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第56話 ただいま、私のアクアティア!そして、新たな時代のファンファーレ

数日後。

私たちの船『さざなみ号』は、

懐かしい、アクアティア公国 の港へと、

ついに、帰還した。


空には、守護神のように、

巨大な竜、リュウガ が舞い、

私たちの船を、静かに導いている。


港町の様子は、

私たちが旅立つ前と、

変わらないように見えた。

しかし、人々の表情に浮かぶ、

暗い、諦めの色は、

まだ、消えてはいない。


私たちの船が港に着くと、

すぐに、ネプトゥーリア王国 の

「行政顧問団」と、その護衛兵たちが、

威圧的な態度で、取り囲んできた。


「何者だ、貴様ら!

許可なく、この港に船を着けるとは!」


しかし、彼らのその傲慢な声は、

すぐに、驚愕と混乱へと変わった。

船のタラップから、

ゆっくりと、姿を現した、

私たち一行を見て。


先頭に立つのは、私。

もう、その顔に、

『領主の仮面』 はない。

私の、素顔。

アリア・ルミナ・アクアティア として。


そして、私の後ろから、

捕虜として、縄につながれた、

あの、テオン王子 が、

うなだれながら、引きずり出されてきたのだから。


「なっ……!

テ、テオン王子殿下!?

一体、これは、どういうことですかな!?」

顧問団の男が、狼狽して叫ぶ。


その、彼の頭上を、

リュウガ が、低く、威嚇するように、

グルルル……と、喉を鳴らした。

それだけで、ネプトゥーリア兵たちは、

恐怖に顔を引きつらせ、

一歩も、動けなくなってしまった。


私は、町の広場へと向かい、

不安げに、そして、

何が起きたのかと、遠巻きに見ている

民たちに向かって、

ゆっくりと、語りかけた。


私の、本当の声で。


「アクアティアの民よ!

わたくしは、アリア・ルミナ・アクアティア。

ただいま、帰還いたしました!」

私の声は、まだ、少し震えていたかもしれない。

でも、私は、逃げなかった。


「長きに渡り、皆さんを、

ネプトゥーリア の、理不尽な圧力の下、

苦しめてしまったこと、

領主代行として、心より、お詫び申し上げます」

私は、深く、深く、頭を下げた。


「しかし、その、暗く、長い夜も、

もう、終わりです!」

私が、顔を上げると、

民の、驚いたような、

そして、信じられない、というような

視線が、私に突き刺さる。


「我が国に伝わる、海の神の御力と、

そして、新たに現れた、

心強き、空からの同盟者によって、

アクアティアを脅かす、元凶は、

今、ここに捕らえられました!」


私は、テオン王子 の罪状を、

全て、明らかにはしなかった。

ただ、事実だけを、告げる。


「これより、アクアティア公国は、

新たな時代を迎えます!

もう、誰かの言いなりになることも、

理不尽に、富を奪われることもありません!」

「私たち自身の力で、

この国を、豊かで、

そして、誇りある国へと、

再建していくのです!

どうか、皆さん、

わたくしに、力を貸してください!」


私の、魂からの叫び。

広場は、水を打ったように静まり返っていた。


やがて、どこからか、

小さな、拍手が一つ、聞こえた。

それは、やがて、二つになり、三つになり、

そして、波のように、

広場全体へと、広がっていった。

それは、やがて、

割れんばかりの、大きな歓声へと変わった。


「アリア様ー!」

「よくぞ、ご無事で!」


その、温かい声援に、

私の目から、熱いものが、

止めどなく、溢れてきた。


その日の夜。

城の執務室。

私は、フィンレイ様 、カイ様 、

そして、ケンタ殿 と、

今後の、最終的な方針について、

話し合っていた。


「テオン王子 を人質に取った今、

我々は、ネプトゥーリア 本国と、

対等な立場で、交渉することができます」

フィンレイ様 が、静かに言う。

「これまでの、不平等な条約を破棄し、

新たな、公正な関係を築くのです」


「ですが、相手は、あの海洋大国。

一人の王子を失ったとて、

逆上し、大軍を差し向けてくる可能性も」

カイ様 が、懸念を口にする。


「その時は、僕たち『ドラゴン便』が、

アクアティアの空を守ります」

ケンタ殿 が、穏やかに、しかし、

力強く、約束してくれた。


「……交渉の使節団は、

わたくし自身が、率いていきます」

私は、きっぱりと、宣言した。


「アリア様!?」

カイ様 が、驚きの声を上げる。

「なりません! 敵国の本拠地へ、

自ら赴くなど、あまりにも危険すぎます!」


「いいえ、カイ様 。

これは、わたくしが、

始めなければならないことなのです」

私は、まっすぐに、カイ様 の目を見つめた。

「仮面を捨てた、素顔の私が、

一国の主として、

彼らと、対等に向き合うのです」

「それが、この国と、

そして、わたくし自身の、

本当の『夜明け』に繋がると、

信じておりますから」


私の、揺るぎない決意に、

カイ様 も、フィンレイ様 も、

もはや、何も言わなかった。

ただ、静かに、

深く、頷いてくれた。

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