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第35話 無謀な姫君と、忠臣たちの攻防

「……わたくしたちが、あの『円盤』を、

彼らの手から、奪い返します!」


私の、あまりにも無謀な宣言に、

執務室は、氷のように凍りついた。

フィンレイ様 は、絶句したまま固まり、

カイ様 は、これまで見たこともないほど、

厳しい、怒りの色を宿した目で、

私を射抜いていた。


(……うぅ、分かってるわよ!)

(無茶苦茶なこと、

言ってるってことくらい!)

(でも、でも、もうこれしか……!)


「……なりませぬ」

重い沈黙を破ったのは、カイ様 だった。

その声は、低く、そして硬い。

「アリア様 、そのような危険な作戦、

断じて許可できません。

万が一、アリア様 のお身に

何かあれば、それこそ、

この国は終わりですぞ!」


「そうです、アリア様 」

フィンレイ様 も、我に返ったように続く。

「相手は、海洋大国ネプトゥーリア 。

彼らの旗艦に忍び込み、

重要物を奪うなど……

成功の確率は、天文学的に低い。

失敗すれば、即、戦争の口実を

与えることになりましょう。

あまりにも、リスクが高すぎます」


(正論!

二人の言ってること、

あまりにも正論すぎて、

ぐうの音も出ないわ!)

(でも、ここで引き下がったら……!)


私は、仮面 の奥で、ぐっと唇を噛んだ。

ここで、いつもの気弱な私が出てきてはダメ。

今こそ、腹を括る時なんだから!


「お二人のご懸念、ごもっともですわ。

ですが、このまま何もしなければ、

どうなりますこと?」

私は、静かに、しかし強く問いかける。


「あの円盤は、おそらく『海神の涙』 と

対になる、古代の遺物。

テオン王子が、その事実に気づくのも、

時間の問題でしょう」

「そして、私たちが『鍵』である

『海神の涙』 のかけらを持っていると知られたら?

彼は、国中をひっくり返してでも、

それを奪いに来るに決まっておりますわ」


「……それは」

カイ様 が、言葉に詰まる。


「待っているだけでは、

破滅がやってくるのを、

ただ指をくわえて見ているのと同じ。

それならば、たとえ僅かな可能性でも、

わたくしは、未来を掴むための行動を

起こしたいのです!」

「これは、リスクの高い賭けではありません。

何もしないという『確実な敗北』を避けるための、

唯一の選択なのですわ!」


(どうだ!

これぞ、前世で培った、

OL的リスクマネジメント論法よ! )

(会議で、面倒な仕事を押し付けられそうになった時に、

よく使ってた言い回しだけどね!)


私の必死の(そして、ちょっとズレてる)説得に、

フィンレイ様 とカイ様 は、

押し黙ってしまった。

その表情には、まだ納得できないという

葛藤の色が浮かんでいる。


「……それに、わたくしは、

ただ闇雲に突撃しろ、と

言っているのではありませんわ」

私は、一枚の羊皮紙を取り出した。

そこには、私が昨夜、

寝ずに考えた、作戦の骨子が

書きなぐってある。


「まず、第一段階。情報収集。

フィンレイ様 の情報網と、

カイ様 の部隊を使い、

円盤の正確な保管場所、

警備体制、船内の見取り図などを、

徹底的に洗い出します」


「第二段階。陽動。

ネプトゥーリア の注意を、

旗艦から逸らすための、

大規模で、しかし、

決してこちらに非があるとは思わせない、

巧妙な陽動を計画します」


「そして、第三段階。潜入と奪還。

陽動に気を取られた、ほんの僅かな隙を突き、

カイ様 率いる少数精鋭の部隊が、

目標を確保し、離脱する……」


私の説明に、二人は目を見張る。

それは、あまりにも無謀で、

あまりにも綱渡りな計画。

まるで、物語の中のお話みたいだ。


でも、その瞳の奥に、

先ほどまでの、ただの反対ではない、

「……万が一、これを成功させるとしたら?」

という、戦略家としての光が、

ほんの少しだけ、灯ったように見えた。


「……アリア様 」

カイ様 が、ついに折れたように、

深い、深いため息をついた。

「……もし、この作戦を実行なさるのであれば、

潜入部隊は、この私一人で行きます。

部下たちを、無駄死にさせるわけにはいきません」


「カイ様 !?」


「そして、アリア様 には、

決して、危険な場所へはお近づきにならぬと、

固く、お約束いただきます。

それが、私がこの無謀な作戦を飲む、

唯一の条件です」


その、覚悟を決めた、

力強い瞳に見つめられて、

私は、何も言えなくなってしまった。


こうして、アクアティア公国 の

命運を賭けた、

史上最も無謀で、

最も困難な「奪還作戦」の計画が、

静かに、そして、確かに、

動き出したのだった。


私の胃は、もう、痛みを通り越して、

無の境地に達している。

うん、きっと、これなら、

どんなプレッシャーにも耐えられるわよね!

……絶対に、無理だけど!

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