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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ものすごく疲れた戦闘員

作者: 木田 梅子

疲れた。


人々は戦い疲れていた。

遠い昔から永く続く戦いに、ある者達はほとほと戦い疲れていた。

「私たちはいったい、いつまで戦っていなければいけないのか。」

戦い続けているもの達は、一度はこの問いに悩む。

だがもう、心底疲れ果てているものに、そのような思いはつゆ程も浮かぶことは無い。

ただただ疲れている。

もう身体も心も限界の限界に来ている。

もちろん、敵も味方も誰しもが、体も心も疲労が最高に限界になっていた。

その戦いで疲れていないのは、戦場にいない者だけだった。

安全なところで、自分も戦っていると思っている者達だけだった。

「私はこの国を永年見てきた。この国を愛している。他の国の奴らにやられてたまるか。国取りだ。先に侵略だ」

と、口だけが動いている老人達と、それに翻弄されている階級が上のもの達。

若く美しく、考えも新しく柔軟な若者達ばかりが、戦場でたたかう。

だが、その戦士達はいい加減疲れていた。

長く続く戦いに、もういい加減うんざりだった。

「おれ、つかれたからやめる。もうどうでもいい限界」

と1人が言いはじめた。

そして持っていた武器を突然その場に捨て、どかにとぼとぼといってしまった。

それを見た仲間たちも、全く同じ思いだったので、武器を捨て、続々と後を追っていった。

相手方の行動がおかしいと感じ取った感受性の強い戦士が、「俺も、戦い疲れたのでやめます」と立ち上がり、武器を捨ててどこかに行ってしまった。

「実は私も限界です。」

と、こちらも続々と後を追っていった。

とにかくお互い、疲れて疲れて体をうごかすのもやっと。

「じゃ俺も」「じゃ俺も」と続々後につづくものがでたので、戦う者がいなくなっていった。

なくなっていく銃声に、戦場で高い位の立場の者が「戦いをやめるとは何事かぁ!」と名目上一応叫ぶと、その人も戦う事に疲れていたので、その場から退散した。

「あー疲れた」「やっと解放される」と口々に言いながらそれぞれ去っていった。

戦場には武器だけが残っていた。

着ていた戦闘服を脱ぎ、川や海で体を洗った。

後から敵だった者達も来たが、死んでいった者達には申し訳ないが、あまりの疲れにその身のことを考える余裕は無かったので、共に同じ場所で洗った。

敵味方、皆同じように家族を失い、仲間を失った。

お互いの残虐な行為に、怒りが湧き上がったことは何度もあった。

死んでいった仲間の無念を晴らそう。

同じように惨めにしてやろう。

怒りを増幅させあった。

命が途切れるまでの苦痛はどれほどだったか。

お互い怒りから、亡骸もぞんざいに扱い、余計怒りを煽いあった。

愛しい相手を思う思いと、自分の命を守りたいという思い。

怒りの噴火は限りなくつくられた。

それもこれも全て、体を動かすことのない、イカれた奴らが、戦場で、より戦わせるための差し金だという事に、疲れを癒した途端皆が気がついた。

頭のイかれた奴らは、机上で偉そうに国のため、国の為とやっている。

自ら戦うこともせずに。

そんな奴らに操られていたとはと、とても残念に思った。

「疲れたなぁ」

「本当に疲れたよ」

「俺の父さんも本当はやりたくないって言ってたよ」

「俺の爺さんも父さんもそーいってた」

「俺なんて、死ぬための命なんだって生まれた時に言われたよ」

「産むなよなぁ。」

「初めから故意に死ぬために産まれたくねぇよ」

川や海で裸の戦士達の心は、人間に戻っていた。

水が全ての汚れを落とし、敵味方なく皆は笑い合った。

落ち着いた頃、ある者が歌を歌った。

皆疲れていたが、戦いに死んでいった者達を忍ぶ思いで、皆がそれにつづき歌い始めた。

皆、言葉は発せずとも同じ思いだった。

全てを洗い流した後、そこには見えない繋がる思いがあった。

悪い記憶、怒りの記憶。

連鎖を起こす事が、また疲れる原因だとわかっていた。

怒りは疲れる。

体力を削り、心も削り。

人としての機能も削る。

歌は心を響き、幸せを呼ぶ。

忘れていた笑顔を連れてくる。

皆が幸せの道を歩くように、正直な道を作る。

すると、感受性の強い者達が次々力を発揮する。

皆がこれから疲れる道を歩かないように、皆で幸せを呼び起こす波の起こし方を提案する。

数字に強い者達。

言葉に強い者達。

考える力を持つ者。

総合的に判断できる者。

まとめる力を持つ者。

得意分野を見出せる洞察力のある者。

色々な得意分野があり、それに準じた人がいる。

人の輪が出来上がる。

その輪の中では、歌の得意な者が歌を歌う。

大きな声で。

そして人々は肩を抱き合い左右に揺れる。

優しさに言葉はいらない。

幸せに言葉はいらない。

笑顔につける笑い声だけあれば、人は通じ合える。

言葉は罪だ。

言葉の暴力の後には、必ず体を使う暴力が来る。

人間を翻弄させ、死に追いやる1番の武器が言葉だ。

想像力のない者、考える頭のない者が、言葉の暴力を好み、体の暴力が1番悪いと声を上げる。

だが時に、言葉の暴力が、体の暴力を起こさせる。

「あぁ、もう我々に言葉はいらない。」


人はそれぞれの得意分野を活かした結果、その場所に笑顔でいられる国が出来た。

疲れを癒した彼らは、未だ戦争をしていると思わせる仕組みを作りあげた。


ようやく本領発揮。

新しい発想を持った彼らは、素晴らしい自分達の国を作り上げた。

机上の論争を繰り広げているその裏で、兵士達は、それぞれの個性を役立たせて愛ある国を造った。


「もっと早く、あいつらをボッチにすればよかった」

若者の発想は素晴らしかった。



走って転んで傷ができたら痛い。

自ら痛みを覚える。

子供の頃に繰り返せば痛みを覚え、治療の度合いをしる。

人の足を踏んだら、感触がある。

踏まれたものは痛い。

どちらも気持ちが悪い。

後ろ髪をなんど引かれても、親は自分の居ない将来を、子供が一人でも立てるように生活力を身につけさせなければならない。

可愛がりながら、支える力を親は心に備えなければならない。

赤ん坊から大人になり、そして親になり、最後は死ぬまで。

幾度とつながる心の形成は、自立に向けての出発に始まり、そこには愛があり、前向きで、幸せで、そして常に笑顔でなくてはならない。


戦いは、人として当たり前の教育を失い、戦う事だけを正義とする。


あなた達が故意に失わせた命を、返して下さい。

戦いを始めた大将首達よ。

殺戮の大ボス達よ。

その汚れた命は永遠に、重き罪を背負う。



「もう、本当に疲れたんだ」


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