02 小国の王女が大国の皇子に愛でられる理由
小国の王女は大国の皇子に愛でられていた。
「好きだ」
「愛している」
「メイは俺の最愛だ」
耳元で愛の言葉を何度も囁くユークリッドにメイの顔は真っ赤になっていた。
「こんな場所で堂々と……よく言えますね?」
「寵愛を隠す意味などない」
「公式行事ですよ?」
ユークリッドとメイの結婚式は準備中だが、法的にはすでに正式な夫婦。
メイが皇太子妃であることを示すため、皇宮でイース風の夜会が開かれた。
ラウドラントの夜会は舞踏会が主流で、食事はビュッフェスタイルの立食になる。
しかし、イースでは床に座布団と呼ばれるクッションを置いて座り、広間の中央で踊る者を観賞するスタイル。
そこで、皇帝は特注の台座を作らせ、その上に座布団を置いて座ることにした。
皇太子のユークリッドも同じ。
寵愛する女性を側に置くのがイース風とのことで、皇帝は皇妃と側妃、ユークリッドはメイを側に置いた。
皇帝は二人の妻がいるために話しかけるにとどまっていたが、一人しか妻がいないユークリッドはメイを抱き寄せ、甘い言葉を囁きまくっていた。
「ラウドラント人はそういう言葉を人前でも平気で言いますよね」
「イース人はシャイだ。出しゃばらないのはいいが、ラウドラントでは積極性が尊ばれる。あまりにも消極的だと、悪く見られてしまう可能性もある」
「そうですね」
「メイは俺の妻だ。遠慮する必要などない」
ユークリッドはそう言うと、メイの額に口づけた。
「これでいい。見せしめだ」
「ちょっと言葉が違いますよね? 見せつけです」
「メイに縁談を持ち込んだ者が多くいただろう? 釘を刺しておいたが、俺の寵愛がメイにあることをこの機会にはっきりと示さなくてはならない」
「それは……言葉の表現としての釘ですよね?」
「当たり前だ。本物の釘など生ぬるい。メイに手を出したら俺の剣で串刺しだ」
「ユークリッド様を本気で怒らせたら危ないです」
「やる時はやる。それがラウドラントだ」
「ラウドラントの強さをユークリッド様があらわしていますよね」
「皇太子だからな。ところで、そろそろまた飲むか? 喉が渇いてきただろう?」
「今度は自分で盃を持って飲みますね」
飲み物がほしいとメイが言うと、ユークリッドの口移しで飲まされた。
なので、二度目は防止しようとメイは思った。
「遠慮するな。口移しで飲ませてやる」
「いえいえ。自分で盃を持って飲むのがイース風なのです。それよりも、ユークリッド様はそろそろワインにしませんか? 盃で飲むお酒は少しずつになってしまいます。グラスでたっぷりと飲みたいですよね?」
イースの強い酒を飲み続けたユークリッドは酔っている。
ワインで一気に酔い潰そうとメイは考えた。
「イースの酒がいい。口移しで飲みたい」
「銚子を持ち上げて傾け、離れた口に注ぐ荒業に挑戦しませんか? 難しいですけれど、ユークリッド様なら成功しそうです。盛り上がりますよ!」
「興味ない。メイの口移しで飲みたい」
「お酌をするのがイース風です」
「メイはずるい。イースをダシにして俺といちゃつくのを避けている」
「ユークリッド様こそずるいです。イース風をダシにして、こんな場所で堂々といちゃつくなんて。奥ゆかしい私の胸はもういっぱいいっぱいですよ」
「今夜はイース風の夜会だ。だからこそ、イース風にいちゃついている。教えたのはメイだ」
「即実行するとは思いませんでした。普通はお酌をするので、もっと離れていますよ?」
「酒よりもメイが欲しい」
「とかいって、私のことも盃のことも離していません。ユークリッド様は欲張りですね」
「そうだ。メイの全ては俺のものだ」
ユークリッドはメイに深く口づける。
盃を手放し、愛する妻を逃がさないようにしっかりと抱きしめながら。
「いやはや」
「お熱いことで」
「イース風の夜会は素晴らしいですわね」
「愛が溢れていますわ」
ラウドラントとイースの関係を示すように、皇太子夫妻は仲睦まじい。
そうでなくては困る。
両国民はラウドラントとイースが平和的に一つになることを望んでおり、そのために必要な子どもの誕生を期待していた。
「これほど熱烈となると、結婚式の前か?」
「さすがに結婚式の後では?」
「赤子の容貌はラウドイースだろうか?」
「イースラウドかもしれませんわね?」
夜会出席者は楽しい未来を予想しながら盛り上がるのだった。
取り合えず、甘い系のお話で。やぶへびだったらすみません。
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