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第30話 無謀な作戦

『月の雫、星の導きを失いし時、

始原の祭壇にて、潮騒は真実の道を示す』


私の、前世の地味なOLスキル によって

解き明かされた、古代からのメッセージ。

それは、絶望の闇の中に灯った、

あまりにもか細く、しかし、

確かに輝く希望の光だった。


「……つまり、こういうことかしら」

私は、仮面を着け、

目の前の三人の腹心たち――

フィンレイ様 、カイ様 、そしてセーラ に、

私の推理を語って聞かせた。


「『月の雫』が、おそらくは『海神の涙』 のこと 」

「『始原の祭壇』は、

ネプトゥーリア が占拠している、あの海底遺跡」

「そして、『潮騒が真実の道を示す』というのは、

私たちが探している、

失われたメロディや音色が鍵になる、ということ……!」


私の言葉に、三人はゴクリと喉を鳴らす。

うん、なんだか私、

名探偵みたいでカッコイイじゃない!

(まあ、半分以上、ただの憶測だけどね!)


「しかし、アリア様。

最大の問題が二つございます」

フィンレイ様 が、冷静に指摘する。

「一つは、『星の導きを失いし時』とは、

具体的にいつのことなのか」

「そして、もう一つは、

どうやって、ネプトゥーリア の監視をかいくぐり、

海底の『始原の祭壇』に近づくか、です」


うっ……。

そうだったわ。

一番肝心なところが、

全く解決してないんだった……。

(私の名探偵ごっこ、わずか三十秒で終了のお知らせ)


「『星の導きを失いし時』……。

星が、何らかの理由でその力を失う……。

古の天文学や、占星術に関する

古い文献を調べる必要がございますな。

それは、私にお任せを」

フィンレイ様 が、眼鏡の奥の瞳を光らせる。

さすが、頼りになるわ!


「祭壇への接近は……」

カイ様 が、厳しい表情で口を開く。

「ネプトゥーリア の警備は、日夜を問わず鉄壁。

正面から近づくのは、不可能でしょう。

……何か、彼らの注意を逸らすための、

大規模な『陽動』が必要になります」


陽動……。

それは、あまりにも危険な賭けだ。

一歩間違えれば、

ネプトゥーリアとの全面衝突に

発展しかねない。


どうすれば……。

みんなが、難しい顔で黙り込んでしまった、

その時だった。


「あの……アリア様」

おずおずと手を挙げたのは、セーラ だった。

「もし、『潮騒が道を示す』というのが、

特定の音やメロディのことでしたら……。

必ずしも、祭壇の真上まで

行く必要はないのではございませんか?」


「え……?」


「つまり、その……。

ある程度、離れた場所からでも、

その音を海に響かせることができれば、

祭壇の何かが、反応してくれる、

ということは……考えられませんでしょうか?」


セーラ の、その素朴な疑問に、

私は、ハッとした。


そうだわ!

何も、潜水調査艇で乗り込む必要はないのよ!

私たちが知りたいのは、

「真実の道」がどこにあるのか、ということだけ!


「……セーラ、あなた、天才よ!」

「えっ!? い、いえ、私はただ、

思ったことを言っただけで……!」

私がセーラ の両手を握ってぶんぶん振ると、

彼女は顔を真っ赤にしていた。


「カイ様!

ネプトゥーリア の監視が、

比較的、手薄になる場所はありませんこと!?」

「……岬の裏側、

『竜の寝床』と呼ばれる岩礁地帯ならば。

潮の流れが複雑で、

大型船は近づけませぬ。

小型の船ならば、あるいは……」


「フィンレイ様!

『星の導きを失いし時』、

何か分かりましたか!?」

私の問いに、書庫へ駆け込んでいた

フィンレイ様 が、息を切らせて戻ってきた。


「見つけましたぞ、アリア様!

古い星見の記録に、ございました!

『年に一度、海神祭 の夜更け、

天頂の月が、海の真珠を隠す時、

全ての星は、しばしその導きを失う』と!」


海神祭 の夜……!

それは、もう数日後に迫っている!

全てのピースが、

今、一つに繋がった!


「……作戦を立てますわ」

私は、仮面の位置を直し、

きっぱりと宣言した。


「第一段階。カイ様 は、

『海神祭』 の警備と称して、

ネプトゥーリアの注意を、

港の中心部へと引き付けてください」

「第二段階。その隙に、私とカイ様 の二名で、

小型の船に乗り、『竜の寝床』へと向かいます」

「そして、第三段階。

フィンレイ様 が算出した時刻に、

私が、あの『清めの鈴』 を使って、

古のメロディを奏でますわ!」


私の、あまりにも無謀で、

大胆不敵な作戦に、

その場の誰もが、言葉を失っていた。


(……怖い。正直、怖くて足がすくみそう)

(でも、やるしかないのよ!)

(これが、今の私たちにできる、

唯一の、そして最大の反撃なんだから!)


アクアティア公国 の運命を賭けた、

Xデーは、もうすぐそこ。

私の胃は、緊張のあまり、

もはや何も感じなくなっていた。

うん、きっと、これが最終形態なのね……。

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