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008 ライトニング

 ソウマとエレナは街に戻ってきた。

 20体のリーフマンを討伐し終え、ギルドで報告を済ませたところだ。


(ぐんぐん強くなっていくな。地球とは大違いだ)


 ソウマは自分のステータスを見て笑みを浮かべた。


-----------------------

【ジョブ】剣士

【レベル】8

【総合力】1682

-----------------------


 総合力が、地球では考えられない伸び方をしている。


(レベルと総合力を掛けた数値は約1万3500。冒険者以外の奴が相手なら、包丁で刺されても無傷でいられそうだ)


 総合力の高まりは、体感的にもよく分かっていた。

 全身からオーラがほとばしっているように感じるのだ。


「ソウマさん、すごく嬉しそうですね!」


 隣を歩くエレナが話しかける。

 彼女のレベルも8に上がっていた。


「そりゃあ、レベルが8になったからな」


「たしかにたくさん上がりましたけど、そんなに嬉しいことですか? レベルなんて普通に過ごしていたら40くらいにはなるものだって言いますよ」


異世界(ミストリア)ではそうなんだろうな」


「ミストリアでは……?」


 エレナには理解できなかった。


「それより、これからどうしますか? クエストの報酬でお金を稼いだわけですし、酒場に行ってパーッと盛り上がりますか!?」


「悪くないアイディアだ。だが、その前にあそこに寄ってもいいか?」


 ソウマは、ちょうど視界に映った店舗を指した。

 看板には杖のイラストとともに「魔法屋」と書かれている。


「お! ソウマさん、魔法を覚えるのですか!」


「いや、俺は剣士だから覚えられないよ。ただ、日本にあるような魔導書があれば、ちょっと立ち読みしたいと思っただけさ」


「ほぇ?」


 エレナは「何を言っているんだ?」と言いたげに首を傾げている。


「すまん、日本というのは――」


「それも気になりますけど、剣士だから魔法を覚えられないってどういうことですか?」


「え?」


 今度はソウマが首を傾げた。


「魔導書を使えば剣士でも魔法を覚えられますよ?」


「マジで!?」


「当たり前じゃないですか」


 ソウマは驚いた。


(地球だとジョブごとに覚えられる魔法が決まっている。剣士の俺は簡単な魔法すら使えないのが常識だ)


「そうだ! 私もせっかくだから新しい魔法を覚えようかな! 攻撃魔法を覚えたら、ヴィネラスに襲われても大丈夫ですからねー?」


 エレナがニヤニヤしながらソウマを見る。


(魔法を使えるのか……! この俺が……!)


 しかし、ソウマはエレナの言葉を聞いていなかった。

 魔法を覚えられるという事実が、それほどまでに衝撃的だったのだ。


「もー! 話に乗ってきてくださいよ!」


 と言いつつ、エレナはソウマの手を引っ張って魔法屋に入った。


 ◇


 魔法屋の内装は、ソウマのイメージとはかけ離れていた。

 てっきり商店街にある小さな本屋のようなものを連想していたのだ。

 本棚に魔導書が並んでいると思っていた。


 しかし、実際の店内には一冊の魔導書すらなかった。

 木のテーブル席が一つあり、そこで老夫婦が世間話をしている。

 そのすぐ隣に受付カウンターがあり、店主の老婆が退屈そうにしていた。


「こんにちはー! 魔導書を買いにきました!」


 エレナが元気よく挨拶する。


「はいよ、好きな物を選びな」


 老婆がソウマたちに右手の人差し指で示す。

 すると、二人の視界にショップウィンドウが表示された。

 ウィンドウには商品の一覧が載っている。


「ソウマさん、どれにしますかー?」


 エレナはウィンドウの端を指でスクロールした。


「安い魔導書だと普通に買えるんだな」


 ソウマは商品の価格に感動していた。


(日本だと数百万円するような魔導書が、ここじゃ1万ゴールドだ。1万ゴールドといえば数日分の生活費だぞ。安すぎる)


 とはいえ、今のソウマは持ち合わせが2万ゴールドしかない。

 食費や宿代を考慮すると、買えるのは1冊だけだった。


「俺は〈ライトニング〉にしよう」


「おー! 雷ですか! ソウマさんは水属性が似合いそうですけど!」


「水属性が似合うってどういう意味だよ」


 エレナは「あはは」と流した。


「ところで、どうして〈ライトニング〉なんですか? グランデルの周辺だと火属性に弱い魔物が多いですし、〈ファイヤーボール〉のほうが良さそうですけど!」


「総合的な使い勝手は〈ライトニング〉のほうがいいと思ったんだよ。〈ファイヤーボール〉と違って周辺の敵を巻き込むことはできないけど、速いから敵を捉えやすいだろ?」


「へぇ、あんた、なかなかいいセンスしてるじゃないの」


 店主の老婆が話に加わる。


「じゃあ、そのセンスに免じて少し安くしてもらえませんか?」


 ソウマはさりげなく値切ってみた。

 貧乏家庭で育った彼は、値下げ交渉が得意なのだ。

 しかし、今回は相手が悪かった。


「いいとも、タダにしてやるよ」


「本当ですか!?」


 興奮するソウマ。

 一方、老婆はニコリと笑った。


「だが、代わりに体で支払ってもらうよ。こう見えてあたしゃ性欲が強くてね。主人に先立たれてからずっと男に飢えとったんじゃ」


「…………」


 ソウマは黙って1万ゴールドを支払った。


 ◇


「魔導書の見た目は日本と全く変わらないんだな」


 ソウマは購入したての魔導書を両手で抱えながら通りを歩く。

 その顔は誕生日プレゼントを貰った子供のように嬉しそうだ。


「ソウマさん、どうしてすぐに使わないのですか? 使わないなら買った意味がないじゃないですか」


「ずっとこの世界にいられるエレナには分からないさ。とはいえ、そろそろ使ってみるか」


 と言いつつ、ソウマは思う。


(使うって表現も不思議な感覚だよな)


 日本だと、魔法を覚えるには魔導書の熟読が必要だ。

 法律書のような分厚い本を必死に読み込んで、ようやく魔法を習得できる。


 ミストリアでは全く違っていた。


「念じるだけでいいんだよな?」


「はい! 私が先ほどしたように強く念じるだけです!」


「オーケー」


 ソウマは右手で魔導書を持つと、目を閉じて念じた。

 すると、魔導書が光の線に変化して、ソウマの体に入り込んだ。


『〈ライトニング〉を習得しました』


 ログが更新される。


「すげぇ、本当に魔法を覚えられた……!」


 ただ覚えただけでなく、発動することも可能だ。

 ソウマは試してみることにした。

 右手を天に掲げる。


「それ! 〈ライトニング〉!」


 手のひらから一筋の稲妻が放たれた。


「きゃっ」


「うお」


 付近の通行人が驚いている。


「ちょっと! ソウマさん! 街の中で魔法を使っちゃダメですよ!」


 エレナが慌てて注意する。


「そうなの?」


「当たり前じゃないですか! 危ないですよ!」


「空に向かって放てば問題ないかと思ったんだが」


「そんなわけありません!」


「気をつけるよ」


 エレナは「そうしてください!」と頬を膨らませた。


「それにしても、魔法を使える日が来るとはな……」


 ソウマは右手の手のひらを見る。


(ステータスだけじゃなくて、習得した魔法も地球に反映されるのかな? もしそうなら、俺は地球で唯一の魔法を使える剣士になるぞ!)


 日本に戻ったときのことが、今から楽しみでならなかった。

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