第7話 黒い封筒の恐怖!と、意外な救世主(?)登場の予感
「今度はなんなのよぉ!? もう、私の平穏な(仮面)領主ライフは、どこ行っちゃったのぉぉぉ!」
私の絶叫は、きっとアクアティアの青い空に虚しく響き渡ったことでしょう。ええ、響き渡りましたとも。だって、目の前には、見るからに「怪しいです」オーラを放つ、真っ黒な封筒。宛名も差出人もない、この不気味な存在が、私の机の上に鎮座ましましているのですから!
(ひぃぃぃ、開けたくない! 絶対に開けたくないんですけどぉ!)
仮面の下で、私の顔はきっと引きつりまくっているはず。だって、昨日の蛇のネックレスといい、今日のこの封筒といい、立て続けに不審物(?)が送り付けられるなんて、どう考えても普通じゃない! これ、絶対に何かの陰謀よ! ネプトゥーリアの腹黒王子が、また何か仕掛けてきたに違いないわ!
「アリア様、いかがなさいましたか? 大きな声が聞こえましたが……」
心配そうに部屋に入ってきたのは、筆頭侍女のセーラ。私の忠実なる右腕(そして心の友)。
「セ、セーラ……見てちょうだい、これ……」
震える指で、黒い封筒を指し示す私。
「あら、また何かお届け物ですの? アリア様はおモテになりますわねぇ」
なんて、のんきなことを言っているセーラ。いやいやいや、この状況で「モテる」なんて言葉、絶対に出てこないでしょ! 普通!
「違うのよ、セーラ! これはきっと、ネプトゥーリアからの挑戦状か、呪いの手紙か、もしくは……えっと、えっと、とにかく良からぬものに決まってるのよ!」
「まあ、落ち着いてくださいませ、アリア様。まずは中身を確かめてみませんと」
セーラは、意外と落ち着いている。むしろ、ちょっとワクワクしているように見えるのは、私の気のせいかしら?
(うぅ……開けるの怖い……でも、領主たるもの、ここで怯んではいられないわよね……たぶん)
私は意を決して、黒い封筒に手を伸ばす。……と、その時。
「アリア様、失礼いたします! フィンレイ様より緊急のご伝言が!」
バタバタと慌ただしく部屋に飛び込んできたのは、若い伝令の兵士。ナイスタイミング! ……なのかしら?
「緊急の伝言ですって? いったい何事ですの?」
仮面を装着し直し、できるだけ威厳のある声で問いかける私。内心は、黒い封筒のことでドキドキが止まらないんだけど!
「はっ! それが……その、先日アリア様がご発案なさいました、『海の彼方の賢者の国との盟約』の件で、進展がございまして!」
「なんですって!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。え、え、え、あのハッタリ……じゃなかった、あの名案に進展ですって!?
「フィンレイ様が、城の古文書庫で、それらしき記述を発見されたとのこと! 至急、ご確認いただきたいと!」
「わ、分かりましたわ! すぐに参ります!」
黒い封筒のことなんて、一瞬で頭の片隅に追いやられ(いや、本当はまだ怖いんだけど)、私は勢いよく立ち上がった。だって、あの「何か」が、本当に「何か」になるかもしれないビッグチャンスじゃないの!
「セーラ、例の封筒は、後で私が確認しますわ。あなたはフィンレイ様のところへ先に行って、わたくしがすぐに向かうと伝えてちょうだい!」
「かしこまりました、アリア様!」
セーラが部屋を飛び出していくのを見送って、私はチラリと黒い封筒に視線を送る。
(……今は、こっちが優先よね!)
私は、まるで重要な証拠物件でも扱うかのように、そーっと黒い封筒を机の引き出しにしまい込み(もちろん鍵付きの奥の奥よ!)、意気揚々とフィンレイ様が待つ古文書庫へと向かったのだった。
私の領主ライフ、なんだかんだでトラブル続きだけど、たまには良いことだってある……はず! ……だといいなぁ。




