第13話 黒船(じゃないけど黒いオーラは同じ)来航!
「ネプトゥーリアの調査船団が……
近日中に、アクアティアの港に……入港ですって!?」
伝令兵の報告を聞いた瞬間、
私の頭の中は、真っ白を通り越して、
エラーコードの嵐が吹き荒れた。
(調査船団!? しかも護衛艦付き!?)
(それって、もはや脅しじゃないの!?
完全に、カツアゲに来るチンピラと一緒じゃないのぉぉぉ!)
「アリア様、お気を確かに!」
セーラが、私の肩を優しく支えてくれる。
うん、今、支えがないと、へなへなと床に崩れ落ちてたわ、私。
「落ち着いてください、アリア様。
まずは詳細を伺いましょう」
フィンレイ様が、冷静な声で促す。
さすがです、フィンレイ様。
こういう時でも、眉一つ動かさないなんて。
(その冷静さ、少し分けてほしいんですけど……)
「兵によれば、ネプトゥーリア曰く、
『アクアティア近海の安全確保と、
双方の利益となる共同資源調査のため』とのこと。
入港の日時は、三日後だそうです」
カイ様が、苦虫を噛み潰したような顔で報告する。
三日後!?
心の準備も、胃薬の準備も、
何もできてないんですけどぉ!
「共同資源調査……ですって?
そんなの、どう考えても、
我が国の資源を丸裸にして、
根こそぎ持っていくための口実に決まってますわ!」
私は、怒りで声を震わせながら言った。
もちろん、仮面様パワーのおかげで、
かろうじて領主らしい威厳は保てている……はず。
「アリア様のおっしゃる通りかと存じます」
フィンレイ様が頷く。
「ネプトゥーリアの狙いは、
我が国の海底資源の把握、
沿岸防衛体制の査察、
そして何より、アクアティアに対する
影響力を内外に誇示することでしょうな」
うぅ……的確な分析、ありがとうございます。
でも、それが余計に私の胃をキリキリさせるのよ!
「拒否することは……できませんの?」
か細い声で尋ねる私。
「現状の国力差では、難しいでしょう。
下手に拒否すれば、それを口実に、
より強硬な手段に訴えてくる可能性もございます」
カイ様の言葉が、重くのしかかる。
(ですよねー! 知ってたー!)
(でも、このまま黙って、
好き放題させるわけにはいかないじゃないの!)
「……分かりましたわ。
船団の受け入れは、やむを得ないでしょう。
ですが、ただ黙って見ているわけではありません」
私は、ぐっと拳を握りしめる。
「フィンレイ様、カイ様。
ネプトゥーリアの『共同調査』が、
真に『共同』であることを、
彼らに骨の髄まで思い知らせる準備をいたしますわよ!」
(おおっ、なんか私、すごいこと言ってる!?)
(でも、具体的にどうするのよ、私ぃ!?)
「と、申しますと?」
フィンレイ様が、眼鏡の奥の瞳を光らせる。
「まず、調査団には、必ず我が国の文官と騎士を同席させ、
彼らの行動を逐一記録、監視いたします。
そして、ネプトゥーリアが欲しがりそうな情報……
例えば、我が国の貧弱な財政状況や、
乏しい軍備の実態などを、
これでもかというほど『丁寧』に説明して差し上げるのですわ」
(名付けて、『無い袖は振れませんのよ、残念でしたわね作戦』よ!)
「ふむ……それは一興ですな。
彼らが期待するほどの『お宝』などないと知れば、
多少は失望するやもしれませぬ」
フィンレイ様が、わずかに口角を上げる。
「それから、カイ様。
調査団が港に滞在する間、
騎士団には、これ見よがしに『質素倹約訓練』を
行っていただきますわ。
内容は……そうね、ひたすら港の掃除とか、
城壁の補修作業とか、そんな感じで」
「……はあ。それは、いかなる意図で?」
カイ様が、怪訝な顔をする。
「ネプトゥーリアに、
『アクアティアの騎士団は、戦どころか日々の訓練にも事欠くほど、
貧乏暇なしなのでございます』と、
アピールするためですわ!」
(名付けて、『うちの騎士団、マジ貧乏なんで見逃してください作戦』よ!)
私の必死の(そしてちょっとズレてる)抵抗策に、
フィンレイ様は肩を震わせ、
カイ様は……なんとも言えない表情で天を仰いだ。
セーラだけが、「さすがですわ、アリア様!」と
キラキラした瞳で私を見つめている。
うん、やっぱりセーラが一番の味方ね!
そして、運命の三日後。
アクアティアの港に、
ネプトゥーリアの、それはもう威圧感たっぷりの調査船団が、
黒い影のように姿を現した。
その旗艦の甲板には、
あの腹黒王子、テオン殿下の姿も見える気がする……。
(ひぃぃぃ、やっぱり来たわね、ラスボス級の疫病神が!)
私の胃は、すでに限界を超えて、
悲鳴すら上げられない状態だった。
アクアティアの、そして私の明日はどっちだ!?




