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第22話 逆風びゅーびゅー!いざ行かん、初めての外国

「一口食べれば、あなたもマーメイド!」

……このキャッチコピー、

我ながらどうかと思うけれど、

アクアティアの子供たちには大ウケで、

「海の宝石プロジェクト」の試作品は、

港町でちょっとしたブームを巻き起こしていた。


(ふふふ、私のネーミングセンスも、

捨てたもんじゃないわね!)

(……いや、やっぱり気のせいかもしれないけど)


そんな、ほんのりとした希望の光に

包まれていた私のもとに、

フィンレイ様が、苦虫を百匹くらい

噛み潰したような顔でやってきた。


「アリア様……申し上げにくいのですが」

(その前置き、絶対良からぬ報告ですよね!?)

(私の胃が、キュゥっと縮こまる音がしたわ!)


フィンレイ様の報告によると、

最近、アクアティアの特産品を

扱おうとしていた他国の商人たちが、

次々と取引をキャンセルしてきているらしい。

理由は、「品質への懸念」だとか、

「もっと魅力的な商品が見つかった」だとか……。


「……そんなの、嘘に決まってますわ!」

私が声を荒らげると、フィンレイ様は静かに頷いた。


「おっしゃる通りかと。

おそらくは、ネプトゥーリアによる

横槍でしょうな。

彼らは、我が国の『海の宝石プロジェクト』を

快く思っておらず、

あらゆる手段で妨害してくるつもりのようです」


(やっぱりーーーっ!)

(あの腹黒王子、やることが陰湿すぎる!)

(私のささやかな希望を、

いとも簡単に踏みにじるなんて!)


「このままでは、せっかくのプロジェクトも

絵に描いた餅になってしまいますわ……」

私は、がっくりと肩を落とす。


「……アリア様」

沈黙を破ったのは、カイ様だった。

「ネプトゥーリアの監視が厳しい国内や、

彼らの影響力が強い交易ルートに頼るのではなく、

我々自身が、新たな道を切り開く必要がございます」


「新たな道……ですって?」


「はい。幸い、この大陸には、

ネプトゥーリアの覇権を快く思わない国も

少数ながら存在いたします。

そのような中立国と、

直接、外交交渉を行うのです。

我が国の産物の魅力を伝え、

新たな交易相手を見つけることができれば……」


カイ様の提案に、

フィンレイ様も深く頷く。

「確かに、それしか道はないやもしれませぬな。

幸い、西に位置する緑豊かな『ヴェリディア王国』は、

古くから中立を保ち、

独自の文化と交易を重んじる国として知られております。

彼らならば、あるいは……」


ヴェリディア王国……。

聞いたことのない国だわ。

でも、なんだか、

一筋の光が見えてきたような気がする!

(……またすぐに暗雲に変わるかもしれないけど!)


「分かりましたわ!

わたくしが、そのヴェリディア王国へ

外交使節として参ります!」

私は、勢いよく宣言した。

もちろん、仮面の下の顔は、

不安で引きつりまくっているけれど!


こうして、アクアティア公国初の

(そして、たぶん最後の? いやいや弱気はダメ!)

対外使節団が、急遽結成されることになった。

メンバーは、もちろん私(団長・仮面装着必須)。

そして、補佐としてフィンレイ様、

護衛としてカイ様と数名の騎士、

そして、身の回りのお世話係として、

ちゃっかりセーラもついてくることになった。

(セーラは、完全に観光気分だけどね!)


出発までの数日間は、

それはもう、目の回るような忙しさだった。

ヴェリディア王国に関する資料を読み漁り

(もちろん、ほとんどフィンレイ様頼み)、

外交儀礼のマナーを叩き込まれ

(セーラに厳しく指導されたわ……)、

そして、「海の宝石プロジェクト」の

選りすぐりの試作品たちを、

これでもかと外交用のトランクに詰め込んだ。

(銀鱗魚の干物、匂いがちょっと心配だけど……)


そして、いよいよ出発の朝。

港には、多くの民が見送りに来てくれていた。

彼らの不安そうな、でもどこか期待のこもった眼差しが、

私の胸にズシリと重くのしかかる。


(大丈夫、私ならできる……!)

(ううん、私と仮面様なら、きっとやれるはず!)

(……たぶん、いや、プリーズ!)


船は、アクアティアの民の声援を後に、

ゆっくりと港を離れていく。

目指すは、西の国、ヴェリディア王国。

私の、そしてアクアティアの運命を賭けた、

初めての外交の旅が、今、始まろうとしていた。


……船酔い、大丈夫かしら。

それだけが、今の最大の心配事よ。

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