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第39話 運命の夜、そして作戦は静かに始まった

三日後。

運命の夜が、来た。


空には、雲が厚く垂れこめ、

月も星も見えない。

まるで、私たちの、

この無謀な計画を、

天が隠してくれているかのようだった。


城の隠し部屋。

ロウソクの灯りが、

私たちの、緊張に強張った顔を

ぼんやりと照らし出している。


「……時間ですわ」

私は、『領主の仮面』 の上から、

覚悟を決めた声で告げた。

その声が、震えていなかったことを

祈るばかりだ。


「フィンレイ様 、陽動をお願いいたします」

「……御意」

フィンレイ様 は、深く頷くと、

闇の中へと静かに消えていった。


「セーラ 、城内の撹乱を」

「お任せください、アリア様!」

セーラ も、いつになく真剣な表情で、

部屋を飛び出していく。


そして、カイ様 。

彼は、すでに、

セーラ が用意したネプトゥーリア王国 の

下級兵士の制服を、完璧に着こなしていた。

その姿は、いつもの凛々しい騎士の彼とは、

まるで別人だ。


「カイ様……どうか、ご無事で」

「……アリア様 のため、

このアクアティア公国 のために。

必ずや、成し遂げてご覧にいれます」

カイ様 は、そう言うと、

闇よりも深い夜の中へと、

音もなく溶け込んでいった。


(……みんな、行っちゃった)

(私の、突拍子もない作戦のために、

命を賭けてくれている)

(怖い。怖い。怖くて、

今すぐ全部やめにしてって叫びたい!)

(でも……! 信じるしかないんだから!)

(みんなを、そして、私自身を!)


作戦は、静かに、

しかし、確実に動き出した。


まず、港の、

ネプトゥーリア旗艦から最も離れた倉庫で、

「原因不明の火災」が発生した。

フィンレイ様 が手配した、

燃えやすい廃材と、少量の油による、

完璧な放火(ボヤ騒ぎ)だ。

夜空に、赤い炎と黒い煙が立ち上る。


すぐに、港に駐留していた

ネプトゥーリアの警備隊が、

慌てて消火活動に向かい始めた。

港は、一気に喧騒に包まれる。


ほぼ、時を同じくして。

アクアティア城内では、

「大変! ネプトゥーリアの顧問様が、

お部屋で倒れられたそうですわ!」

「えっ!? 食あたりですって!?」

という、セーラ が流したデマが、

あっという間に広まっていた。

城内の兵士たちも、右往左往だ。


そして、その混乱に乗じて、

カイ様 は、一匹の黒猫のように、

闇に紛れて海を泳ぎ、

ネプトゥーリア旗艦の、

計算し尽くされた死角から、

音もなく船上へと侵入していた。


全ては、計画通り。

ここまでは。


カイ様 は、船内を、

記憶した通りの最短ルートで進み、

目的の、テオン王子の私室へと続く通路に

たどり着いた。


そして、通路の入り口で、

事前に仕込んでおいた、

錬金術師特製の『発煙筒』と『灼熱石』を

作動させる。


ボッ!という鈍い音と共に、

目に染みる、刺激臭のある煙が、

あっという間に通路に充満し、

周囲の温度が、肌を焼くように上昇する。


そして、カイ様 の部下の一人が、

計画通り、狂乱したように叫びながら、

通路を駆け抜けた。

「火事だー! 火事だー!

王子のお部屋の近くから火が出たぞー!」


船内は、一気にパニック状態に陥った。

怒号と、悲鳴と、

けたたましい警鐘の音が入り乱れる。


そして……。

通路の奥、テオン王子の私室の扉の前に、

鉄壁のように立ち塞がっていた、

あの『沈黙のギデオン』の耳にも、

その異常事態は、確かに届いていた。


彼は、鋼のように表情を変えない。

だが、その眉が、ほんのわずかに

ピクリと動いたのを、

闇に潜むカイ様 は、見逃さなかった。


主君の危機。

自らの持ち場。

忠誠と、任務。


最強の騎士の心に、

ほんの一瞬、生じた、迷い。


次の瞬間、ギデオンは、決断した。

彼は、その場を離れ、

煙が立ち上る、通路の奥へと、

主君の安否を確認するために、

疾風のごとく駆け出した!


(……今だ!)


鉄壁の騎士が、その持ち場を離れた。

時間は、ない。

ほんの数十秒。

いや、数秒かもしれない。


カイ様 は、闇の中から飛び出し、

今や、がら空きとなった、

テオン王子の私室の扉へと、

その手を、かけた。


私たちの、そして、

アクアティアの運命を決める、

最後の扉が、

今、開かれようとしていた。


私の胃は、もはや、

痛みという感覚すら、失っていた。

ただ、心臓の音だけが、

うるさいくらいに、

私の耳の中で、鳴り響いていた。

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