第47話 謎の来訪者「ドラゴン便」! 彼らの目的と、アリアの未来は
ネプトゥーリア王国 の船が去った、
嵐の後のような静けさの中。
私たちは、吟遊詩人リオの船『さざなみ号』の上で、
空に浮かぶ、巨大な竜と、
その背に乗る青年――ケンタ と、
なんとも言えない、
緊張感に満ちた対面をしていた。
(ドラゴン……)
(やっぱり、大きい……。少し、怖い……)
(でも、あのテオン王子 よりは、
ずっと、誠実そうな目をしているわ……)
カイ様 は、依然として、
私をかばうように、剣の柄に手をかけたまま、
警戒を解いていない。
フィンレイ様 は、探るような目で、
ケンタ と、そして、
巨大な竜、リュウガ を、
じっと観察している。
セーラ は、私の袖を、
ぎゅっと、強く握りしめていた。
「……まずは、あなた方のお話を
聞かせていただけますか」
「わたくしは、アリア・ルミナ・アクアティア。
このアクアティア公国 の領主代行です」
私は、『領主の仮面』 の奥で覚悟を決め、
これまでの経緯――
ネプトゥーリア からの圧力、
父である先代領主のこと、
そして、私たちが、
国の最後の希望である、
古代の遺物を、
彼らの手から守ろうとしていたことを、
正直に、話した。
私の話を、静かに聞いていたケンタ は、
やがて、深く、そして優しく頷いた。
「……そうでしたか。
ご事情は、よく理解できました。
大変な思いをされてきたのですね」
「実は、僕たちも、
あるものを探して、
はるか北東の国から、長い旅をしてきたのです」
「探しているもの……ですって?」
「はい。『深淵の水晶』と呼ばれる、
伝説の遺物です。
それは、莫大なエネルギーを秘め、
僕たちの故郷の、未来を切り開く鍵になる」
「僕たちは、あなた方が、
あの光の柱を上げた時に発生した、
巨大なエネルギーの痕跡を追って、
ここまでやってきたのです」
深淵の水晶……!
フィンレイ様 と顔を見合わせる。
それは、きっと、
私たちが追い求めている、
『海神の涙』 や、
あの海底遺跡のエネルギーと、
同じものか、あるいは、
密接に関係しているものに違いない!
私たちの目的は、
奇しくも、同じだったのだ。
「……では、ケンタ殿」
フィンレイ様 が、一歩前に進み出る。
「我々の目的が同じであるならば、
ここは、一時、
手を組む、という選択肢は、
お考えにはなれませんかな?」
「手を、組む……ですか」
ケンタ の目が、フィンレイ様 を見る。
「我々は、ネプトゥーリア という、
共通の脅威を抱えている。
そして、あなた方が求める『水晶』への
手がかりを、我々は握っている」
「あなた方の、その圧倒的な『力』と、
我々の持つ『情報』。
これを交換するのです。
双方にとって、悪い話ではないはず」
フィンレイ様 の、大胆な提案。
それに、ケンタ は、
穏やかな表情のまま、少し考えた後、
私に向き直って、丁寧に答えた。
「……お話は分かりました。
もし、よろしければ、ですが……」
「僕たち『ドラゴン便』 に、
あなた方のお手伝いをさせていただけませんか?」
「その代わり、もし水晶が見つかった際には、
その力を、僕たちの故郷のためにも、
使わせていただきたいのです。
……いかがでしょうか、アリア様?」
再び、視線が、私に集まる。
アクアティア の、そして、
私の運命を左右する、
あまりにも、大きな決断。
カイ様 は、まだ、
警戒を解いていない。
得体の知れない、強大すぎる力を、
安易に信じるべきではない、と
その目が語っている。
(どうすれば……)
(この人を、信じていいの……?)
(でも、今の私たちに、
他に、どんな道があるっていうの……?)
私は、目を閉じた。
そして、思い浮かべたのは、
ネプトゥーリ の圧政に苦しむ、
民の、暗い顔。
そして、私を信じて、
命を賭けてくれた、
仲間たちの顔だった。
私は、ゆっくりと目を開けると、
ケンタ の瞳を、まっすぐに見つめ返した。
「……分かりましたわ、ケンタ殿」
「その提案、お受けいたします」
「このアリア・ルミナ・アクアティアの名において、
あなた方、『ドラゴン便』と、
同盟を結ぶことを、ここに誓いましょう」
仮面の下で、私は、
人生で、一番の賭けに、出た。
私の言葉に、ケンタ は、
「ありがとうございます、アリア様」
と、心から安堵したように、
柔らかく、微笑んだ。
そして、その背後で、
巨大な竜、リュウガ が、
まるで、その誓いを祝福するかのように、
低く、しかし、力強く、
一声、天に向かって、咆哮した。




