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第59話 王の決断、そしてアクアティアに本当の夜明け

謁見の間は、

息もできないほどの、

重い、重い沈黙に支配されていた。

ネプトゥーリア国王オルドゥスは、

玉座に座したまま、

ただ、じっと、私を見つめている。


その、獅子のような瞳の中で、

プライドと、怒りと、

そして、冷徹なまでの、

為政者としての計算が、

激しく渦巻いているのが、

私にも、分かった。


(……お願い……!)

(私の、この小さな声が、

どうか、この強大な王に、届いて……!)


どれくらいの時間が、

経っただろうか。

永遠にも思える、沈黙を破り、

王は、ついに、

その重い口を、開いた。


「……面白い」

その声は、もはや、

怒りを含んではいなかった。

「実に、面白い小娘だ。

アリア・ルミナ・アクアティア と、言ったか」


「……その条約案、

このわしが、自ら、目を通そう。

フィンレイとやら、前へ」


その一言で、

謁見の間の空気が、

ガラリと、変わった。

ネプトゥーリア の重臣たちが、

信じられない、という顔で、

自らの王を見つめている。


その日から、数日間。

ネプトゥーリア の王城で、

両国の、未来を賭けた、

真剣な、そして、

対等な立場での交渉が、

続けられた。


フィンレイ様 は、

これまでの鬱憤を晴らすかのように、

その老練な交渉術で、

ネプトゥーリアの外交官たちを、

次々と、論破していく。

(すごいわ、フィンレイ様!

まるで、水を得た魚のよう!)


そして、私も、

ただ、黙って座ってはいない。

交渉の、重要な局面で、

アクアティア公国 の領主として、

決して、譲れない一線について、

自らの言葉で、はっきりと主張した。


武力ではなく、信頼を。

支配ではなく、共存を。

奪い合うのではなく、

分かち合う、未来を。


私の、その青臭い理想論を、

ネプトゥーリアの重臣たちは、

最初は、鼻で笑っていた。

だが、私たちの背後に、

静かに、しかし、

絶対的な存在として控える、

ケンタ殿 と、

そして、窓の外を舞う、

巨大な竜、リュウガ の姿が、

私の言葉に、何よりも重い、

説得力を与えていた。


そして、ついに、

全ての交渉が終わり、

新たな条約が、結ばれる日が来た。


そこに記されたのは、

・これまでの、全ての不平等な条約の、完全な破棄。

・ネプトゥーリア王国による、アクアティア公国への公式な謝罪と、賠償。

・テオン王子 の身柄の返還と、その国内での厳正な処罰。

・そして、両国の、対等な立場での、新たな通商条約の締結。

私たちの、完全な勝利だった。


調印式の後。

オルドゥス王は、

私だけを、自らの私室へと招いた。

もちろん、護衛として、カイ様 と

ケンタ殿 も、一緒だ。


「……アリア姫」

王は、玉座にいる時とは違う、

どこか、一人の父親のような、

穏やかな顔をしていた。

「……おぬしは、わしにも、

そして、我が息子にも、ないものを、

持っておるようだな」


「それは、一体、何でしょう?」


「……分からん。

だが、それこそが、

これからの時代を、

治める者に、必要なものなのかもしれんな」

王は、そう言って、

寂しそうに、少しだけ笑った。


その笑顔は、

あの、腹黒い息子のものとは、

全く違う、

不器用で、そして、

人間味のある笑顔だった。


ネプトゥーリア の王都を、

旅立つ日。

港には、オルドゥス王自らが、

見送りに来ていた。

その隣には、もはや、

何の権力も持たない、

ただの青年となった、テオンの姿もあった。

彼は、最後まで、

私と、目を合わせようとはしなかった。


私たちの船が、港を離れていく。

あの、威圧的だった、

黒鉄の街並みが、

朝日を浴びて、

なぜか、少しだけ、

優しく、輝いて見えた。


アクアティアに、

本当の、夜明けが来たのだ。


私は、甲板の上で、

昇り始めた、温かい太陽を、

全身に浴びていた。

もう、仮面 は、いらない。

私の、素顔を、

照らしてくれる光が、

こんなにも、たくさん、あるのだから。


私の胃は、

もう、ずっと、痛んでいなかった。

代わりに、お腹が、

高らかに、ぐぅ~、と鳴った。

それは、新しい時代の始まりと、

そして、美味しい朝食への期待を告げる、

世界で一番、平和で、

幸せな、ファンファーレだった。

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