第1話 侯爵令息は出奔したい
チャレンジ企画「お題で飛び込む新しい世界」に応募してみます。
これを「戦記」と呼んでいいかどうか――
それは、読者さんと審査員の先生方にお任せするほかありませんが。
少なくとも、作者は戦記のつもりで書いております(`・ω・´)
アルテリオ王国の王城、その玉座の間で金髪の青年が跪いていた。
その眼前の玉座には、栗色の髪の男性の姿があった。
男性は、青年を一瞥した後、大きくため息をついた。
「そうか、出奔したいのか――リヒャルト君。」
「はい。――幸いにも私は次男です。家督は兄が継ぎますので問題はないかと。」
金髪の青年・リヒャルトは玉座に座った男性にそう言った。
玉座の男性は首を振って、それから言った。
「――とりあえず、建前を聞こうかな。」
「私の周囲からの評価は存じております。――とはいえ、候補者が二人いることは好ましくありませんので、私が姿を消した方がよいかと。」
リヒャルトが神妙な顔をしてそう言うと、男性はうなずいて言った。
「――では、本音は?」
「冒険者ギルドの受付嬢に懸想しておりますので、彼女の傍に行きたいのです。」
男性は頭を抱えた。
「ジョーデル様。もう少し平静を装ってください。」
「ならば、前代未聞の出奔理由をあけすけにいわないでくれたまえ。」
男性――アルテリオ国王・ジョーデルは苦笑しながら続けた。
「平時ならば思い留まってほしいというところだが、この時期に申し出るとはね。――なかなか、足元を見てくれるじゃないか。」
「さて、何のことでしょうか?」
リヒャルトがとぼけると、ジョーデルは頭を振った。
「……まあいい。ならば、利害の一致ということで一つ頼まれてほしい。」
「出奔を許していただけるのであれば。」
ジョーデルは言った。
「恐らく、説明する必要はないと思うが、先日、我が国の辞書を再編纂することが決まったことは、心得ているね?」
「はい。――ある単語に関して、イクストニール、エルハザード、両公爵家の令息が少し白熱した議論を繰り広げていたところまでは。」
リヒャルトが淡々と答えると、ジョーデルはうなずいた。
「やはり、狙ってきたね……そういうことだよ。実はその議論が思わぬ波及効果をもたらしてしまってね。――下手をすれば内乱が勃発しかねない。」
「派閥が勝手に暴走しかけているようですね。両家の令息がそこまで扇動するとは考えられませんので。」
リヒャルトの言葉に、ジョーデルは微笑を浮かべてうなずいた。
「さすがは『アルスレートの最高傑作』と称されるだけあるね。――手放したくはないが、私としても君の出奔は渡りに船というわけだ。」
「ええ、王国にとっては去りゆく者が悪役を被る、私はそれをいいことに受付嬢の隣に行ける。双方が喜ぶよい話です。」
悪びれもせずに言い放つリヒャルトに、ジョーデルは深くうなずいた。
「そうだね。――何とか収拾をつけてくれたまえ。私は王としてどちらの勢力に肩入れもできず、両派閥を同時に相手取るわけにもいかないからね。」
「それは期待しておりませんが、陰からの支援はお願いしますよ。去りゆく身とはいえ、アルスレート侯爵家が自前で対処せよとは理不尽な話なので。」
ジョーデルは苦笑した。
「約束するよ。――我が国の公爵家である御三家とて、アルスレート侯爵家を敵に回したくはないからね。」
「そう願います。――すでに挙兵している家もありますからね。荒事は避けられそうになく、それを抑えるための多少の被害はお目こぼし願いますよ。」
リヒャルトの言葉に、ジョーデルは迷いなくうなずいた。
「それはやむを得ないよ。――今、重要なことは、二つの公爵家を筆頭とした派閥の対立を長引かせてしまわないことだからね。少々の流血沙汰は、必要悪だよ。」
「――まあ、鉄鋼製の剣を、鉄の剣と呼ぶか、鋼の剣と呼ぶか――そんな議論から内乱に発展したら、犠牲者たちも死んでも死にきれないとは思いますが。」
ジョーデルは、天井を見上げた。
そして、こめかみを押さえながら、大きくため息をついた。
「いわないでくれたまえ……こんな形で国の危機が訪れるとは思わないよ……」
どうしてこうなった(`・ω・´)
それは、作者の心の声であり、国王ジョーデルの心の声。
無事に書き終えられるように祈ることにします。
まあ、祈るよりもキーボードを打つしかないんですが(ーー;)




