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異世界でレベルを上げられるようになった俺、現実世界で最強になる  作者: 絢乃


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072 ナンカンの提案

 ソウマたちが自己紹介を終えると、サナエがソウマに尋ねた。


「ウチのダイスケと知り合いみたいだけど、どういう関係?」


「ナンカンさんには、以前、ダンジョンに連れて行ってもらったんです」


「ダイスケがソウマくんを?」


 サナエは怪訝そうにナンカンを見た。

 ナンカンはギクッとして目を逸らす。


「他にも誰か一緒だったんじゃない? 例えば女の子とか」


「はい、マイも一緒でした」


「なるほど、そういうことね」


 サナエは状況を理解した。

 しかし、同時に疑問にも思った。


(ダイスケの様子を見る限り、いつもどおりナンパに失敗したってだけじゃないようね。かといって、ソウマくんを見る限り、ダイスケに嫌悪感を抱いている様子はない。すると……)


 サナエは少し考えてから答えを出した。


「ソウマくん、君って帝栄の中だとどれくらいの腕なの?」


「一番です。自分で言うのもどうかと思いますけど……」


「やっぱり。ダイスケがイキる気力を失うほどの実力ってことは相当ね。建前はウチのPTが引率する側だけど、この様子だとウチが寄生させてもらうことになるわね」


 サナエは苦笑した。

 その頃、ナンカンは――


(落ち着け俺、諦めるな。まだチャンスはある……! 今日のためにキメてきたんだ。童貞を卒業するんだろ!)


 必死に自分を鼓舞していた。


(幸いなことに神代のPTは可愛い子ばかりだ。マイちゃんは前回の件で絶望的だから、狙うならレイカちゃんかシオンちゃんだな)


 ナンカンの頭に、レイカやシオンとまぐわう己の姿が浮かんだ。


(どうにかして神代を引き離そう。そうすれば俺のイケイケ無双ぶりでメロメロにできる!)


 ナンカンが無言で考えている間に、ソウマとサナエは話を進めた。


「帝栄からは引率するようにとしか言われていなくて、細かいことはこちらで決めていいことになっているのよね。だから、希望のダンジョンとかあったら、そこに連れて行ってあげるわよ」


 サナエは「ただし、レベル14以下のダンジョン限定ね」と付け加えた。

 彼女のレベルが14なので、引率できるレベルの上限が14なのだ。


「俺は特に希望とかないけど……みんなは?」


 ソウマはマイたちに話を振った。


「私はどこでもOK!」


「私もお任せするわ。ダンジョンのこと、詳しくないから」


「わ、私も……! たぶん、どこのダンジョンでも寄生しちゃうと思います……。レベルが低いので……」


 マイたちが答えると――


「じゃあさ、レベル10のヴァンパイアの城にしようぜ!」


 ナンカンが元気よく言った。


「ヴァンパイアの城って、私たちが攻略したことのないダンジョンじゃん」


「さすがにまずいだろ」


 サナエだけではなく、寡黙な藤岡も否定的な言葉を口にした。


「いやいや、だからこそいいんじゃないか!」


 ナンカンは人差し指を立て、ここぞとばかりに捲し立てた。


「ヴァンパイアの城は敵の数が少ないから危険度が低い。それでも俺たちが攻略できていないのは、道中で二手に分かれる必要があるからだ。普段なら三人PTのウチは厳しい。しかし、今回は帝栄のエリートPTも一緒だ。二手に分けても問題ない!」


「なるほど、ダンジョン内に入ったら俺たちのPTとサナエさんのPTで別行動ってわけですか」


「違うよ神代くん! そうじゃない!」


「え?」


「それだとプロの戦いを見学させてあげられないだろ? だから、神代くんとサナエとマイちゃんの三人で片方を担当し、もう一方は俺とヨウイチ、レイカちゃんとシオンちゃんで担当しよう!」


 この発言に、ソウマ以外は呆れ顔になっていた。

 ナンカンがナンパ目的でPTを分断したがっていると分かったからだ。


「それいいじゃん! 賛成! ソウマと一緒なら安心だし!」


 それでも、マイはすかさず乗っかった。


「両PTのリーダーを片方に固めるのはまずいでしょ」


「大丈夫だってサナエ! こっちには俺とヨウイチがいるんだ。それにレイカちゃんもプリーストだから、信頼と安心のプリースト二枚体制だ! 守りが堅くて俺の火力もある! 問題ないって!」


「私はソウマくんと別行動になるの、不安だなぁ……」


「問題ないよシオンちゃん! 神代くんは強いけど俺も強いから! サナエだってさっき言ってたろ! 安心しな! 俺が守ってやるよ!」


 ナンカンは真っ白な歯をキラリンと輝かせながら、親指をグッと上げた。


「ウチのナンパ野郎はこう言っているけど、ソウマくんのほうは大丈夫?」


 サナエが尋ねた。


「俺は何だってOKです。ただ、シオンのレベルが低いから、シオンはこっちのほうが安全かなぁとは思いますが……」


「「いやいやいやいや!」」


 マイとナンカンが同時に反応する。


「神代くん、安心してくれ! シオンちゃんもレイカちゃんも、俺とヨウイチが命懸けで守るから!」


「ダイスケのゲスな企みに協力する形になるのは癪だけど、安全面に関しては気にしなくて大丈夫よ。ダイスケが火力の要なら、ヨウイチは守りの要だから。ダイスケを盾にしてでもレイカさんとシオンさんのことは守るわ」


「サナエさんがそう言うなら……」


 こうして、対象ダンジョンや方針が決定した。


(よっしゃああああ! これでレイカちゃんとシオンちゃんをナンパできるぞ! ヨウイチはサナエと違って静かだから邪魔しないし、俺の時代到来じゃん!)


 ナンカンがいやらしい目つきでレイカとシオンを見る。


「ふふ、よろしくね、ナンカンさん」


 レイカはナンカンの下心に気づきながらも余裕の笑みを浮かべた。


「よ、よろしくお願いします……! 少しでもお役に立てるように、が、頑張ります……!」


 シオンは何度も頭を下げた。


(レイカちゃんはちょっと男慣れしている感じで厳しそうだな。よし、今回のターゲットはシオンちゃんに決定!)


 ナンカンは「ぐへへ、ぐへへへ」と気持ち悪い笑みを浮かべた。


 ◇


 サナエが手続きを済ませて、ソウマたちはレベル10のダンジョン〈ヴァンパイア・キャッスル〉に移動した。


 転移後の初期地点は城内1階のエントランスホールだ。

 背後の扉は閉ざされており、開くことも壊すこともできない。

 正面には左右に伸びる階段があった。

 周囲に敵はおらず、場が静寂に包まれていた。


「見てのとおりなんだけど、一応、説明しておくわね」


 サナエは振り返り、ソウマたちを見た。


「左右の階段を上って、それぞれの扉を開けると、その先に魔物がいる。で、魔物を倒した先にはスイッチがあって、それを押すと次のフロアに進める。これを2~3回繰り返すと、最奥部のボス戦が待っているわ」


「二つのPTが合流するのはボス戦の直前ですか?」


 ソウマが尋ねると、サナエが「そうね」と頷いた。


「実際に辿り着いたことがないから断言できないけど、情報によれば、ここのような敵のいないエリアで合流できるみたい」


「なるほど。PTを分断させる必要があるのは、スイッチを同時に押させないとダメだからですか?」


「そういうこと。ただ、厳密には同時じゃなくて、数分程度ならラグがあっても大丈夫。だから、足の速いPTだと戦力を集中して片方ずつスイッチを押すという攻略法を使うわ。ただ、ウチはメインの火力がダイスケしかいないし、じっくり確実に戦うタイプだから性に合わないのよね」


 サナエは背中に担いでいる大きな弓を左手で持った。


「左右の扉はどちらを選んでも同じよ。だから私たちは空いているほうにしましょ」


 ソウマとマイが「はい!」と声を弾ませる。


「シオンちゃん、右と左、どっちがいい? シオンちゃんが決めていいよ! なんたってこの世界の主役はシオンちゃんと俺だからね!」


 ナンカンは早くもシオンに猛アピールしていた。


「えっと、私は……その、どっちにしようかな……うぅぅぅ」


 シオンは助けを求めてレイカを見る。


「右にしましょ」


 結局、レイカが決めた。


「よーし、じゃあ、俺たちは右だ! 行くぞヨウイチ!」


「はいよ」


 上機嫌なナンカンに対して、藤岡は淡々とした様子で続く。


「ま、またね、ソウマくん!」


 シオンがペコリと頭を下げる。

 ソウマは「おう!」と笑顔で送り出した。


「マイ、どうせ今回もチャンスを活かせないだろうから先に言っておくわね。どんまい!」


「うるせー! レイカ、あんたは途中で魔物にやられちまえ!」


 マイが「べー!」と舌を出す。

 そんな彼女を見て、レイカはクスクスと笑った。


「さて、私たちも行こっか」


 ナンカンたちが右の扉に入ったのを確認すると、サナエが言った。


「はい! よろしくお願いします!」


「ソウマには遠く及ばないけど、私も頑張ります!」


「期待しているわ。私は敵の妨害や攻撃のアシストが専門で、戦闘力自体は間違いなくあなたたちより低いから。寄生させてもらうわね」


 サナエは優しく微笑んだ。

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