第48話 新たな仲間と、星の海路、そして穏やかな時間
こうして、私たちの船『さざなみ号』は、
にわかには信じがたい、
しかし、あまりにも心強い「仲間」を
新たに加えることになった。
その仲間とは――
一頭の、巨大な瑠璃色の竜、リュウガ 。
そして、その背に乗る、
黒髪の好青年、ケンタ 殿。
彼らが言うには、
故郷では『ドラゴン便』 という、
運送業のようなものを
営んでいるらしい。
(ドラゴンが……運送業……?)
(なんだか、スケールが大きすぎて、
私の貧弱な想像力が、
全く追いついていかないんですけどぉ!)
船の上は、昨日までとは、
全く違う、不思議な空気に満ちていた。
セーラ は、最初こそ、
巨大なリュウガ に腰を抜かしていたけれど、
今では、興味津々といった様子で、
「リュウガ様は、何を召し上がるのですか?」
なんて、遠巻きに話しかけている。
(セーラ 、そのコミュニケーション能力、
少し、私にも分けてほしいわ……)
フィンレイ様 は、
ケンタ 殿や、吟遊詩人のリオさんと、
羊皮紙の星図を囲んで、
熱心な議論を交わしていた。
ケンタ 殿が持っているという、
不思議な知識や道具は、
フィンレイ様 の知的好奇心を、
大いに刺激しているようだ。
そして、カイ様 は……。
うん、いつも通り、
私の斜め後ろに、岩のように立って、
ケンタ 殿たちから、
片時も、視線を離さない。
その瞳には、まだ、
完全には解けていない、
深い警戒の色が浮かんでいた。
「……さて、アリア様」
ケンタ 殿が、穏やかな声で、
私に話しかけてきた。
「僕たちの目的地、
どうやら、はっきりしたようですよ」
フィンレイ様 たちの解読によると、
私たちが起動させた、
あの石の円盤が示した星図は、
やはり、特定の場所を指し示す
『海図』だったらしい。
その場所は、
既知の、どんな地図にも載っていない、
南の果て。
古の伝承で、
『賢者の隠れ島』と呼ばれる、
幻の島だという。
「よし、決まりだな!」
船長のリオが、楽しそうに叫ぶ。
「全速前進!
目指すは、おとぎ話の島だ!」
『さざなみ号』は、
新たな目的地へと、帆を大きく広げた。
ケンタ 殿とリュウガ は、
私たちの、心強い道案内役として、
船の上空を、悠々と舞っている。
その巨大な翼が、
私たちを、どこまでも、
安全な場所へと導いてくれるようだった。
その日の午後。
私は、一人、船べりで、
どこまでも広がる、青い海を眺めていた。
ネプトゥーリア王国 の追っ手の気配は、
もう、どこにもない。
(なんだか、久しぶりに、
こんなに、穏やかな気持ちに
なれた気がするわ……)
(胃の痛みも、少しだけ、
マシになってるみたい……)
「……アリア様」
ふと、隣に、ケンタ 殿が
音もなく立っていた。
背後のリュウガ は、器用にも、
船のマストに止まって、
気持ちよさそうに、うたた寝をしている。
(器用すぎるでしょ、ドラゴン……)
「あの……差し支えなければ、
一つ、お聞きしても?」
ケンタ 殿が、少し、
言いにくそうに切り出した。
「その仮面……アリア様は、
なぜ、いつも、
それを着けていらっしゃるのですか?」
「……!」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
今まで、誰も、
そんな風に、真っ直ぐに、
私に尋ねてきた人はいなかったから。
「こ、これは、その……。
アクアティア公国 の、
領主が身に着ける、
伝統的な、儀礼装束ですので……」
私は、しどろもどろに答える。
いつもの、決まり文句。
「……そうですか」
ケンタ 殿は、それ以上は、
何も聞いてこなかった。
ただ、その優しい瞳が、
仮面の下にある、
本当の私を、
見透かしているような気がして、
私は、なぜか、胸が苦しくなった。
「……ケンタ殿こそ」
私は、話題を変えるように、尋ねた。
「なぜ、そこまでして、
『深淵の水晶』を、求めるのですか?」
すると、ケンタ 殿は、
少しだけ、遠い目をして、
でも、力強い声で、答えた。
「僕の故郷と……
そこに住む、大切な仲間たちを、
守るためです」
その、静かで、
でも、揺るぎない覚悟。
それは、今の私が、
一番、欲しいものなのかもしれない。
穏やかな海の上で、
私たちは、しばらく、
言葉もなく、ただ、
水平線の彼方を、見つめていた。
しかし、その穏やかな時間は、
長くは続かなかった。
「ケンタ! 前方に、何かあるぞ!」
上空のリュウガ から、
念話のようなもので、警告が飛んでくる。
ケンタ 殿の表情が、一変する。
その視線の先。
穏やかだったはずの海面が、
不自然に、大きく、
渦を巻き始めているのが見えた。
そして、その渦の中心から、
海が、不気味に、
盛り上がってきている……!
(な、なにあれ……!?)
(ネプトゥーリアじゃない……!)
(もっと、別の、
巨大で、恐ろしい、何かが……!)
私の胃は、せっかく訪れた休息時間を、
無情にも打ち破られ、
再び、全力で、
けたたましい警報を鳴らし始めたのだった。
もう、本当に、いい加減にしてほしいわ!




