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第55話 戦いの終わり、そして素顔の私の審判

古代遺跡の、円形の広場。

そこには、勝者も、敗者もいなかった。

ただ、あまりにも大きな真実の前に、

呆然と立ち尽くす、

小さな、人間たちがいるだけだった。


私は、ゆっくりと、

地面にへたり込んだままの、

テオン王子 の前へと、歩み寄った。

その顔には、もう、

かつての傲慢な笑みはない。

あるのは、野望が砕け散った、

空っぽの、絶望の色だけだった。


カイ様 が、私の前に立ちはだかろうとするのを、

私は、そっと手で制した。


「……テオン王子」

私の、素顔の、本当の声。

それは、まだ、少しだけ震えていたかもしれない。


「あなたが、ずっと追い求めていた『力』は、

誰かを支配したり、

国を滅ぼしたりするためのものでは、

ありませんでした」

「それは、海を守り、

生命を育むための、

ただ、ひたすらに、穏やかで、

優しい力だったのです」


「……うるさい……」

テオン王子が、うわごとのように呟く。

「そんなもので、国が作れるか!

理想だけでは、何も守れはしないのだ!」


「ええ、そうかもしれませんわね」

私は、静かに頷いた。

「ですが、力だけでも、

本当の豊かさは、得られない。

あなたの国、ネプトゥーリア王国 が、

その、何よりの証拠です」


私は、テオン王子を見下ろすのをやめ、

彼の目線まで、そっと、

膝を折った。


「……わたくしは、

あなたを、裁きはしません」

「え……?」

意外な言葉に、

テオン王子だけではなく、

カイ様 やフィンレイ様 までもが、

息をのんだのが分かった。


「その代わり、あなたと、

あなたの部下の方々には、

しばらく、アクアティア公国 のために、

働いていただきます」


「なんですって……?」


「あなた方が、力で奪おうとした、

我が国の、海の恵み。

それを、今度は、あなた自身のその手で、

育て、守り、そして、

民と分かち合うということを、

学んでいただきます」

「それが、あなたが、

この星のことわりに対して犯した罪の、

唯一の、償い方ですわ」


それは、処刑よりも、

投獄よりも、

彼の、歪んだプライドにとっては、

もっと、ずっと、厳しい罰だったかもしれない。

テオン王子は、何も言えず、

ただ、呆然と、私を見つめていた。


その後、私たちは、

ケンタ殿 、そしてリオさんたちと、

この島の、そして、

この古代の遺物の、今後について話し合った。


この場所と、この力は、

誰か一人が、一つの国が、

独占していいものではない。

それは、もう、全員が理解していた。


「僕たちの目的だった『深淵の水晶』は、

持ち出すことはできないけれど……」

ケンタ殿 が、少し寂しそうに、

でも、晴れやかな顔で言った。

「この場所で得られた知識と、

この星の生命の循環の仕組みが分かっただけでも、

故郷に持ち帰るには、十分すぎるほどの成果です」


「では、この島は……」


「ええ。ひとまずは、

我々『語り部』の一族が、

誰にも知られることなく、

静かに、見守りましょう」

リオさんが、そう提案してくれた。


こうして、私たちの間に、

アクアティア公国 と、『ドラゴン便』、

そして『語り部』の一族による、

新たな、そして、固い同盟が、

正式に結ばれたのだ。


私たちは、テオン王子とその部下たちを

捕虜として、

再び、『さざなみ号』に乗り込んだ。

目指すは、私たちの国、アクアティア。


船の上から、

霧の向こうへと、再び姿を隠していく

『賢者の隠れ島』を見つめる。


(さようなら、仮面の私)

私は、心の中で、そっと呟いた。

もう、あの仮面 は、必要ない。


これから、アクアティアに戻れば、

もっと、たくさんの困難が

待ち受けているだろう。

ネプトゥーリア王国 本国との、

厳しい交渉も待っている。


でも、もう、怖くはない。

私には、カイ様 がいる。

セーラ がいる。

フィンレイ様 がいる。

そして、新しく出会った、

心強い、仲間たちがいるのだから。


私は、アクアティアの、

青い海を見つめた。

その海は、来た時よりも、

ずっと、ずっと、

温かく、そして、優しく、

輝いているように見えた。


私の胃は、もう、痛まなかった。

代わりに、お腹が、

高らかに、ぐぅ~、と鳴った。

それは、未来への、希望と、

そして、純粋な空腹を告げる、

生命力に満ちた、ファンファーレだった。

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