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第8話 古文書のキラメキ

「フィンレイ様! 『海の彼方の賢者の国との盟約』について、何か分かったのですの!?」


息を切らして古文書庫に飛び込んだ私を待っていたのは、羊皮紙の山と、その前で腕を組み、したり顔のフィンレイ様。そして、なぜか「私、知ってましたけど?」みたいなドヤ顔(に見える)のセーラ。


(この部屋、相変わらずカビと古紙のハーモニーが絶妙な異空間ね……。私の繊細な鼻が、悲鳴を上げてるんですけどぉ!)


「アリア様、落ち着かれよ。さすれば道は開かれん…こともございます」

フィンレイ様は、いつも通りのポーカーフェイスで、しかしどこか楽しそうに勿体ぶる。もう、早く教えてくださいな! こっちは期待値MAXで心臓バクバクなんですから!


「それで、フィンレイ様! その、世紀の大発見かもしれないものとは、一体……!?」

前のめりで詰め寄る私に、フィンレイ様は一枚の、それはもう古めかしい羊皮紙をそっと差し出した。それは、先日「開かずの間」で見つけた、初代公爵レグルス様の日記の続きのページらしかった。


「こちらに、このような記述が。例の『星詠みの石』らしきものと、あの不思議な絵 に関する追記と思われます」


ゴクリ、と私とセーラは息をのむ。フィンレイ様が指し示した箇所には、震えるような文字でこう記されていた。


『……かの賢者の国より贈られし「星詠みの石」は、真の名を「海神の涙のかけら」という。月に一度、満月の夜に星々の光を映す時、かの石は微かに熱を帯び、海の彼方、隠されし「常若とこわかの島」への道筋を、心清き者にのみ示すとぞ。彼の地には、万病を癒す薬草、尽きぬ食料、そして、我らが想像も及ばぬ知恵が眠るという……』


「と、常若の島……!? 万病を癒す薬草ですって!?」

それってつまり、お父様の病も治せるかもしれないってことじゃないの!?

それに、「尽きぬ食料」に「想像も及ばぬ知恵」ですって!?

そんなものがアクアティアの手に入ったら、ネプトゥーリア王国だって、もう馬鹿にできないんじゃ……!


(私のハッタリが……私のハッタリが、本当に国を救うスーパーアイテムに進化するかもしれないの!? ウソから出たマコト、キターーーーッ!)


「フィンレイ様、これって……!」

「あくまで伝説、おとぎ話の類でございます、アリア様。されど……」

フィンレイ様は、そこで言葉を区切り、私と、そしていつの間にか私の背後に控えていたカイ様の顔を交互に見た。

(え、カイ様、いつの間に!? 気配消しすぎ! 忍者なの!?)


「……されど、このアクアティアの危機的状況において、たとえ僅かな可能性であっても、試してみる価値はあるやもしれませぬな。特に、ネプトゥーリアへの『牽制』としては、これ以上ない材料でございましょう」

ニヤリ、とフィンレイ様の口元が歪む。やっぱりこの人、楽しんでるわよね!?


「カイ様も、そう思われませんかな?」

「……確かに。もしそのような島が実在し、我が国がその恩恵を僅かでも受けることができれば、国防においても大きな意味を持ちます。しかし、まずは情報の真偽を確かめる必要が」

カイ様は、冷静に、しかしその紫色の瞳の奥には、ほんの少しだけ期待の色が揺らめいているように見えた。


(すごい! なんだか、本当に道が開けてきた気がするわ! これで、あの腹黒王子にも一泡吹かせられるかも!)


私の心は、一気に晴れやかな青空模様!

……だったのだけど。


執務室に戻り、一人になった途端、あの黒い封筒の存在を思い出してしまった。

机の引き出しの奥に封印した、不気味な黒い影。


(うぅ……やっぱり気になる……。でも怖い……)


さっきまでの高揚感はどこへやら、私の心は再びジメジメの梅雨空模様に逆戻り。

胃も、早速シクシクと存在を主張し始めている。仕事熱心ね、私の胃。


「アリア様、お茶をお持ちいたしましたわ」

セーラが、タイミング良く(悪く?)入ってきた。


「……セーラ。やっぱり、あの黒い封筒、開けてみた方がいいと思う……?」

「もちろんですわ! 気になって夜も眠れませんもの!」

(いや、私だけだから! あなたはぐっすり眠ってたでしょ!)


セーラに急かされる形で、私は震える手で引き出しから黒い封筒を取り出した。

ああ、やっぱり禍々しいオーラが出てる気がする……。


意を決して、封を破る。中には、一枚だけ、硬質な黒い紙。

そこに、銀色のインクで、たった一行だけ、こう書かれていた。


『満月の夜、港の灯台下にて待つ。アリア・ルミナ・アクアティア、一人で来られたし』


「ひっ……!」

差出人の名前はない。でも、この命令口調、そしてこの不気味さ。

まさか……ネプトゥーリアの腹黒王子!? でも、何のために?


(一人で来い、ですって……? これ、絶対罠じゃないの!? 行ったら最後、海の底に沈められちゃうんじゃ……!)


私の顔から、サァーッと血の気が引いていく。

せっかく古文書庫で希望の光が見えたと思ったのに、今度は真っ黒な闇からの招待状って……。


私の領主ライフ、一難去ってまた一難どころか、常に複数の災難が同時進行してるんですけどぉ!?

胃薬、もう一箱追加しないとダメかもしれないわ……。

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