第50話 決着、そして霧の向こうの約束の地
天から降り注ぐ、
一筋の、瑠璃色の流星。
ケンタ の叫びに応え、
相棒のリュウガ が放った、
渾身の一撃だった。
その蒼き炎の槍は、
私が掲げた、石の円盤の光に
引き寄せられるように、
完全に動きを止めていた、
大海蛇の、
一番巨大な首の、その眉間へと、
寸分の狂いもなく、突き刺さった!
ギシャアアアアアアアアアアッ!!!
これまで、聞いたこともないような、
断末魔の絶叫が、
海と空を、震わせる。
大海蛇 は、
全ての首を、苦しみに、もがき、くねらせ、
巨大な尾で、海面を叩きつけた。
船が、木の葉のように、
激しく、激しく揺れる!
「アリア様!」
カイ様 が、私を庇うように、
強く、その腕で抱き寄せる。
セーラ とフィンレイ様 も、
必死でマストに掴まっていた。
やがて、大海蛇の、
あの暴威に満ちていた動きが、
ゆっくりと、弱まっていく。
その、山のように巨大な体は、
力なく、海の中へと、
ずぶずぶと、沈んでいった。
そして、あれほど荒れ狂っていた
巨大な渦も、
まるで、何事もなかったかのように、
すぅっと、その姿を消した。
後に残されたのは、
信じられないものを見た、という
呆然とした表情の私たちと、
そして、穏やかさを取り戻した、
静かな、静かな海だけだった。
「……やった」
誰かが、そう呟いた。
それを皮切りに、
『さざなみ号』の甲板は、
割れんばかりの歓声に包まれた!
「やったぞー!」
「大海蛇を、やっつけたぞ!」
船長のリオも、その仲間たちも、
抱き合って、勝利を喜んでいる。
その瞬間、私の体から、
ふっと、力が抜けた。
ずっと、張り詰めていた、
緊張の糸が、ぷつりと切れたのだ。
(あ……れ……?)
ぐらり、と傾いた私の体を、
背後から、カイ様 が、
優しく、しかし、力強く支えてくれた。
「アリア様! ご無事ですか!?」
「アリア様!」
セーラ とフィンレイ様 も、
血相を変えて、駆け寄ってくる。
「……だ、大丈夫ですわ」
私は、仮面 の下で、
なんとか、そう答える。
「それより、みんな、無事……?」
「ええ! あなた様のおかげで!」
リオが、満面の笑みで、
私に親指を立てて見せた。
船のクルーたちも、
カイ様 の部下の騎士たちも、
誰もが、私に、
尊敬と、感謝の眼差しを向けている。
(……私の、おかげ……?)
(私が、みんなを……?)
空から、ケンタ とリュウガ が、
ゆっくりと、降りてきた。
「見事なご指揮でした、アリア様」
ケンタ は、心からの敬意を込めて、
私に、そう言ってくれた。
「あなたの、あの瞬間の判断がなければ、
僕たちも、危なかったかもしれません」
(……そ、そんな……)
(私は、ただ、ヤケクソで叫んだだけなのに……)
私が、戸惑っていると、
フィンレイ様 が、ハッとしたように、
前方の海を指さした。
「アリア様! あれを!」
見ると、さっきまで、
ただ、水平線が広がっていただけの場所に、
立ち込めていた濃い霧が、
晴れていくように、
ゆっくりと、その姿を変えていた。
そして、その霧の向こうから、
一つの、緑豊かな、
美しい島が、
まるで、蜃気楼のように、
その全貌を、現したのだ!
「……あれが」
「……『賢者の隠れ島』……!」
古文書に記された、約束の地。
私たちの、最後の希望。
それは、確かに、
私たちの目の前に、存在していた。
『さざなみ号』は、
新たな希望を乗せて、
その、幻の島へと、
ゆっくりと、進み始めた。
私は、カイ様 に支えられながら、
その、夢のような光景を、
ただ、見つめていた。
胃の痛みは、いつの間にか、
どこかへ消えていた。
代わりに、胸の奥から、
温かくて、そして、
力強い何かが、
込み上げてくるのを感じていた。




