りました。しかと、お伝えします。」
そして、青年は退出した。
黒髪の青年が退出した後、しばらくしてマクシムが口を開いた。
「よろしかったのですか?ダート様。」
「ああ。」
ただ頷いたダートに、マクシムは食い下がった。
「しかし、アルスレート侯爵家と事を構えるなど……」
「もちろん、本気で事を構える気はない。」
ダートがそう言うと、マクシムは目を丸くした。
「……?」
「被害を出さない程度に戦い、ほど良いところで撤退する。第三勢力が介入したとなれば、派閥に対しての義理は通せるだろう。」
ダートの説明を受けて、マクシムは納得したように頷いた。
「――そういうことでしたか。」
「アルスレート侯爵家は、公爵家を筆頭とした派閥の争いになど何の関心もない。ただ、アルテリオ王国に仕えると公言して憚らぬ家なのだから。」
それから、ダートは少しだけニヤリと笑った。
「――つけ加えるならば、メイヤー家の物分かりが悪い方が、ワグナー家としては都合がいいかもしれんな。」
「は、はあ……」
そして、ダートは腰を上げた。
「ダート様?出陣ですか?」
「ああ。善は急げというやつだ。――アルスレート侯爵家が指摘する通り、国境で貴族同士が長々と争い続けるわけにはいかないからな。」
ダートが晴れやかな表情で言うと、マクシムは苦笑した。
「承知しました。――それでは、出陣の手はずを整えます。」
「頼んだぞ。」
マクシムは天幕の外に出て行った。
そして、天幕の外が、にわかに騒がしくなった。
いやもう本当に、しがらみってめんどくさいです(`・ω・´)
鉄の剣か鋼の剣か、ワグナー家もそれ自体はアホらしいと思っているのですが。
派閥という理屈が挟まった途端に事態はこじれるのですから(ーー;)




