085 佐藤と鈴木
冒険者になるには、冒険者学校を卒業しなくてはならない。
しかし――
「それは日本に限った話であって、他の国ではそうじゃないの! そもそも冒険者の養成所が存在する国のほうが少ないくらい! で、そういう国では冒険者学校を卒業しなくても冒険者になれるわけ!」
「なるほど。それで、この前の海外旅行中に冒険者になったわけですか」
ソウマはあることを思い出した。
(そういえば、前にシオンたちがそんな話をしていたな。海外でクエストをこなしてレベル上げをしている人がいるとかなんとか……)
ソウマは知らないけれど、帝栄にいる生徒の大半が、ユキと同じように海外で冒険者資格を取得していた。
「ソウマくんはまだ冒険者じゃないでしょ? 冒険者学校の生徒だから。でも、私はもう冒険者! だから私のことを先輩として敬ってくれてもいいよ!」
ユキは腰に手を当て、「えっへん」と胸を張った。
「よくわからないけどすごいです! ユキ先輩!」
「そんなわけでソウマくん、冒険者特区に行って狩りをしよう!」
「はい!」
「私は武器を持っていないから、ソウマくんの武器を貸してね!」
「わかりました! ちなみにユキ先輩、ジョブは何にしたんですか?」
「ガンナー!」
「ガンナー?」
ソウマの知らないジョブだった。
「なんか最近になって開発されたらしいよ! 銃の形をした武器に魔石を装着して戦うの! 魔石の力を攻撃に変換するみたい!」
「おー! なんかカッコイイ!」
「でも、肝心の銃を買うには資格が必要で、私はその資格要件を満たしていないから買えなかったんだー!」
「なるほど、それで武器がないと……」
「うん!」
「事情を把握しました! では、いざ冒険者特区へ!」
「おー! でも、その前に目玉焼き! ソウマくん、あーん!」
「あーん!」
パクッ。
目玉焼きを堪能したあと、ソウマとユキは冒険者特区に向かった。
◇
「へぇ、ここが冒険者特区かー!」
冒険者特区に入ってすぐにユキが言った。
「外国の特区とは違いますか? そもそも外国には特区があるのかな?」
「どうなんだろう? 私、冒険者の申請もオンラインで済ませたから知らないんだよねー!」
「ええっ……!」
「それより魔物はどこ!? 冒険者と言えば魔物退治でしょ!」
「魔物と戦うには、受付でクエストを受けてダンジョンに転移する必要があります! でも、俺は冒険者学校の生徒だからできなくて、建前上はユキ先輩に引率してもらう形になります!」
「なんだか難しそう! 佐藤! 鈴木!」
突然、ユキは二人の名を呼び、指をパチンと鳴らした。
すると、どこからともなく二人の黒服が現れた。
黒いスーツに身を包んだ筋骨隆々の大男だ。
以前、ソウマに迫ったレイカやシオンを連れ去った二人組である。
「「お嬢様、お呼びでしょうか?」」
黒服がロボットのごとく同じタイミングで口を開いた。
「ソウマくんとクエストを受けるから手続きをしてちょうだい! パパがうるさいと思うから、あなたたちも同伴でかまわないわ!」
「「御意」」
二人の黒服が受付に向かう。
「あの人たち、佐藤さんと鈴木さんっていうんだ……!」
ソウマは初めて名前を知った。
「私のボディーガード! すごく優秀だよー!」
「昔はいませんでしたよね?」
「一応、いたんだよー! いつも見えないところから私の警護をしてくれているの!」
「そうだったんですか。でも、俺たちがへんてこボクサーに絡まれたときは出てこなかった気が……」
「あれは私が呼ばなかったからだよー! 呼ばない限り出てこないように指示していたから!」
「なるほど」
「あと、呼ぶ前にソウマくんが対処しちゃったし! あのときのソウマくん、本当にかっこよかったなぁ」
ユキは当時のことを思い出してニヤけた。
それから、ソウマの腕に抱きつき、上目遣いで言う。
「今日もピンチになったら守ってね? ソウマくん!」
「任せてください!」
◇
佐藤と鈴木が手続きを済ませ、ソウマたちはダンジョンに転移した。
四人がやってきたのは、麦色の雑草が生い茂る大草原だ。
敵はスライムやゴブリンなどのザコばかり。
レベルも1と低く、倒しても魔石を落とすことはない。
つまり、どれだけ倒してもお金を稼ぐことはできないわけだ。
しかし、ソウマとユキには関係なかった。
ソウマは今や億万長者であり、ユキはそれ以上の大富豪である。
そして、佐藤と鈴木は感情を持たない黒服だ。
「佐藤、鈴木、私が命令するまで気配を消して!」
「「御意」」
次の瞬間、佐藤と鈴木がスッと消えた。
その消えっぷりは凄まじくて、飛び交う銃弾を目で追えるソウマの動体視力をもってしても捉えきれなかった。
「すご……! ユキ先輩、あの二人は何者なんですか!?」
「優秀なボディーガード!」
「頼もしい……!」
「佐藤と鈴木がいなくなったし、これで二人きりだね!」
ユキは腰の鞘から剣を抜いた。
漆黒の刀身が特徴的な代物で、ソウマのメイン武器だ。
一方、ソウマは剣を抜かなかった。
腰に差しているのは、特区で買った15万円の中古剣だ。
「ユキ先輩、気をつけてくださいね。レベル1といえども相手は魔物です。攻撃を受ければ怪我をしますから」
「了解!」
ユキは剣を両手で持つと、すぐ近くのゴブリンを狙った。
「行くよ! うりゃあああああああああ!」
ユキは駆け出し、麦色の雑草を蹴散らす。
そして、「えいやー!」とゴブリンに剣を振り下ろした。
「ゴブーン!」
ゴブリンは即死だった。
それもそのはずで、ユキが装備している剣は切れ味が凄まじいのだ。
ソウマがミストリアで購入した逸品であり、日本なら1000万円はくだらない。
「やった! 倒した!」
ユキが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
それに合わせて大きな胸がぼいんぼいんと揺れる。
ショートパンツから露出している太もももぷるんぷるんと震える。
それらを眺めるソウマは「ふふん、ふふん」とニヤけた。
「ナイスです! ユキ先輩!」
「これなら私も冒険者としてやっていけるかも!」
喜ぶユキだったが――
「ピュイー!」
スライムが側面から攻撃を仕掛けた。
ゴブリンの仇とばかりに体液を飛ばしてきたのだ。
「ユキ先輩! 避けてください!」
ソウマは咄嗟に〈ライトニング〉でスライムを倒す。
しかし、体液のほうは防ぎようがなかった。
ユキの着ているシャツにベチャっとかかったのだ。
ジュワァ……!」
スライムの体液によって、ユキの服が溶かされる。
もともと胸元の開いている服装だったが、今では正面の布がほとんど消えていた。
モザイク処理をしないといけない部分だけが、奇跡的にも攻撃を受けずに布を残している。
そのせいで、まるで水玉コラージュの加工が施されたグラビア写真のように、正面から見たユキは上半身が裸みたいになっていた。
「やぁん。ソウマくん、やられちゃったよー! お気に入りの服が溶けちゃったんだけど!?」
「ユキ先輩……ナイスです! OKです!」
隠しきれないすけべ心のせいで、ソウマは満面の笑みを浮かべていた。
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