表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/61

第34話 円盤と窪みと石、そして絶望的に無謀な計画

カイ様 が持ち帰った、

一枚の、粗末なスケッチ。

そこに描かれた、

ネプトゥーリアが引き揚げたという、

古代の石の円盤。


そして、その中央に空いた、

一つの、丸い窪み……。


「……この形……」

私は、その窪みから、

目が離せなくなっていた。


「……この大きさと、深さ……」

「……この、わずかに湾曲した縁の角度……」


(まさか……! まさか、そんな……!)


私の脳裏に、

鮮明に思い浮かんだものがあった。

それは、父の書斎の奥、

あのホコリだらけの「開かずの間」で見つけた、

あの、青くて美しい石。

フィンレイ様 が、「星詠みの石」やもしれぬ、

と推測した、あの不思議な石だ。


(ぴったり、はまるんじゃないの……?)

(あの石が、この円盤の『鍵』だっていうの!?)


「ど、どうかなさいましたか、アリア様?」

私のただならぬ様子に、

カイ様 が、心配そうに声をかける。


「カイ様! フィンレイ様!

すぐに、あの『開かずの間』へ!」

私は、半ば叫ぶようにして、

二人を促した。


城の奥、再び開かれた「開かずの間」。

私は、厳重に保管してあった木箱の中から、

あの青い石を取り出した。

手のひらに乗せると、

やはり、ほんのりと温かい。


そして、カイ様 が広げた、

円盤のスケッチの上に、

そっと、その石を置いてみる。


「「「……!」」」


その場にいた、私、カイ様、フィンレイ様 、

そしてセーラ の誰もが、息をのんだ。


まるで、あつらえたかのように。

寸分の狂いもなく、

石は、窪みの絵と、

ぴったりと重なったのだ。


「……やはり、そうでしたか」

フィンレイ様 が、ゴクリと喉を鳴らす。

「この石は、やはりただの石ではなかった。

古代遺跡の、中枢を担う、

重要な『鍵』だったのですな」


「だとしたら、カイ様。

この石こそが……」


「……ええ。おそらくは、

伝説の『海神の涙』 、

そのものか、あるいは、

極めて重要な一部である可能性が高いでしょう」


海神の涙……。

それが、今、私のこの手の中に……。

アクアティア公国 を救うかもしれない、

最後の希望。


でも、同時に、

それは、新たな絶望の始まりでもあった。


(どうしよう……!)

(『鍵』は、私たちの手の中にある)

(でも、『錠前』である、あの円盤は、

敵であるネプトゥーリアの、

しかも、あの腹黒王子の手の中なのよ!?)


なんて、意地の悪い神様の悪戯なのかしら!

これじゃあ、お互いに、

何もできないじゃないの!

完全な、手詰まり……!


「……いや、待てよ」

フィンレイ様 が、ハッとしたように顔を上げた。

彼は、書庫から持ち出してきた

別の古文書を、慌ててめくり始める。


「あった……これだ!

『円盤は月の器、雫は太陽の魂。

二つが重なり、真の力が解放される時、

持ち主は、海を治めることわりを得る』……と」


海を治める理……!

それほどの力が、この石と円盤に……!


「しかし、続きがございます。

『ただし、雫を持たぬ者が、

力ずくで器を開けようとすれば、

器は砕け散り、大いなる厄災を招く』……と」


「なんですって!?」


つまり、テオン王子が、

あの円盤を無理やりこじ開けようとしたら、

貴重な遺跡が、

回復不能なまでに破壊されてしまうかもしれない、

ということ!?


(まずいわ……!

あの腹黒王子のことだから、

いつ、そんな無茶な行動に出るか分からない!)

(しびれを切らして、

『えーい、ままよ!』って、

やっちゃいかねないわ、あの人なら!)


時間は、ない。

待っているだけでは、

最悪の未来がやってくるだけ。

私たちが、動くしかないんだ。


「……アリア様?」

私の、ただならぬ覚悟を察したのか、

カイ様 が、心配そうに私の顔を覗き込む。


私は、青い石を、ぎゅっと握りしめた。

そして、顔を上げ、

『領主の仮面』 を装着すると、

きっぱりと、宣言した。


「……作戦を変更いたしますわ」


「フィンレイ様、カイ様。

もはや、隠れて情報を集めている

時間はありません」

「ネプトゥーリアが、

『鍵』の存在に気づく前に……

あるいは、彼らが取り返しのつかない過ちを

犯してしまう前に……」


「私たちが、あの『円盤』を、

彼らの手から、奪い返します!」


私の、あまりにも無謀で、

あまりにも危険な提案に、

フィンレイ様 は絶句し、

カイ様 は、これまで見たこともないほど、

厳しい顔つきで、私を見つめていた。


(……分かってる。

無茶なことを言ってるってことくらい)

(でも、もう、これしか道はないのよ!)

(私の胃は、とっくに限界を超えてるんだから!)

(怖いものなんて、もう、何もないんだからね!)


……ううん、やっぱり、

ネプトゥーリアも、カイ様の怒った顔も、

すっごく、すっごく怖いです、神様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ