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第42話 迫る足音と、星空の地図、そして最後の脱出路

「家屋の強制捜査ですって!?」


伝令兵の報告に、

隠し部屋の空気は、再び凍りついた。

天井に映し出された、

美しい星空の地図が、

まるで、私たちを閉じ込める、

巨大な檻のように見える。


(まずいわ! まずいわよ、これ!)

(せっかく、お宝をゲットしたのに、

セーブする前にラスボスに見つかった、

みたいな状況じゃないのぉ!)

(リセットボタンはどこ!?

私の人生の、リセットボタンは!)


「アリア様 、落ち着いてください!」

セーラ が、私の手を強く握る。

その手の温かさで、

私は、なんとかパニックの淵から

引き戻された。


「フィンレイ様 、

この部屋は、安全ですの!?」

「……城の設計図にも載っておらぬ、

古の隠し部屋。

そう簡単に見つかることはないはず。

ですが、万が一ということも……」

フィンレイ様 の言葉が、重く響く。


「カイ様 、この円盤と石を、

もっと安全な場所へ!」

「いえ、アリア様。

今、これを動かすのは危険です。

下手に動かせば、

かえって発見される危険性が高まる」

カイ様 の判断は、冷静で的確だ。

(うぅ、こういう時の、

カイ様 の頼もしさは異常だわ……)


私たちは、まず、

光と音の原因である、

円盤から青い石をそっと取り外した。

すると、天井の星図と、

部屋に流れていたメロディは、

すぅっと消えてなくなる。

部屋には、再び、

ロウソクの灯りだけの、

重い沈黙が戻ってきた。


「……問題は、これからどうするか、ですわ」

私は、『領主の仮面』 を装着し、

気持ちを無理やり切り替える。

司令官である私が、

ここでメソメソしていてはダメなんだから!


「あの星図とメロディ……。

あれが、『真実の道』を示す、

手がかりであることは間違いありません」

フィンレイ様 が、記憶を頼りに、

羊皮紙に星図を写し取りながら言う。

「ですが、この星の配置……。

アクアティア公国 から見えるものとは、

明らかに異なっております。

これは、どこか別の場所の星空か、

あるいは、特定の場所へ向かうための

『海図』そのものか……」


「……メロディよ」

私は、はっと気づいた。

「あのメロディが、

この星図の読み方を教えてくれるんだわ!」

「ほら、見てください!

星の、特に強く輝いている部分の並びが、

あのメロディの、音階の上下と、

不思議と一致している気がしませんこと!?」


これは、前世で、

退屈な会議中に、

資料の数字の羅列から、

隠れた法則性を見つけ出すのが

得意だった、私の特殊スキルよ!

(何の役にも立たないと思ってたけど、

こんなところで、花開くなんて!)


私の指摘に、

フィンレイ様 が、ハッとしたように

星図と、彼が書き留めた楽譜を

見比べる。

「……なんと!

確かに、この音の連なりを線で結ぶと、

星図の上に、一つの航路が浮かび上がる!」

「この航路が示す先は……

地図に載っていない、

アクアティア南方の、未知の海域!」


「そこだわ!

そこに、私たちの目指すべき場所があるのよ!」

私たちが、新たな発見に色めき立った、

その時だった。


コン、コン……。

遠くから、何かを叩く音が、

微かに聞こえてきた。

ネプトゥーリア の兵士たちが、

壁を叩きながら、

隠し部屋を探している音だ!


「……!」

部屋に、緊張が走る。

足音が、少しずつ、

こちらに近づいてくる。


「……もう、ここにいるのは限界ですわ」

私は、覚悟を決めた。

「この城から、脱出します!」


「ですが、アリア様!

城下は、完全に封鎖されております!」

セーラ が、悲痛な声を上げる。


「……一つだけ、道がございます」

静かに口を開いたのは、カイ様 だった。

「この城が建てられた時、

万が一のために作られた、

古い、秘密の通路が。

父から、私だけが、

その場所を託されておりました」


「カイ様……!」


「その通路は、城の地下深くから、

港の、あの『潮騒の洞窟』の

近くへと続いております。

ですが、何十年も使われていない道。

無事に抜けられる保証は……」


ドンドン!

すぐ近くの壁から、

何かを強く叩く音がした!

もう、すぐそこまで、

敵が迫っている!


「……保証なんて、今更ですわ」

私は、円盤と石を、

フィンレイ様 とカイ様 が、

それぞれ、布で幾重にも巻いて、

背負うのを確認した。


そして、仮面の下で、

強く、強く、唇を噛む。


(怖い……。でも、行くしかない!)

(希望は、この城の中には、もうないんだから!)


「カイ様、案内をお願いいたします。

……行きましょう、私たちの『未来』へ!」


私の言葉に、

カイ様 は、力強く頷いた。

彼は、隠し部屋の、

さらに奥にある石壁の一点を、

強く、押し込んだ。


ゴゴゴゴ……。

重々しい音と共に、

壁が、ゆっくりと動き始める。

その向こうには、

カビ臭い、ひんやりとした空気を纏った、

真っ暗な、闇の入り口が、

大きく、口を開けていた。

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