第54話 潮騒の真実、そして仮面なき私の声
「――これが、わたくしの、決断ですわ!」
私の、震える、しかし、
迷いのない声が、
戦いを忘れた、静かな遺跡に響く。
私は、青い石――
『海神の涙』のかけら を、
祭壇の上の、石の円盤の窪みへと、
そっと、はめ込んだ。
カチリ、と。
乾いた、小さな音がした。
その瞬間だった。
円盤から放たれる光が、
これまでの比ではないほど、
眩しく、強く、世界を白く染め上げる!
島が、いや、世界そのものが、
ゴゴゴゴゴ……と、
地響きのように、激しく揺れた!
「アリア様!」
カイ様 の、悲痛な叫びが聞こえる。
(ごめんなさい、カイ様……)
(でも、これが、私が選んだ道なの)
しかし、私たちが予想していたような、
破壊的なエネルギーの暴走は、
起こらなかった。
光が、ゆっくりと収まっていく。
そして、私たちの脳裏に、
直接、穏やかで、
そして、どこか物悲しい、
不思議な声が、響き始めたのだ。
『……我が声を聞く者よ』
『我らは、かつて、この地に生きた、
海の民。賢者の国の末裔……』
それは、この祭壇に眠る、
古代の意志が遺した、
メッセージだった。
『この祭壇と、月の雫(=海神の涙)は、
兵器ではない。
ましてや、富や権力を与える、
魔法の道具でもない』
『これは、この星の、
海の、生命の循環を司る、
巨大な調停装置……。
そして、我らが、未来の子供たちへと遺した、
ささやかなる、祈りの形』
声は、語り続ける。
この装置の力を、私欲のために使おうとすれば、
海のバランスは崩壊し、
世界は、終わりのない嵐と、
死の海に覆われるだろう、と 。
「……なんだと……」
その、あまりにも壮大な真実に、
私たちは、ただ、言葉を失う。
これが、『海神の涙』 の、
そして、この島の、本当の姿……。
私たちが、命がけで守ろうとし、
そして、ネプトゥーリア が、
血眼になって奪おうとしていたものの、
本当の意味。
「……馬鹿な……」
最初に、我に返ったのは、
テオン王子 だった。
その顔は、信じられない、という
驚愕と、
そして、自らの野望が、
根底から覆されたことへの、
激しい怒りで、醜く歪んでいた。
「……ふざけるなッ!!」
「こんなものが、兵器ではないだと!?
ただの、お花畑な理想論だとでも言うのか!」
「ならば、その力を、
この私が、無理やり、引きずり出してやる!」
テオン王子は、正気を失ったように、
祭壇へと、駆け出した!
その手には、ギラリと光る剣が握られている。
あの、石の円盤を、
破壊するつもりなのだ!
「やめなさい!」
私が叫ぶのと、
カイ様 やケンタ殿 が
動くよりも、早く。
ゴオオオオオオッ!!
祭壇そのものが、輝き、
テオン王子の前に、
光の壁が出現した!
そして、同時に、
天から、瑠璃色の巨体――リュウガ が、
テオン王子の目の前に舞い降り、
その行く手を、完全に塞いだのだ!
「グルルルルル……ッ!」
リュウガ の、
大地を揺るがすような唸り声と、
殺気にも似た、鋭い眼光。
「ひっ……!」
さすがのテオン王子も、
その、絶対的な存在を前にして、
腰を抜かしたように、
その場に、へたり込んだ。
戦いは、終わった。
武器ではなく、
この星が、古より守ってきた、
大きな、大きな真実によって。
私は、もう、
『領主の仮面』 を必要とはしなかった。
自分の足で、しっかりと立ち、
自分の目で、目の前の現実を見つめ、
そして、自分の声で、
未来を、語らなければならないのだから。
私は、ゆっくりと、
絶望に顔を染める、
かつての宿敵へと、歩み寄った。




